盗人の独白
春の嵐の夜だった。
乗じて盗みに入った屋敷の奥で、私はその男と対峙した。
一目見て、それが父だと分かってしまった。
私たち母娘が貧困に喘いでいる間も、この男はそれまで通りの優雅な暮らしをしていたのだろう。
それを思えば腹が立って、殺してしまおうかと思ったのだけれど。
あぁ、けれど私には分かっていた。
母は、迎えを待っていなかった。
母はすべてを呑み込んで、父のことは暮らしから切り離して、それでも父を愛していたのだ。
私には分かっていた。
母は父を愛したが逃げ、父は母を愛したから追わなかった。捜しもしなかった。
そしてまた、私も父を愛しているのだと、思い知らされた。
泣けてくる。本当に私たち親子は愚かで、泣けてくる。
嵐が終わって、私は剣を収めて、立ち去った。
だがひとつだけ、母の望みか分からないけれど、ひとつだけ父に残すことにした。
それは母がただひとつ残したもの。
女物の髪飾りなど、あてつけにしかならないのかもしれないが、それでも残さずにいられなかった。
それは、多分、かつて父が母に贈ったもの。
それを返すということが、何を意味するのかは知らないが、意味は父がつけるのだろう。
春の嵐の夜、私は父に初めて会って、私は父と母を過去にした。
18年前男と女は出会い、
15年前男と女は分かれた。
14年前女はひとりの子を産んで、
8年前女はわが子を残してひとり死んだ。
8年子供は盗みで生きた。
ただ命をつなぐだけの8年間。