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愛しい君に、全てを捧げる

 ミノルはコンビニ袋をぶら下げて城内を歩いていた、案内を断り玉座へ出向くが目的の人物は不在である。ならば、とトモハルの小部屋へ行けばもぬけの空だ。

 首を傾げる、案内を頼めばよかったと後悔したが適当に誰かを捕まえて、何処にいるのか尋ねようと思った。しかし、場内は忙しない。声を駆けづらいほど皆動き回っていたので、暫しその様子を眺めていた。

 その中に慌てふためき走り回っている見知った姿を見つけ、ミノルは小走りで後を追う。


「何してんの?」

「ミノル様っ」


 トモハルと仲の良いコックのロバート、そしてメイド数名だ。手に氷入り水差しを持っているメイド、食事のトレイを抱えているメイド……ひょっとして病気になったのだろうか、とミノルは思った。

 皆は、ある部屋の前で立ち止まる。その部屋は昔、マビルとトモハルの部屋だった。今は時折マビルが使用しているだけだと、認識していたのだが……。

 どういう状況なのか訊く前に、ロバートが歯軋りをして呟く。


「三日目です」

「へ?」


 複雑な感情が混ざっているような声だった、呆れ返っているようでもあり、怒っているようでもあり。


「休暇は確かに七日で、まだ期日は過ぎておりませんが! 三日! 三日もっ」

「何が何が何が何が」


 わなわなと身体を震わしているロバートの代わりに、メイドが困ったようにミノルの腕を引っ張る。


「……三日間、出てこられないのですわ。トモハル様」

「死んでねぇよな?」


 足を踏み鳴らし始めたロバートを放置し、メイドはトレイをミノルに見せた。美味しそうな食事が並んでいる、ミノルも時折食べるが、このコックロバートの腕前は確かだ。日本人にも食べやすい味付けになっており、勇者一同感心したことがある。腹が減ってきたので、思わず手を伸ばしかけた。

 しかし気になる。トモハルの分だけではないことは、皿の数が物語っていた。カップも二セットある。まぁ、普通に考えてマビルとトモハルの分だろうとは思ったのだが。


「食事は……このように運んでおります。三食きちんと空になっておりますし、その心配はないのですが……」

「ん? なら、何してんの?」


 ミノルも昔、買いたてのゲームは徹夜で進め、部屋に籠もったことがあったが。……気まずそうに皆が視線を逸らしたので、聞かないほうがよいのかとも思ったが。

 その時、ドアが勢いよく開いた。

 一斉に皆、凝視する。

 途端、黄色い悲鳴を上げたメイド達。耳を塞いで顔を顰めたミノルとロバートは、唖然とトモハルを見た。

 室内は、暗い。カーテンを閉めきっているようだ。


「マビルが……喉渇いて。水が欲しい」

「は、はい、こちらに」


 廊下から差し込む光に、眩しそうに瞳を細めたトモハル。

 じっとりと汗ばむ額、上気する頬に息遣い、さらりと薄いローブを羽織り、腰を紐で簡単に縛ってあるだけの姿。胸元は肌蹴け、細身ながらも程好い筋肉の男らしい裸体が見えた。

 メイドは赤面しつつ小刻みに震えながら、トモハルに水差しを差し出した。指が、触れた。


「ごふぅ!」

「ぎゃー! メイドがトモハル様の色香にやられたっ! 救護ー救護ーっ」


 間近でトモハルを見たメイドの一人が、卒倒し床にひっくり返る。

 続々と連鎖反応で倒れていくメイド達、慌てて食事のトレイを受け止めたミノルは、トモハルとようやく視線が交差した。


「あ、えーっと。遊びに来たけど……」

「取り込んでる。今度にしてくれないか、ごめん」

「ん、んん」


 トレイを渡し、慌ててコンビニ袋を手渡したミノル。トモハルは汗で濡れた髪を書き上げながら、袋の中身を見た。

 ペットボトルが三本入っていた、ミノルとトモハルと、マビルの分だろう。遊びに来たついでに買ってきたものだった。

 そしてチョコ菓子に、栄養ドリンク。

 ……仕事で疲労が溜まっていたトモハルに、度々栄養ドリンクを届けていたミノルは、いつものようにそれを買ってきたのだ。

 トモハルは、力なく笑った。


「助かったかも」

「うーぉえーっと、また、来るな」

「悪い」


 ドアが、閉まる。

 沈黙。

 倒れているメイド達と、立ち尽くしているロバートとミノル。

 中で何がどうしてどうなっているのかくらい、ミノルにも判断出来た。

 沈黙。

 恐る恐る、ドアの向こうを瞳を細めて見つめながらミノルは引きつった声を出した。


「三日?」

「三日です、現在三日目です」

「な、なんて奴……!」


 淡々と答えるロバートに、項垂れるしかない。



「マビル、水。紅茶もあるよ」

「飲む……今、朝? 夜? 何時?」

「知らない」


 ペットボトルを手渡し、マビルを抱き起こして飲ませている間もトモハルは全身に口付けている。ペットボトルに口をつけたが、身体がトモハルに反応するので上手く飲めないマビルは、か細く半泣きの声を出した。


「飲めない……」

「なんとか飲んで」


 愛しくて愛しくて、一時も離れられなくて。このまま、この状態が続けば好いのに、と。

 眠くなったら、二人で抱き合って眠り。起きたらまた、愛の言葉を囁き合い、身体を重ねる。

 その繰り返し、繰り返し。

 そうしていないと、発狂しそうで。不安で仕方がない、温もりが消えたら、耐えられない。


「マビル」

「ん」

「愛してる」

「ん」


 ……二人で、一緒に居よう。

 ずっとこのまま、一緒に居よう。

 朝も昼も夜も、共に過ごそう。

 もし離れる時間が出来ても、互いのことを想っているよ、忘れないよ。

 急いで帰ってくるよ。


「愛しているよ、マビル」

「愛してるよ、トモハル」




お読みいただきありがとうございました、明日完結です(^^)

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