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◆肩より少し上の髪で勝気で猫みたいな女が好きらしい

 食事と睡眠のため、嫌々城に戻るけれど。

 最近、気づいたことがある。

 どうしても気になったので、掃除をしていたフリフリ女たちに話しかけた。


「ねぇ、どうしてみんな同じ髪形をしているの? 流行?」


 そうなのだ、髪の長さが皆同じ。

 以前は長い髪を結っている人が多かったのに、どうしたんだろ。

 でも、城下町でこの長さはそうそう見かけない。


「え……流行といいますか」


 顔を見合わせ苦笑した彼女たちは、あたしを値踏みするように見やる。


「皆、()()()()()()()()に合わせております」

「……?」


 呆けてしまった。

 はぁ? 何だそれ、呆れた溜息が漏れるばかりで、言葉が出ない。

 トモハルの? 好みに? 合わせて?

 ば、馬鹿なの?

 あまりにも変な顔をしていたのか、全員が物珍しそうにあたしを見つめている。

 そんな中、一人が輪を離れて走り去り、すぐに何かを手にして戻ってきた。


「御存知ありませんか?」


 差し出された物体に目を落とすと、トモハルの絵が描いてあった。

 なにこれ。

 表紙がトモハルの……本、いや、情報誌。

 は? 

 ……そういえば、観光客用に情報誌を創るとかなんとか話があったっけ。

 いやでも、表紙にトモハルって、どうなの。

 開いた口が塞がらない。


「トモハル様への質問記事で、好きな女性について書かれていたものですから。皆こぞってこの通りに」


 誰、そんなバカげた質問をした奴は。

 そんな情報、観光誌に不要でしょ!

 ひったくるように手にした雑誌を、食い入るように見つめた。

 ええと、質問記事……何々。


『髪は肩くらいまでの女の子が可愛いと思う。動くと揺れて、爽やかな感じがするんだ。大人しい子より元気な、いや、勝気な子がいいと思う。猫みたいな』


 はぁ。

 ……な、何これ? ばっかじゃないのー! 何様ー!

 国王様か。

 唖然としていたら、雑誌を奪われた。


「初見ですか? マビル様はトモハル様に興味がありませんものね」

「国を挙げての企画ですのに、参加していただけなくて残念です」


 悪かったな、知らないよ、そんなくっだらない雑誌。

 えーえー、興味ないですよー、あんなへっぽこ勇者の国王なんか。

 無意味な会談を掲載する余裕があるなら、城下町のお店を詳しく紹介してよ。


「そんな記事、誰も読まないよ、需要がない。お金の無駄使いじゃん」


 そう吐き捨てると、女たちは当て付けるように雑誌を広げて読み始めた。


「大人気ですよ」

「観光客からも好評です。トモハル様の支持者は多いですから」


 そんな馬鹿な。

 信じられないけれど、気になって盗み見た。

 すると、『国王様の日常』とかいう記事に、女たちの中心で笑っているトモハルの絵が掲載されているのが見えて。

 死んでしまえっ! 

 あーもー、すっごい、うざい! うざいうざいうざいうざいうざい。


 部屋に戻り、食欲はないけどここのご飯は美味しいから普段通り食べ、入浴し、お肌のお手入れもそこそこに、ベッドに倒れ込む。

 疲れたのに、眠れない。

 あーあーあーあーあーあーああああっ!

 クロロンとチャチャがいたらよかったのに、二匹はいないし。

 最近は色んなところに遊びに行っているみたいだから、少し寂しい。

 あぁ、あたしを置いていかないで。

 悲しさと不快感に支配され、ベッドを壊す勢いで転がり続ける。

 でも、ようやく虚しさが勝って。

 瞳を閉じ、眠ろうとした。

 そんな時だ、トモハルが部屋に入ってきたのは。

 あたしは最大級に不機嫌。

 そんなあたしに気づかず、トモハルはお布団を持ち上げて入ってこようとしたから、さ。

 はっきりと、こう言ったの。


「……一緒に寝るの?」

「うん、いつも通り、一緒に」


 うん? いつも通り? 一緒に?

 そもそも、どうして今まで一緒に寝ていたんだろう。

 きょとんとしているトモハルが憎らしくて、枕を手繰り寄せぶん投げる。


「来ないで。あたしは一緒に寝たくないの」

「え?」


 見て分かるでしょ、あたしは怒り狂っているので、もう一つの枕もぶん投げた。

 あぁもう、枕が二個しかなくて腹立つ。

 肩くらいの髪で勝気で猫みたいな女と寝ればいいじゃないっ。

 悪いけど、あたしはっ。

 あたしは、嫌い! 

 嫌い嫌い嫌い!


「えっ、どうして? ほら、手を繋ごうよ。一緒に手を繋いで眠ると、安心できるだろ?」

「ウザッ。もう子供じゃないから、そんなことしなくてもいーのっ! 出てって! ここから出て行ってよっ」


 手を繋ぐと安心? いつ、どこで、あたしがそんなことを言ったの? 

 あんたが勝手に思い込み、手を繋ぎ始めただけじゃんっ。

 あたしは一緒にいたくない、手を繋ぐどころか、同じ部屋で息を吸うのも嫌っ。

 だって、だって、トモハルはっ……あたしじゃなくても良いくせにー!

 あたしは誰かの代わりになるような、お手軽な女ではないっ。

 思い切り胸を叩いて、部屋から追い出そうとした。

 罵倒しても、必死に殴っても、トモハルは何も言わずに狼狽えるだけだった。

 折角忘れかけていたのに、トランシスの言葉が蘇る。


『無関心』


 荒れ狂うあたしに原因を訊ねないのは、興味がないからだ。


「マビル、落ち着いて。急にそんな」

「急じゃないっ、前から思ってた! あたしたち、もう子供じゃないっ。手なんか、手なんか、要らない!」

「ふ、二人だと暖かいし」

「あたしは寒くないっ!」

「で、でも」

「だから、さっきから言ってるでしょ、うざいの! 顔を見たくないの! 一緒に寝るなんて、絶対に嫌っ」


 もし、あたしのことが好きだったら。

 違うだろって怒るとか、抱き締めるとかっ!

 そういうこと、してよっ!

 でも、トモハルは何もしてくれなくて。

 だから、部屋から追い出した。


「はー、はー、はー……」


 力いっぱい殴るようにして胸板を叩いたから、手が痺れた。

 情けなくて、涙が出る。

 一人で、ベッドに戻った。


「あたしは間違っていない。子供じゃない、一人で眠れる。大丈夫」


 そう、トモハルなんていなくても平気。

 それなのに、どうしてこんなにも胸が痛くて苛々して、苦しいの。

 むしゃくしゃして喉が渇いて、お水を飲む。


「……美味しい」


 このお水は、地球のもの。

 少し高価な天然水で、お肌に良いし、甘くて柔らかくて、美味しいのだ。

 ……トモハルのお母さんが飲んでいて、あたしも気に入ったの。

 そう伝えたら、いつでも飲めるようにトモハルが取り寄せてくれた。

 だから、いつでも部屋に置いてある。


「この頃は、優しかった」


 ペットボトルを一気に飲み干したら、喉を通る水があたしの溜飲を下げてくれて。

 あたしは、そっと。

 扉を開き、トモハルがいないか捜した。

 いなかった。

 待っていてくれたらいいな、と思ったけれど。

 いなかった。


「……あぁ、またやってしまった」


 部屋に戻って深く溜息を吐く。

 以前も追い出してしまった。

 ほとぼりが冷めたら戻ってくる気なのだろう、あたしの存在なんてそんなものだ。

 ふと、机に置いてある雑誌に気づく。

 あの変な雑誌だ!

 気持ち悪っ、自分の特集を読むんだ。

 自己陶酔にもほどがある。

 読もうとして何気なくパラパラとめくったけれど、さっきの女たちに囲まれて鼻の下を伸ばしている絵を思い出し。

 殺意が芽生えたから、やめた。


「むかつく」


 表紙のトモハルは。

 首を締め上げたいほどの、笑顔だった。

 キライだ。

 とても、キライ。

 ……こんなの、好きになる女が増えるだけじゃん。

お読みいただきありがとうございましたっ!

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