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トイプーよりも可愛い君に、キスがしたいキスがしたいキスがした(略

 くすぐったそうに笑いながら歩く二人は、誰の目から見ても仲睦まじい幸せ絶頂の恋人同士だった。人目を惹く美男美女、圧倒的存在感に道行く人々が振り返る。しかし、この二人にはどうだって良い事だ。以前は注目を集めることが快感であったマビルだが、今は気にならない。

 そんな二人は、ペットショップで足を止める。硝子越しに、愛らしい動物達が見えた。近寄り、じっとその中の一匹を見つめているマビルは首を傾げる。茶色の毛が温かそうな子犬である。


「ぬいぐるみ」

「違うよ、トイプーだよ」

「といぷー?」

「トイプードルね、中入ろうか」

 

 賑わう店内は、新しい家族を迎えるため見ている人もいれば、食事やおやつを購入する為に来ている人、二人の様に立ち寄ってみた人もいる。気になった子は抱かせてもらえるらしく、店内では笑顔が耐えない。

 茶色のトイプードルを見ていたマビルに、店員がショーケースから出して持ってきてくれたが、慌ててトモハルの背に隠れて首を横に振った。


「あ、あたし、ワンワンなんて、触ったことないもん!」

「大丈夫、クロロンやチャチャと一緒だよ」


 猫には慣れているが、犬に触れた記憶はないマビルは恐ろしそうに丸い瞳の子犬を見つめる。苦笑いしたトモハルが先に店員から受け取ると、優しく撫でながらマビルへと差し出した。

 おっかなびっくり、振るえる手で抱き締めたマビル。

 ペロ、とその顔を嘗めて嬉しそうに尻尾を振ったトイプードルを見て、この子犬を家族として貰おうか、とトモハルは思った。懐いているようだし、二人で育てるのも愉しそうだ。何しろマビルが興味を示していた、それだけで十分その価値がある。値段をさり気無く見たトモハルだが。


「ふふ、可愛い子だから喜んでますね。面食いなんだから……」

「雄は要りません、雌をお願いします」


 店員が微笑ましくそう言うが、冷ややかな声でトモハルが不機嫌そうに言い放ったのでその場の空気が凍りついた。トイプードルも空気を感じ取ったのか、きゅぅん、と怯えた声を出すと硬直している。

 マビルにもこれは解った、嫉妬だ。犬に嫉妬しているらしい。


「べ、別にいいよ、トモハル」

「でも、二人で育てたら楽しそうだし。クロロンとチャチャがいないし。とりあえず雌の子にしよう、雄は駄目だ」


 据わった目で未だにマビルに抱きとめられていた子犬を見つめていたトモハルに、引き攣った笑みを浮かべるしかない店員。


「トモハルが居なくて寂しくて、二匹と一緒に遊んでたの。……トモハルが居てくれたら寂しくないから、大丈夫だよ」


 肩を竦めて大袈裟な溜息を吐くと、艶やかな毛並みのトイプードルを撫でながら、マビルは恥ずかしそうに微笑する。

 マビルの本音だった、素直に口に出された可愛らしい本音を聞いてしまったトモハルは脳内が沸騰する。


「可愛い可愛い可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい、キスしたい、キスしたい」

「えぇ!?」


 そのままマビルににじり寄る、鼻息荒く目が血走っている。

 正直、怖い。


「ちょ、ええぇ」

「可愛い可愛い、キスしたい、キスしたい」


 流石に怯えて逃げるマビルだが、壁に追い詰められる。このままでは胸にいる子犬が暴走したトモハルの重みで潰されてしまいそうだった、止めるべきだと判断した。


「ワンワン、潰れる! 待って、待って、お願い待って!」

「キスしたいキスしたい、キスしたい」

「ちょっとーっ」


 悲鳴を上げたその唇を、問答無用で塞いだトモハル。

 寂しかったから猫を飼っていた、トモハルが要れば寂しくない……そんなこと言われたら、理性が飛んでしまう。

 本日、二回目の人前でのキスは相変わらず濃厚である。

 歓声が上がる店内と、一斉に子供達の目を塞ぐ親達、顔面蒼白で飛び出してきた店長と店員達の中で一向に手を休める、もとい舌を休める気などないトモハル。


「何やっとんじゃーいっ! ごらぁっ」


 しかし、突然怒鳴り声と共に後頭部を殴られた。  

 後方からの攻撃に、怒りの形相で振り返ればミノルとその恋人のココが引き攣った笑みを浮かべていた。


「知人がそういうことしてると、俺が恥ずかしいから、やめろっ」



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