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春嵐  作者:
2/2

盗人の独白

 春の嵐の夜だった。


 乗じて盗みに入った屋敷の奥で、私はその男と対峙した。



 一目見て、それが父だと分かってしまった。


 私たち母娘が貧困に喘いでいる間も、この男はそれまで通りの優雅な暮らしをしていたのだろう。


 それを思えば腹が立って、殺してしまおうかと思ったのだけれど。


 あぁ、けれど私には分かっていた。


 母は、迎えを待っていなかった。


 母はすべてを呑み込んで、父のことは暮らしから切り離して、それでも父を愛していたのだ。


 私には分かっていた。


 母は父を愛したが逃げ、父は母を愛したから追わなかった。捜しもしなかった。


 そしてまた、私も父を愛しているのだと、思い知らされた。


 泣けてくる。本当に私たち親子は愚かで、泣けてくる。



 嵐が終わって、私は剣を収めて、立ち去った。


 だがひとつだけ、母の望みか分からないけれど、ひとつだけ父に残すことにした。


 それは母がただひとつ残したもの。


 女物の髪飾りなど、あてつけにしかならないのかもしれないが、それでも残さずにいられなかった。


 それは、多分、かつて父が母に贈ったもの。


 それを返すということが、何を意味するのかは知らないが、意味は父がつけるのだろう。


 春の嵐の夜、私は父に初めて会って、私は父と母を過去にした。

18年前男と女は出会い、

15年前男と女は分かれた。

14年前女はひとりの子を産んで、

8年前女はわが子を残してひとり死んだ。

8年子供は盗みで生きた。

ただ命をつなぐだけの8年間。

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