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◇天空城での攻防

 今日も早朝起きて、自室へ戻る。マビルと別れて、部屋に戻る。軽く咳して、くしゃみして。

 ……やっぱ寒いよな、1月だしな。

 朝までの数時間、冷え切った小さなベッドに潜りこんで手を見つめながら仮眠。

 というのが、日課。

 同じ城に居るはずなのになかなかマビルには、会えない。向こうが避けているんだろう、当然か。

 今日も街の発展について会議に視察、楽しいけど疲労感。けれど、この計画を実行した以上、中途半端には出来ない。

 するもんか。

 と、思ったら今日はマビルと擦れ違えた。嬉しくて声をかける、でも、無視して去っていくマビル。

 ……頭をかいて、不安そうに見ているメイド達に苦笑い。肩を叩いてそんな顔しなくていいよ、と声をかけた。

 そりゃ、不安だろうな。

『お出かけしてくる。……お空のお城に』


 マビルの部屋に向かったら、そんな紙が置いてあった。律儀に言った事を覚えていてくれたんだ、思わず笑みを浮かべる。

 天空城のことだろう、あそこなら常に警備も万全だし安心だ。

 他の街だと治安が悪い区域もある、特にマビルに対して恨みを持つ人間とて……少なくはないと知っているから。

 そうなんだ。

 マビルは、以前莫大な魔族や人間を殺害しているし、破壊もしている。

アサギ、という最強の勇者で救世主で絶対的存在である双子の妹。

 その肩書きだけで護られると思っていたら、大間違いだった。そのアサギの双子の妹だから、罰を受けていない……と思う者達が存在する。

 だから、俺には権力が必要だ。マビルを護り抜く力が必要なんだ。力はあるはずだ、この惑星なら五本の指に入るだろう。

 一応勇者だ、トビィには勝てないだろうけど他なら……五分五分でいける。

 そして国王になった、独裁するわけじゃないけど、マビルを悪く言うなら許さない。

 俺は、今度こそマビルを護る。例え四六時中傍に居られなくても、護り抜く。

 アサギが言ったのは、そういうことだ。

 窓から、空を見ていた。澄み切った空に、大きな雲が一つ浮かぶ。天空城があるのかもしれない、あそこに、マビルが。

 ……妙な胸騒ぎに、背筋が凍る。な、なんだ? 思わず俺は城から出て、天空城へ向かった。


 爆音が響く天空城、何があったのか攻撃を受けていた。内部から、だ。馬鹿な!? 誰だっ。

 そして視界に飛び込んできたのは、マビル。前方に、トランシス。

 トランシス。

 あ、アイツ、封印破って出てきたのか!? どうして!?

 思わず大声で怒鳴った。


「マビル、下がれ! 近寄るな!」


 声が届いたのか、届かなかったのか、無視したのか。マビルは無謀にもトランシスに攻撃を加えた、思わず舌打。

 勝てない、今のマビルでは100%勝てない。俺にだってそれくらいは感じ取れる、トランシスの魔力は以前のものと比べられないんだ、跳ね上がりすぎている。

 どういうことだ、何故上がった!?

 今はそれどころではない、マビルを救出しなければいけない。

 周囲には俺以外に戦えそうな人物が見当たらない、一人でやるには相手が悪いが、……本気で行く。


「離せよ!」


 首を締め付けられているマビル、愉快そうに手に力を籠めてトランシスは俺に微かに視線を投げかけた。

 何だ、余裕か。


「マビルを、離せよ!」


 剣を引き抜く、その名を刻め”セントガーディアン”!

 その武器の名において、俺はマビルを護らなければならない、大事なマビルを護らなければならないっ。トランシス目掛けて剣を突き出す、マビルを楯に取られているから本気と見せかけて途中で軌道を変えた。


「ようこそ、騎士様。成り上がりの勇者の要。惚れた女すら護れない腑抜けの国王様。……最もアサギとマビルの二人に近い男」


 顔を歪めて嘲り笑うトランシス、耳を貸すな、俺。狂気の光を灯した瞳、監禁生活で精神崩壊したのか、そんな筈はないけど……。

 手を狙う、マビルを掴んでいるあの手を狙う。


「助けたい気持ちは理解したけど、甘いよ、お前」


 トランシスの突き出した手から、魔法が来ると直感。相手の属性は炎だ、やり難い相手だが防御くらいなら出来る。

 空気の温度が急上昇、っ! しまっ!

 感じた瞬間、全身に激痛が走った、壁に叩きつけられたようだ。掌からの一撃を予測し、防御したけれど違った。

 ……周囲を炎で囲み、止めで直線攻撃、だった。

 思わず背筋が凍りつく、とても精神を病んでいた人物の魔力とは思えない。

 口々に名を呼ばれ、回復の魔法を施された。攻撃は出来なくても、回復魔法なら得意な天空人が大勢いるから助かる。

 マビルを、助けないと。俺であの一撃だ、本気を出したらマビルの身体は。

 全身に、嫌な汗が吹き出して体温を奪った。想像するな、俺。

 脳裏を過ぎったのは数年前、マビルの身体が目の前で砕け散ったあの光景。冗談ではない、早く、早くマビルを!

 けれど思いとは裏腹に、膝が上手く動かない。

 何やってんだ、俺。下唇を思いっきり噛み、血を吹き出させた、舐め取る。腕に渾身の力を入れた、前を向けば何時の間にやらトビィが来ていた。

 ……助かった、これで五分五分でいけそうだ。唇をぬぐって、剣を構える。

 トビィにマビル、デズデモーナにオフィーリア、俺。五人、か。

 油断しなければどうにでも出来る筈、だ。


「……トビィにマビル、で、トモハル。申し分ないメンバーだ。誰か一人、殺せば多分アサギが出てくるよね」


 心底愉快そうに、笑いを含んだ声で告げるトランシス。対面のトビィは表情を変えなかったが、露骨にマビルは忌々しそうに目を吊り上げる。

 不安だ、酷く不安だ。

 トビィ、マビルを押さえてくれ。前に出させないでくれ、全く歯が立たないんだ。プライドが高いし、自分に絶対の自信を持つマビルだからこそ、危険極まりない。

 言ってる傍から、あぁ、マビルがっ。

 自分からトランシスに飛び込んで、呆気なくまた、首を絞められている。


「……いい加減にしろっ」


 トランシスの一連の行動が、アサギを呼ぶ為のものだとはさっきの台詞で理解した、けど。

 何だっていうんだ。

 狂気の沙汰、真の目的がそれかどうかすら怪しい気がする。ともかく、マビルを救わなければいけない。

 落ち着いて、狙う。出来る筈だ、負けはしない。

 一息、した。

 右手にセントガーディアン、左手に魔力を籠めて。

 殺すつもりがあるのかないのか、時折マビルの首を持つ手に力を籠めていた。俺を待っている様子だ、何故か解らないけど。

 一気に、ケリをつける。目的はマビルの救出だ、それ以外は考えない。

 剣先を回す、加速させながら正面へ走った。


「真っ向から勝負?」


 笑いを含んだ声も、気にしない。右手を大きく後方へ、突き出す勢いにのって身体も前へ。


「天より来たれ我の手中に、その裁きの雷で我の敵を貫きたまえ。眩き光と帯びる炎、互いに呼応し進化を遂げよ」


 唱えたのは得意な雷系の魔法だ、だが直接は当てない。トランシスの真後ろ目掛けて叩き落す、それが目的。

 悟られないように詠唱を、この程度なら短時間で完成させることが出来るようになった。

 舌打ちして直前に魔法に気づいたトランシスは、魔法防御されるその瞬間に剣を突き出す。

 マビルを掴んでいる右手を離すことはないだろう、ならば防御で左手を使うはずだった。その隙間に剣をねじ込む、突き刺す。

 ……入った!

 確かな手ごたえ、トランシスの絶叫で確信を持った。回転が加わった力で、深く差し込めたようだけど、そのまま一気に引き抜いて傷口に蹴りを叩き込む。

 マビルを掴んでいる右手の甲に剣を突き刺した、ようやく錆付いた鍵が取れたように、手がゆっくりと開いてマビルを解放した。

 慌てて抱き留めると後方へ飛んで、名前を呼ぶ。苦しそうに顔を歪めて、うっすら瞳に涙を滲ませて。

 見た瞬間、トランシスに対して殺意が湧き上がった。

 睨みつければ、現在トビィと交戦中だ。今のうちにマビルの回復を試みる、トビィなら上手く時間を稼げるだろう。

 トランシスを弱らせて、四人以上のメンバーで封印を再度試みるしか、あの暴走を止める手立てはない。

 何故急に暴走したのかが俺には解らないけれど、不意にアサギの声がした気がしたんだ。

 でも、きっと聞き間違いだろう、そんなわけは……ない。

 雑念を払って、マビルだけを考える。外傷はないけれど、首を捕まれた時点で精神的に恐怖感を覚えただろう。

 元々マビルはアサギと違って、直接攻撃が不得手だし、寧ろ戦闘自体も苦手なんだ。確かに魔力は高い、けれどそれは後方支援で初めて絶大な効果を発揮するのであってあんな前線では……無理なんだ。

 瞳を開いたマビル、俺を突き飛ばす形で立ち上がった。マビルの性格からして、再度交戦したがるだろうけど、止める。

 勝てない。

 ただ、マビルにはそれが解らないんだ。腕を何度も掴んで止めた、が、自棄になっているところもあるんだろうな、振り払われる。魔法の詠唱を試みているのだろうが、下手な魔法ではトランシスに軽く相殺だ。

 おまけに得意な魔法の属性が二人は似ているし、大魔法では隙が出来すぎる。


「ウザっ! 離してよっ」

「いいから大人しく護られてろよ!」


 俺を睨みつけて、敵意をむき出しにしているけど、ここで下がるわけにはいかないんだよ、マビル。

 思わずこちらも怒鳴り声になってしまった、強引に引き寄せて右手で胸に押し付ける。

 剣を、左手で構えた。腕の中で暴れているマビルだけど……悪いな、離せない。

 あのトビィが弾かれて、一旦下がった。

 俺に目配せをしていた、次は俺が時間稼ぎを、ってトコだろう。

 トランシスを中心にして、トビィとデズデモーナ、オフィーリアが間隔を開けて取り囲み始める。トーマの到着が近いのだろう、どうやらトビィを救う為に中に入ったオフィーリアが深手を負ったらしい。

 そちらに専念している間の、時間稼ぎ。

 右腕に力が籠もる、マビルにだけは、絶対に傷をつけさせない。下唇を噛み締め、笑いながらこちらへ向かってきたトランシスを睨み付けた。

 落ち着けば、五分五分でいける相手だと、思っている。

 ……あの日から俺だって必死で訓練した、マビルを再び見てから更に訓練した。

 あぁ、二度もマビルを失う事がないように、今度こそ護り抜く為に。

 大事な、子なんだ。泣かせない、苦しい思いをさせない、痛い思いをさせない、我侭を叶えていく。

 決めたんだ、絶対に。

 アサギが出来ない分も、俺がマビルを護り続ける。

 戦友として受け取った言葉、”自分が居られないからその分もマビルをよろしく”。今後降りかかるかもしれない厄災から、マビルを護り抜いて欲しい。

 あぁ、大丈夫だよアサギ。俺は決して、大好きな女の子を二度と死なせやしないから。


 キィィィ、カトン。


 奇妙な音を聴きながら、俺は必死でトランシスと交戦した。トランシスの手にしている剣が、まだ本来のものでなくて助かった。

 本物は厳重に封印されている、あの武器を所持されると流石に拙い。その剣なら、致命傷にはならない程度で傷を受けられる。

 マビルを必要以上に狙ってくるから必死で庇った、なんなんだ、コイツ。

 トランシスの武器には、アサギの加護がかけられているからVSアサギと言っても過言ではないんだ。


「大人しく、してろよ。マビルには二度と触れさせないっ!」


 剣へ、魔力を送り込んで。全ての俺の魔力を、流し込んで一撃で決める。一呼吸、二呼吸、三呼吸。

 俺の属性は、光。眩い光を天から放ち、制裁を加える。

 大それた技だけれど、取得出来たんだ。


「然るべき場所へと、還れ!」


 剣に、魔力を。鋭い突きの一撃を繰り出す、避けても無駄なんだ剣から放射線状に電撃が吹き荒れて標的に襲い掛かるから。

 そして捕らえる、最終的に剣先で。躊躇しない、例え元アサギの恋人であろうとも俺には関係のないことだ。剣先から逃れたけれど、電撃が無数に伸びては逃れられない。

 絶叫してその場で硬直したところで、トーマが駆けつけてきた。


「今だ!」


 トビィの声に、右腕を緩めてマビルの肩を抱く。嫌がって微かに暴れたけれど必死で押さえて、二人で同時に封印を施すんだ。

 ……アサギ、力を貸してくれないか。トランシスを押さえ込みたいんだ、マビルが痛めつけられた。二度と勝手に出てこられないように、封印したい。

 何度でも、護り抜こう。でも、極力怖い思いはさせたくないから、力を貸して欲しいんだ。

 目の前でトランシスはそれでももがいてやはりマビルを狙っている、何故だ。

 トビィの一撃でゆっくり沈んだトランシスを確認してから、俺は情けないけれどその場にひっくり返った。

 いや、ちょっと体力消耗しすぎたかな、あはは。結構斬られていたみたいだし、まぁどうってことないんだけど。

 マビルが渋々だけど回復魔法をかけてくれた、嬉しくて、幸せで。役得な感じ、へへ。


「よかった、無事で居てくれて」


 言ったら、何処かへ去って行った。

 マビルにしてみたら、プライドに傷がついたのかもしれないけれど……無事なほうがいいだろう?

 俺はその後、トビィと只管会話した。マビルも一緒に話を聞いていたけど、途中で抜けて何処かへ。

 どうも、アサギの居場所が発覚したから……トランシスが動いたのではないか、と。

 ある意味凄い、どうやって探知したんだろう。求めすぎた結果が、これらしい。

 その後、封印を強化すべく毎日交代で魔力を施す事になった。封印の場所で、それ以来トランシスは大人しく眠っているけれどその様子がどうも恐ろしくて、願い出て監視もつけて貰う。

 悪いけど、マビルに近づく危険因子は消しておきたいんだ。

 後日、一人でそこへ行ったら、不意にトランシスが瞳を開いてこちらを見た。哀しそうに笑って項垂れて、また瞳を閉じる。

 ……何か、言いたいんだろうか?



お読み戴きありがとうございます、今月か来月完結です。

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