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聴かされた真実に

 二人を引き離したミノルは頭を抱えて座り込み、、赤面したマビルは俯きながらトイプードルを店員に返した。一人、トモハルだけが仏頂面でミノルを睨みつけている。途中で止められて不完全燃焼なようだ。


「お前ら、自重しろ。つーか、まさかこんなとこで会うとは思わなかった」


 起き上がり、顔を引き攣らせているミノルと、その隣ではココが苦笑し会釈する。


「こんにちは。今からランチ食べるけど、一緒に行く?」


 当然の遭遇にマビルはトモハルの背に軽く隠れた、ミノルは顔見知りだが、ココとはあまり面識がない。

 女に対しては、特に人見知りが激しいマビルである。


「苺のデザートだらけの、ブッフェに行くんだよ」

「苺」


 マビルが興味深そうに呟いたので、不本意ながらトモハルは同意し首を縦に振る。本当は、二人で食べたかったのだが仕方がない。

 四人でホテルのスカイラウンジへ出向いた、女性客で溢れ返っているのは苺のせいだろう。

 ブッフェ形式にあまり慣れていないマビルを、優しくサポートしながらトモハルは一周して席に着くと食べ始める。

 軽い緊張で口数少ないマビルだが、三人の会話に聞き耳を立てた。

 三人、というか二人だ。トモハルは気を使ってだろう、マビルの隣で静かに食事している。


「そーいえばさ、お前らホント仲いいのな」

「ね、変わってないよねー」


 呆れ返っているミノルに、羨ましそうにマビルを見ているココ。


「憶えてる? アサギを救う為にさ、みんなの記憶を消す時。トモハルがさぁ『俺はアサギよりマビルが大事だから、嫌だー!』とか叫んで協力しなかったんだよなー。あたいさ、あれ見たときトモハルって凄い男だな、って思ってたよ」

「な、何それ?」


 ココの発言にマビルは思わずフォークを皿に置いて、話しかけた。

 当の本人は平然とその隣でトモハルは食事を続けているので、ココはミノルと目配せして語り出す。


「知ってるかな……アサギがね、ちょっと殻に閉じこもってた時があったんだよな。殻から出てこなくて、アサギが心配だったから皆で助ける方法を考えた。その唯一の方法が、勇者であった記憶を失くす事。

 辛かった記憶を消去するしか、手立てがなくてさぁ。で、他のミノルやトモハル達も記憶を消されることになったんだ」

「そ。で、俺達は意見一致で記憶を失くす魔法をかけてもらうことにしたんだけど、トモハルが逃亡したんだよ。マビルを忘れたくないから、って言ってさ。アサギが死ぬか死なないか、の時だろ、皆で追いかけた、説得した。……でも、トモハルは」


 黙々と食事しているトモハルを、三人が見つめる。

 視線を感じ、水を飲みながらミノルを軽く睨みつけるとようやく口を開く。


「俺が好きなのはマビルだ、アサギじゃない。どちらが選べといわれたら、マビルを選んで当然だろ。

 ミノルだって、『アサギを救うために記憶を失くして欲しい、ココのことは忘れてくれ』って言われたら、拒否するだろ?」


 トモハルの横顔を見つめながら、激しい動悸に襲われたマビル。全身が震えた、嬉しすぎて。最初からアサギではなく、トモハルは自分を見ていてくれたと、ようやく気付けた。

 うっとりとトモハルを見つめるマビルは視界に入れないようにして、ミノルは天井を見上げて低く唸る。


「……アサギを選ぶかも、俺だったらほげあぅえいいいいっ」


 アサギの名が出た瞬間に、思い切りココがミノルの頬を捻り上げた、悲鳴を上げるミノル。店員が不安顔で近寄ってくるが、ココはにこやかに笑みを返す。それでも、テーブルの下ではミノルの足を追い討ちかけるように踏みつけていた。悲鳴を上げさせないように、バゲットを口に突っ込みココの攻撃は続く。

 深い溜息を吐いてトモハルは、マビルを見た。

 マビルは。思わず、控え目にトモハルの腕を掴んだ。

 言葉は出なかった、けれどとても嬉しく、信じられないことだった。生きているアサギを救う事よりも、死んでいてもう会えないであろうマビルを忘れないことを選んでいたトモハルに。

 ……嬉しすぎて、いや、アサギは助けて欲しかったが、それでもやはり嬉しくて、嬉しくて。

 思わず、泣きそうになる。

 震えながら掴んだマビルのその手を、そっと上から握り、トモハルは小さく笑う。


「……居辛い」

「……らぶらぁぶだ」


 赤面し俯いたままのマビルと、それを優しく見下ろして髪を撫でるトモハル。

 ミノルとココはコーヒーをまったりとすすりながら、言葉をかけられなくて暫しそこに座ったまま。……また、苺を食べ始めた。

 することがなかったので、仕方がない。苺の甘い香りが、充満した。


 ミノル達と別れて、適当に歩く。マビルは化粧直しに入ったので、トモハルは一人、外で待つことにした。

 鏡に向かって念入りに化粧を直していたマビルの後ろを、二人の女性が通り過ぎトイレへと歩いていく。


「ねぇ、外に居た男の子、超かっこよくなかった?」

「あぁ、あの細身の子。うん。いいよね~」


 耳がピクピクと動く、グロスを塗っていたマビルの手が止まる。途中でやめて慌てて外に飛び出すと、トモハルを捜した。


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