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キスキスキス!

間違えてデータ更新していました(滝汗)。

訂正しました……。 

 寂しかった自分にようやく気付いてもらえたマビルは、潤む瞳でトモハルを見上げる。嬉しかった。


「あの日、ディナーは……どうしたの?」


 バレンタインの、あの日のことだ。二人が決定的に離れることになってしまった、あの日。マビルが『彼氏が出来た』と数日前に言い出さなければ、その日トモハルは告白していた。

 誤解は随分前に解けていた筈だ。


「トビィと、行ったの……疑うなら、トビィに聞いて! ホ、ホントはトモハルと一緒に行きたかったのに、とも、トモハルはっ、あたしを、置いて、会議にばっかりでっ。可愛くしても、見てくれないっ」


 ようやく、トモハルは不可解に思っていたパズルを完成させた。マビルは、数年前から自分の事を気にかけていてくれて。けれど、意地っ張りだから上手く気持ちを表現出来ず……彼氏がいると嘘をついた。あの時、止めて欲しかったのかもしれない、と、そこに行き着いた。

 それで合っている、間違ってはいない。


「ごめん……寂しい思いばかり」

「ホ、ホント、ホントだよっ、最悪っ」

「俺のことなんて眼中にないと思っていたから、せめて気にしてもらおうと思ってた」

「ち、違う、違うっ。あ、あたしは、ま、前から」


 す。

 好き、と言おうとしてマビルは赤面し俯く。しかし、トモハルは唇の動きで、何を言おうとしたのか分かった。穴が開くほど見つめていたのだから、分からないはずがない。

 ようやく、真実を見つける。散りばめられていた疑問が、一つにまとまった。

 トモハルも赤面する。二人して赤面し、繋いだ手は熱く、それでも離す事は出来ずに。一層力を強める。


「もっと、早くに俺が……マビルに告白してたら」

「だ、だって結婚してるんでしょう!? なの、なのにっ」

「……してないよ、結婚は」

「どういうこと?」


 喉が渇いたので二人は、目の前のコップに注がれた冷たい水を同時に飲み干した。無言で胃の中に届けられた食べ物を押し込んだ、それまで沈黙が続く。

 ようやく一息ついて、飲み物で胃を落ちつかせる。


「あの城に住む為には俺の”知り合い”では無理だったから。……結婚していると皆を思わせなくてはいけなくて。それで、婚姻届を書いてもらったけど提出はしてないよ。皆には見せたけど」

「な、ならそれを説明してよ、私に分かるように!」

「説明したら、断られそうだったから」

「あ、あたしの想いを勝手に都合よく書き換えないでっ。あたし、あたしはトモハルと結婚して、夫婦なんだと思って……なのに、いい加減な態度ばっかりでホント苛々するしどうしたらよいのか分かんないしっ」

「え」


 沈黙が再び始まる。

 それを破ったのはマビルで、繋いだ手に爪を立てる。


「あたしっ。好きでもない男とあんなに長いこと一緒にいないんだからっ」

「もしかして……お互い、ずっと好き同士だった?」


 唐突にそう言われて口篭ったマビルだが、直様反論する。瞳を泳がせながら、恥ずかしそうに身体を揺らしながら。


「あ、あたしは好きじゃないからね、嫌いじゃないけど」


 そう言ってそっぽを向いたマビルの顎を引き寄せて、無理やり口付けしたトモハル。周囲でざわめきが広がるが、お構いなしだ。驚いて目を丸くしマビルは暴れた、だがびくともしない。


「おかーさん、あの人たち、ちゅーしてるー」

「こ、これっ」


 子供に指を指されようが、店長に止めに入られようが。恥ずかしさのあまりマビルが背中を強打していようが、トモハルはキスをやめなかった。

 ようやく気が済んだのか、糸を引く舌をマビルの口内から出す。唇の周囲に付着した唾液を舌で舐め取ると、脱力中のマビルの髪をそっと撫でる。熱を身体中に帯びて、敏感になっていたその身体は跳ね上がった。


「昨日の続きをしよう、マビル」


 咳込んだマビルは、身体を震わせつつ嬉しそうに恥ずかしそうに俯いた。 昨日の続きというのは、夜の……いや、朝まで続いていた”キス”の先のことだろうかと思い、想像したのだ。


「同じ場所で、デートをしよう。やり直そう、一から」


 爽やかな笑顔で微笑んだトモハルに、拍子抜けしてソファからずり落ちそうになったが抱きとめられる。


「もう一度、初めから。マビルに寂しい、哀しい思いをさせたから、やり直す。

 好きだ、俺と付き合って。

 二人で、色々決めよう、行きたい場所も、何を買うかも、二人で決めるんだ。さぁ、行こう」


 マビルのバッグを手にし、手を握ってトモハルは店を飛び出した。

 それは久し振りに見るトモハルの笑顔で、子供の時と同じ無邪気な笑顔で……マビルの好きな顔だった。いつも傍にあった、あの笑顔だった。

 ただ、やはり大人になっていたので可愛いだけでなく、男らしく逞しい表情も見え隠れしている。

 そこに軽く戸惑いつつも、その強引さが心地良く。胸が躍る。


「あらあら、可愛らしい方ですからどれもお似合いですね」

「試着した服、全部下さい。似合ってるんで」

「!? そんなに要らないよっ」

「これから色んな場所を二人で廻るんだ、服は必要だろ」


 洋服を、マビルに選んだトモハル。一着でよかったのに、何故か四着も購入してもらえたマビルは、唖然とトモハルを見上げる。何件も店を廻って、似合いそうな衣服を率先して差し出してくれる。

 移動もマビルの歩幅にあわせてゆっくり歩いてくれる、手を優しく握り締めて街を歩いた。

 昨日とは、違う世界。

 場所は同じでも色彩が艶やかだ、空気が暖かく安堵出来る。周囲など気にしない、隣にいる自慢の恋人を見上げるだけだ。


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