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星と羽虫  作者: 病気
第二章・久遠の旅路
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17. 蕁麻疹





「ニャリキミヒさんがノンドバドを発ったと報告がありました。意図せずぎりぎりになりましたが、今晩遅く、私とヌビクさんで閉店後の店からエジヤ姉妹を連れ出し、船にお乗せします。既に三日ほど前の時点で繋ぎを付けてありますので、姉妹は出立の準備を終えているはずです」


 日没頃に宿へ戻ると、待ち構えていたジッフェがそう切り出した。後半部分については船で既にフィノケリ卿から計画を聞いていたので驚かなかった。


「え、俺は?」


 答えも理由も分かっているだろうが、ホルズがお約束とばかりにそう尋ねた。


「船でお待ちくださいな。お連れして行ってもエジヤ姉妹をひどく警戒させるのは疑いありませんので。ヌビクさんでさえ必要かどうか怪しいくらいですのに」


「僕もこの計画に自分が必要な気がどうもしないけど、せっかくここまで来たし一応参加させてもらうよ。別に何もせず付いてくだけでもいいから」


「志が低い!でもまぁ、ただ付いてくるだけでも実際意味はあるかもしれませんわね。普通は顔見知りが居れば話が円滑に進むものですから。私はお三方と面識がありませんし」


「えっ、ハステさんともかい?」


「密偵というのは得てしてそんなものですわよ。別の者に繋ぎを付けさせたのも、先日の乱痴気騒ぎで私の顔が割れている可能性も考慮していますが、ハスタリメノ様と面識のある者が他に居なかったからでもあります」


「別に騒ぎを起こさなくったって、君の容姿は印象に残りがちだからな」


「あら?それはありがとうございます。そんな物言いは、ホルズさんに教わったのかしら」


 私は彼女の容姿を褒めたつもりはなく、思っていたことをそのまま口に出しただけだったので、赤面して頭を掻く羽目になった。ジッフェから目を逸らすとホルズのにやにや顔が視界に入った。乱痴気騒ぎの続きでもやりたいのか。


「結局、ニャリキミヒさんはどうしてこのタイミングでノンドバドを出たのかしらね」


 夜半過ぎ、再び二つの黒い影となってテンベナを横切る私たちは小声で一言二言交わしたが、流石に長々と話し込むほど無防備ではなかったので、ジッフェのその問いに返答する機会は無かった。誰に咎められることもなく無事、ハステたちの住まう酒場の前までたどり着いた私たちは、既に閉じられた店の戸の側の物陰に身を潜めていた大柄の男に合図を送った。


「ロウィス=テッドヤン氏ですわね。彼を信じたことが凶と出なければよいのですけど」


 見張りに気取られぬことを祈って事を進めるか、裏切りのリスクも考慮した上で見張り自体をこちらに引き込むか、どちらも賭けになるのは同じだが、密偵たちは私の報告や彼の人となりを熟考した結果、後者を選んだ。副隊長ロウィスにも密かに繋ぎを付け、この晩の見張り当番が彼に充てられるよう仕組んだのだった。


「彼が僕の脱走に加担したことが隊にバレなくてよかった。それについては偶然だけどホルズの功績でもあるな」


 ロウィス以外の傭兵はこの場に居ないはずだったが、私たちは念のため、計画通りに店の横手へ回り、以前厨房の会話を盗み聞きしたあの窓の下へと移動した。店の表側でロウィスが大声を張り上げてわざとらしくくしゃみをすると、窓から縄梯子が現れた。そして続けてすぐに一人の顔が現れ、私を見つけると無言でにんまりと笑った。声を上げるなと事前に相当念を押されたに違いない。しかし、彼女はいつまで経っても窓の外に出てこようとしない。


「おいでくださいまし」


 ジッフェが痺れを切らして小声でそう呼びかけたのだが、窓の内側に居る人物は首を横に振り、短い銀の前髪を揺らした。私たちが数秒呆気に取られていると、彼女は手招きして引っ込んだ。


 私とジッフェは顔を見合わせたが、招待に応じるしかなかった。まず私が縄梯子を上り、泥棒のように窓から店内へ侵入した。厨房は位置的に月明かりが差し込むことは無かったが、部屋の中央のテーブル上に置かれたごく小さな魚油ランタンの微かな灯りで、室内に居た人物の姿は朧げながら確認することが出来た。


 フィノケリ卿の一人娘、銀髪の騎士ハステだ。無論、騎士と言っても例の仰々しい兜も甲冑も身に付けていない。彼女は質素とまでは呼べないが地味で目立たない一般的な旅装に身を包んでいた。


「ヌビク、挨拶は抜きにしろと言われているから、悪いが抜きでいいか?久しぶりだな!よく生きていた!あれから一体どうして…」


 私に続いて窓から入ってくるなりジッフェは前のめりに私の肩ごしに顔を出し、人差し指を立てて静寂を促した。


「ハスタリメノ様、ご無礼お許しください。今はまず、手筈どおり船へと向かいましょう」


 立場上、初対面で形式的な挨拶を交わせないのはことさらジッフェにとって大いに気まずいことだろう。


「貴女がジュッペか?」


「ジッフェでございます!」


 私はジッフェに沈黙を要求すべく、今しがたの彼女と同じように人差し指を立てて振り向いたのだが、間近に居たためにうっかり顔と顔とがかなり接近してしまい、私はまた無駄にどきりとする羽目になってしまった。私は急いで向き直り、口を開く。そうだ、今は急ぐべきだ。


「オーリスさんとアイリスはどうしたんですか?事前の計画では皆さんの方が窓から外に出る事になっていたと思いますが」


「すまん、まだ支度が済んでいないのだ」


「なんでぇ!?」と、言いそうな顔をしたが、ジッフェは言葉を選び直して口を開いた。


「何故でございますの?」


「すまん…私もずっと説得しているのだが…。二人も説得を…いや、まずは話を聞いてみてくれないか?」


 足元にはハステのものらしき鞄が置いてあり、旅装を纏っていることからも、彼女自身は出発の準備が出来ているように思える。だが、荷物は明らかに彼女一人分しかない。むしろ彼女は船には乗らず、姉妹を見送って港で別れる手筈になっているのだが。そうでなければハステをニャキの元に戻すというフィノケリ家側の希望が成就しない。


「ちなみに今、建物内には私たち以外誰も居ないぞ。万一のため、今晩は店主は離れて暮らす家族の元に泊まるよう頼んでおいた」


「えっ?つまり脱走計画を店主にも話したってことですか?」


「もちろんだ。いきなり二人も住み込みの従業員が消えたら大変な迷惑をかけるだろう。三日前に伝えたが、それでもかなり心苦しかった」


 その行為が齎すリスクについては考えたところで今更でしかないので置いといて、どうやら外に漏れるほどの大声で話さない限りは、何も息を潜めるほど声を落とす必要は無かったようだ。ジッフェを見ると、主の娘に対して不満そうな顔をするわけにもいかず、真面目くさった顔のまま唇だけもごもごさせていた。


 ハステは卓上の魚油ランタンを持ち上げ、私たちを先導した。誰も居ないとはいえ、私たちは意識的に靴音を殺したが、一歩上るごとに軋む階段は私たちを不安にさせた。酒場はかつては宿屋としても使われていたのか個室の数が十分にあるようで、住み込みの女たちは決して広くはないものの一人一部屋ずつ与えられていた。ハステは廊下の突き当たりまで行くと、オーリスの部屋の戸に手をかけた。


「ヌビクとジッペ?が来たぞ」


 室内に点っていた照明もやはり光量の乏しい安物の魚油ランタンだったが、一人用の狭い部屋を照らし出すにはその濁った紅い光でも十分だった。私たちはベッドに上体を起こして座っている者と、傍らの丸椅子に腰掛けて彼女に付き添っている者の存在と、その様子を認識することができた。


「ここは男子禁制ですよ」


 椅子に座っている者が言った。私達に向けて先に口を開いたのは意外にも妹のアイリスだった。私は彼女の言葉に応じて黙って後ずさり廊下へ出たが、すぐにハステに引っ張り込まれた。


「冗談だから。アイリスはいつもこんな調子だ」


 アイリスはふんと鼻を鳴らして、ベッドの上の人物の方へ向き直ってしまった。その人物とは当然アイリスの姉、オーリスだ。彼女は胸の上あたりまでシーツを被っており、そもそもベッドから出てこない時点で何かしら問題を抱えているのは理解できるが、襟元に見える服はやはりどう見ても外出用のそれではなかった。彼女は私と目が合うと微笑もうとしたように見えたが、その目元は引き攣り、力なく半開きにした口元からは何も言葉が出てこなかった。彼女の心は読めないが、どうもひどく怯えているよう見える。


 私に続いて最後に部屋に入ってきたジッフェが、後ろ手で静かに戸を閉めた。


「ジッフェでございます。お二人ともどうなさいましたか?計画はご了解頂けたと認識しておりましたが…」


「姉は具合が悪いんです。別の日に変えてもらえませんか?」


 アイリスは姉の方へ顔を向けたまま、悪びれもせずそっけなくそう言った。ジッフェは戸惑う様子を見せたが、詳細な事情が分からない以上性急に強制するわけにもいかず、かといってそんな無理な要求を受け入れる余裕もなかった。


「少しの間だけ、どうか頑張ってくださいまし。動く必要があるのは船に乗るまでの間だけですわ。船でも個室をご用意できますし、医者も同乗いたします。ご健康のためであればむしろここよりも良い環境のはずです」


 ジッフェの説明に、私も補足する。


「後日というのは難しいと思うよ。既にニャキさんはこの町に向かっているらしいし、この店に居ることはとっくにばれてるから、もし力ずくで来られたらどうしようもない。船を貸してくれる人たちもニャキさんとおおっぴらに戦争できない立場だから、日を置いたことで協力者の存在がばれれば港を先に押さえてくるかもしれない」


 その場の全員がしばらく黙ったが、アイリスがやはりオーリスに向いたままで口を開いた。


「…姉ちゃん、二人の言うとおりだよ。ここを出よう。医者にも診せたほうがいいし」


 意外なことだったが、アイリスは私たちの意見を素直に聞き入れ、また冷静な判断で姉を説得しようとしていた。ノンドバド村で以前に会った時、感情に任せて駄々をこねていた様子を思うと、随分な変わり様だった。


 だが、残念なことに変わったのはアイリスだけではなかった。

 オーリスは俯き、しばらく黙った後、涙ぐみ始めた。


「でも…無理だよ。私は無理なんだ。ねえ、やっぱりアイリスとハステさんだけで行ってよ。私はここに置いていって。ニャキさんも私さえ捕まえればそれで満足するかもしれないでしょ…」


 震える声でそれだけ言い終えると、ついにしくしくと泣き出してしまった。情緒不安定なその様子は樹海の要塞で超能力を取り上げられた時の彼女の様子と被って見える。ひょっとして今もなお超能力が使えない状態が継続しているのだろうか。だとすると、メセやダーマは要塞の遺物から離れた時点で能力が復活していたのに、何故彼女だけずっとそのままなのだろう。


 あるいは何かしら遺物とは別の影響で超能力を失ったのか。

 考えたくない。ひどく嫌な予感する。


 ハステがベッドの枕元に移動し、アイリスに身を寄せながら跪き、両手でオーリスの右手を握り締めた。


「まだそんなこと言っているのか…。私もアイリスも一度も同意していないだろう。みんなが助からなければ意味が無い」


 オーリスの右手は包帯で覆われていた。


 私はどうやら汗をかき始めているようだったが、秋の夜は涼しく、暑さによるものではなかった。


「三日前に逃亡計画を聞いた時から、オーリスはずっとこうだ。身体的には、立ち上がって歩いたり出来る程度の元気はあるんだが、心の健康が優れないのかもしれない」


「…三日前からですか?もっと以前から体調を崩されてるような認識がありましたが」


「いや、具合が悪くなった時期自体はもっとずっと前、それこそテンベナへ着いて早々といったあたりからだ。テンベナまでの道中ではなんともなかったのだが、ある日を境に突然、例の心を読む超能力をまるっきり失ってしまって、それに伴ってふさぎ込んでしまった」


 やはり超能力を失っているらしかった。私は、本当に聞きたくなかったのだが、聞かなければ永遠に先に進めないという義務感から、声を絞り出して尋ねた。


「…その手の包帯は…」


 すると、アイリスがため息をついて言う。


「蕁麻疹ですよ。能力を失ったのもきっとこのよく分かんない蕁麻疹のせいだよ。この病気さえ治れば能力もきっと戻ってくるから、ねぇ、船に行ってお医者さんに診せよう」


 彼女はオーリスとハステの手の上に、自分の手も乗せた。彼女が姉を労わる気持ちは伝わるが、彼女もハステも、どうも本当にただの蕁麻疹と思い込んでいるように見える。


 オーリス本人はどうだろうか。

 そう思い、彼女の顔をじっと見つめると、超能力がなくても視線を感じ取ることが出来たのだろうか。彼女は顔を上げて私を見つめ返すと、涙を一杯に溜めた目に微笑を浮かべた。彼女の両の目から同時に涙が頬を伝った。


「ヌビクリヒュくんも、ジッペさんも、ごめんね…。私たちのために色々頑張ってくれたのに…」


 そして彼女はシーツをめくると、もう片方の腕も持ち上げて私達に見せた。

 一切の肌の露出をなくすように肘の上の袖の内側までかけてびっしりと包帯が巻かれている。包帯の下に隠された腕には女性らしいふっくらとした丸みはなく、筋ばった硬質そうな直線だけが見える。妹たちに掴まれているもう片側の腕も同様だった。


 虫化病だ。


 隣のジッフェも気付いたようだ。視界の端で、彼女が両手を自らの口に当てるのが見えた。私はその仕草に、発作的に猛烈な怒りを覚えた。私は彼女の手首を引っ掴むと、黙ったまま戸を開け、彼女を廊下に連れ出した。


 室内に会話を聞かれてはならないという心と怒りがせめぎ合い、私は押し潰されたような掠れた声を出した。


「おい、君は知ってたんじゃないのか。何故この事を黙っていたんだ」


「知りませんでした!知りませんでした!」


 実際のところ彼女は何も悪いことをしたわけではないのだが、私の怒りに引っ張られてか詫びるような調子で言った。


「それじゃあどこまで知っていたんだ。厨房の窓の下で会話を聞いた時、君はオーリスさんの容態について思わせぶりな言い方をしたじゃないか」


「あたくしが知っていたのは、ハスタリメノ様が仰ったとおり、テンベナ到着後にオーリスさんの超能力が失われ、引き篭ってしまったということだけですわ…。最初は不可解でしたけれど、ヌビクさんからノンド聖域の超能力を奪う遺物の存在をお聞きした時に、原因は恐らくそこにあると、話が繋がったように思っておりました…それがまさか…あんなことに…」


「君は…知らなかったのか?適性者が虫化病を発症すると超能力が失われるという事を」


「そ…そんなまさか…そんなことが…」


 私の虫化病や適性者に関する知識はゼームの館の秘密書庫で得た物だ。テリリドニジグの情報に通じているとされるジッフェたちも当然同じ情報を持っていると勝手に思い込んで共有しようとしなかった私に落ち度があったのだ。


「君に怒るようなことじゃなかったな…ごめん。でも、これは…どうすればいいんだ…」


 背後でオーリスの部屋の戸の音がしたので、私たちはそこで口をつぐんだ。突然部屋を出て行った私たちの様子に気後れしたのか、ハステが半分開いた戸から恐る恐る顔を出していた。


「ああ、よかった。帰ってなかったな。どうかしたのか?大丈夫か?」


「ええ…すみません。他に何か手立てはないかと相談していたんです。話がまとまったら戻りますので、少し待って下さいね、先生…」


「そうか…?聞かれたくない話があるのなら、そこが私の部屋だから使うといい。廊下で話すのも難だろう」


 ハステとアイリスは恐らく虫化病に関する知識は乏しく、病気の原因についてあれこれ想像を巡らすような性質の人間でもない。オーリスが虫化病に罹っているなど思いもしない様子だ。そして、その事実を知ってしまえば私たちとは比較にならないほど狂乱することは疑いない。決して悟られてはならない。


 私たちはハステに頭を下げ、彼女の私室を借りた。ジッフェはふわふわと室内に踏み入るとすぐ膝を突き、主の娘のベッドにうつ伏せに上半身を投げ出してしまった。


「…オーリスさんのような上級適性者は虫化病に罹らない、そう認識しておりました…」


 私が入り口の戸を閉める音を聞くと、ベッドに突っ伏して顔を横に向けたままでそう言った。部屋に照明はなかったが、窓からは月明かりが差し込んで、ジッフェの金髪をきらきらと白く輝かせていた。


「確かに本によってはそんな記述もあった。だけど、比較的もっと最近に書かれた物によると、普通の生活で自然に罹ることがほぼ無いというだけで完全な耐性を持っているわけではないと、リドンを使った実験で明らかになったらしい」


「…リドンとおっしゃいましたか」


 ジッフェはがばっと起き上がり、丸椅子に腰掛けていた私の顔を見た。


「僕もシギミヒが扱っているのを見たことがあるとは話したね。人を強制的に虫化させる薬だ」


「まさか、オーリスさんにリドンが使われたとおっしゃるのですか?」


 フィノケリ家の所属である彼女が得ることができる情報は、騎士団が接触できる範囲に留まるのだろう。リドンを使用した非人道実験については恐らくニャキたち研究者が騎士団の目を欺いて行なっている。ジッフェたちにそれに関する情報は無く、それ故に樹海の秘密書庫の価値が高いのだ。


「…ああ、そうか。きっとそうに違いない。ニャキだ。あいつが…あのクソメガネがやりやがったんだ。多分最初からだった。奴が初めてオーリスさんの家に行った時から、きっと薬を盛られていた」


「ま、待ってください。ニャリキミヒ=エズチカが意図してオーリスさんを虫化させたと考えておいでですの?」


「自然に罹ることは無いんだ。リドンが使われたのは間違いないし、それを投与できる人間なんてごく限られている。書物やシギミヒから教わったことによると、虫化を人為的に発症させるには何ヶ月も前からの仕込みが必要になる。ニャキがノンドバドで待っていたのは、仕込みの効果が表れるタイミングだったんだ」


 喋りながら、ようやく辻褄が合った。だが、目的が分からない。オーリスを虫化させてニャキに一体何の得があるというのだ。彼女の目的は超能力者を手に入れることではなかったのか。


「ただ言えることは、もしオーリスさんを船に乗せてしまったら、間違いなく航海中に虫化が完了することになる」


 ジッフェは両手をベッドの上に置いたまま、私の顔を見てぶるぶると震え出した。月明かりを浴びているとは言え、彼女の顔面はぎょっとするほど蒼白だ。黙ってしばらくその姿を凝視していると、彼女はついに大きく見開いたその目から涙をぼろぼろと流し始め、横っ飛びして私の足元に跪いたかと思うと上半身をぶんと振り回すような勢いで両手と額を床にぶつけ――そして、こすりつけ始めた。


「おいおい…何…?」


「申し訳ございません!申し訳ございませんん!」


「…何?」


 私は意味も分からず土下座をされて椅子に座ったままでも居られず、腰を浮かした。


「姉妹を船に行かせてはなりません。船の目的地はテリリドニジグです。それにノラッド小隊も乗っています」




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