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星と羽虫  作者: 病気
第二章・久遠の旅路
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12. 懲りずにまた飲む




「はぁー…ハスタリメノ様がいらしてから急にそわそわとなさっていませんこと?恩人がどうのってのは建前だったのかしら?」


 まあ、確かに、私が急にそわそわし出したのは間違いないのだが、彼女はそれを理由に私の旅の動機について疑いを抱いたらしく、わざと意地悪なことを言ったらしい。


 私は少しムッとした。私がエジヤ姉妹やハステを助けたいと思っていたことは紛れもない純粋な気持ちであり、少なくとも自覚の上では下心など断じて無いのだ。無自覚に心の奥底で身の程知らずな期待をしてしまっていた可能性についてまでは否定出来ないが、無意識まではどうにもならないのだから、知ったことではない。


「いくらなんでも言いがかりだろ。僕に下心があるように…見えたのかい」


 まあ、そりゃ見えただろうが、


「そりゃ見えますわよ。だって顔に書いてあるんですもの」


 どうあれ私は否定せざるを得ない。


「書いてない!そもそもこの修道服じゃ全然顔なんて見えないだろ!」


「見えますぅー」


「見えるもんか!」


 私はこの不毛な会話を打ち切る意思を示すために彼女から目を逸らし、反対方向へと勢いよく振り向いたのだが、その時とても奇妙なことが起こった。


「あれ?ジッフェ?なんでそっち側に…」


 振り向いた先にもジッフェが居た。正確には、顔の見えない黒ずくめの人影がそちらにも存在した。


「うわーっ!二人居る!」


 そんなジッフェの声が聞こえてきたのは私の背後からだった。


「えっ、何これ!?」


 私たちは突然の状況で互いに半ば錯乱しかけていたが、数秒経ってようやく、私たちが呑気に話している間にこの暗く狭い裏路地に、我々と同じ真っ黒な修道服を着た人物がもう一人現れたのだと理解した。


「ダタラの禁欲の道を己で選びし兄弟姉妹がよもや裏路地で痴話喧嘩とは…言語道断」


 その場に出現した第三の人物が発したその低い声は怒りに震えていた。彼は衣装こそ私たちと同じだったが、暗闇の中でよく目を凝らすとどうも身長はかなり高かった。


「ひい!本物のダタラ僧でいらっしゃいますの!?あたくしたちはー、そのー」


「そう、いや、僕らは、その、仮装なんです。禁欲の道は選んでません」


「そうそう、欲にまみれておりますわ!」


 ジッフェの声はうわずり、その言葉は完全に平静を欠いていた。ひょっとして彼女は昨日からずっと私に話を合わせて適当になりきって遊んでただけで、本当は凄腕の密偵でもなんでもないのだろうか?


「ははは、正直なのは結構なこった!」


 神の道を穢した罰として棒で叩かれるかと思いきや、予想外にも長身の男は身をよじって笑い出した。先ほどとは声色がまったく違う。この声には覚えがあった。


「神様だって薄気味悪い黒ずくめのむっつり野郎よりは正直者を祝福するだろうよ!つーか、ド素人が変装して張り込みなんて火傷するだけだからマジでやめとけよ。ははは!」


 私たちはどうやらからかわれたらしい。既に正体は分かっていたが、男はフードを取って素顔を見せた。まとめられていた真っ赤な髪がばさりと肩に落ちた。


「久しぶりじゃねーか、ボロ雑巾!三年ぶりくらいか?」


「確かになんだか随分長く会ってなかったような気がするけど、まだ数週間程度だろ。ホルズ」


 その名を呼び、私もフードを取った。私たちは顔を見合わせて互いに苦笑した。


「おめーら良いなぁ、楽しそうで。だが俺は人んちの軒先でギャーギャー騒げるほど非常識じゃねーんだ。場所を変えねーか?」


 フードを身に付けたままのジッフェが肩をすくめてため息を吐くのが視界の隅に映ったが、私とホルズはそのまま素顔で通りに出た。テンベナ義兵団本部は壁を越えた別の区域にあるためここまで出張っている者は少ないだろうし、ハステたちの酒場の裏手に当たるこの場所では顔を隠しているほうがむしろ人目に付くようにも思える。


「そういうことなら裏通りに私たちの息のかかった店がございますわ。正直、気が進みませんけれど、情報交換をなさりたいのであれば、そちらへご案内させてくださいな」


 ジッフェは私たちを追い抜きざまにホルズのほうを訝しげにじろじろと見た。


「貴方が噂のホルズさんですのね。ヌビクさんから伺っておりますわ。恩人であるハスタリメノ様の身に起きている問題対処に手助けするために一足先にテンベナへ駆けつけたものの、貴方自身も追われている身なので迂闊に近づけない、と言ったところかしら」


 ホルズは女性の警戒心を最大限に引き出すかのような下卑たにやにや笑いを浮かべながらジッフェを見つめ返したが、彼女は動じる様子もなくそのまま横をすり抜け、先頭を歩き出した。


 その背に向けて、どこかおどけるように言った。


「名乗りもせず、顔すら見せず、一方的に人のことをぺちゃくちゃと…。礼儀のなってねー奴だな。育ちが悪ぃのか?」


 ようやく落ち着きを取り戻したかのように振舞っていたジッフェだったが、そんな見え見えの売り言葉に対してまたしょうこりもなくむきになって、がばっと勢いよく振り向いた。


「んまあ!おっしゃいますこと!無闇に自己紹介できる立場でないことは変装している事から察して下さるかと思いましたけど!」


 まるで通り中に響くような声だ。私は思わずきょろきょろした。

 それに対してホルズのほうは、あからさまに面白がるように眉を八の字に曲げて、矢継ぎ早に言葉を返した。


「大声で喚くのは良くて、名乗るのは駄目ってどういう立場だ。さっきジッフェとか言ったか?珍しく覚えやすい名前だな。ノギントリの人名か。言葉の訛りからして出身は北西部のユム県辺りだろ。そういや確かユム県のユム市にお高く留まった女学校があったし、そのアホみてーな高慢ちきな帝国語は大方そこで習ったんだろ」


 まるで仕返しとばかりにぺらぺらと並べられたジッフェの素性についての予想は、大方図星だったのだろう。彼女は地団太を踏みつつ勢いよく自らのフードを取り払った。


「えーはいはい、そうですわよ!生まれも育ちもノギントリ教国ユム県ユム市のジッフェ=ニュールフプードでございます!訛ってて悪かったですわね!」


 こいつはどこまで行き当たりばったりなんだ。全部計算ずくでやっているとしたら天才的だが、どうもそうは思えない。


「へっ、やりゃ出来るんじゃねーか。ニュールフプードか。覚え易い苗字だなぁ。せっかく美人なんだから、もったいねーし顔なんて隠すなよ」


「むむむ…」


 ジッフェは急に無口になり、それ以上言い返そうとしなかった。随分よく効く呪文だったようだ。ホルズのほうが一枚上手だ。それにしてもこいつ女の容姿をさらりと褒められるような奴だったのか。ちくしょう。


 今のやり取りを見るに、彼女はどうもおだてられることを好むタイプらしい。となると、さっきからジッフェが私に対してやけに噛み付いてくるのは、私がハステのことばかり気にしてる様子があからさまなせいなのかもしれない。意図せずとは言え、蔑ろにされたという感覚を与えてしまったのは申し訳なく思うが、しかし今更突然容姿を褒め始めてもわざとらしいし、それで妙な勘違いをされても癪だ。こいつは手詰まりだな。


 ジッフェはそのまますたすたと急ぎ足で先を行ってしまった。私とホルズは顔を見合わせ、無言で笑い合っていたが、不意にホルズが顔を近づけ、ジッフェに聞こえない声量でこそこそと言った。


「アレ、おまえの女か?」


 今度は私が面食らった。


「なんだよ突然」


「いや、随分親しげだったからよ。違うのか?」


「全然そんなんじゃないよ。まだ昨日出会ったばっかりだ」


「まるで十年来の間柄にだって見えたぜ。そもそもおまえ、あんまり女と気安く会話が出来るようなタイプでもなかったろ?違うか?」


「おまえともまだそんな長くない気がするけど、まったくもってそのとおりだよ。…え?それってそんなにバレバレなの?」


 声が届いていたことはないと思うが、ジッフェが不機嫌そうに振り向いてこちらを一瞥したため、私たちは黙った。しかし、少し歩いた後、やはりジッフェに聞こえないほどの小さな声で、ホルズがぽつりと言った。


「だが、まんざらでもなさそうだな」


 どっちについて言っているのか、聞きたい気持ちもあったが、やめた。


 そして私たちはジッフェの導きで比較的細い路地の一角にさりげなく佇む小さな酒場に足を踏み入れた。店内は薄暗く、客はまばらで客席同士の距離も近くないので、無駄に大声を出さない限りは他の客に会話の内容まで把握されることもないだろう。この二人が無駄な大声を出さないという保証は無いが。


「親父、なんでもいいから酒を三つだ!あとなんでもいいから適当に料理を三人分」


 話の流れからしてホルズのほうは常連客のようにも思えないが、彼は席に着くなり声を張り上げた。しかし私とジッフェは同時に首を振った。


「任務中なのでお酒は遠慮しますわ」


「僕もやめとく…」


 何故飲まないのかの理由を説明したら無理矢理飲まされそうなので簡潔に言った。


「あっそう…俺が三杯飲むんだよ。親父、お子様方にミルクを二杯だ!」


「お茶がいいですわ。ローズティーはあるかしら?」


「じゃあ僕もそれで。あとサンマの塩焼き頼んで」


「あと私、馬肉は食べない主義なのでそれは抜きで」


「僕も犬と猫は食べないから」


「そんなもんねーよ。あー、もう、てめえら自分で言えや」


 夜闇の中では僧服に見えたホルズの黒い上着はどうやらフード付きのロングコートだったらしく、彼は既に前のボタンを開けてその下に着込んだ臙脂色のシャツを見せていた。急遽どこからか調達してきた衣服にしてはやたらと洒落た、また着慣れた様子だ。それこそ私たちが樹海の屋敷で一度別れた時点からほぼすぐにテンベナへ入り、女たちや傭兵団の調査をしていたのかもしれない。


 私の視線に気付いたホルズが口を開いた。


「で、この女は一体何なんだ?俺のことを知ってるようだが、なぁ、こいつに俺のこと、どんだけ喋ったんだ」


 さほど怒っている様子には見えないが、素直に謝るべきだろう。


「勝手に喋ってすまない。おまえがメセに捕らえられて投獄された後、ハステさんと僕で牢から出し、要塞まで案内してもらったと話した」


「そんだけか?」


 ホルズは訝しげに言ったが、給仕の女に注文をしていたジッフェが振り向いて口を挟んだ。


「それしか伺っていませんが、その先があるんですの?」


「別に大したことは無ぇさ。まあ、そんだけならいいや」


 この男の『大したこと無い』はまったく真逆の意味になり得ると私は知っている。そしてその出来事を他人に話すということは彼に対する裏切りになるだろうということも理解している。私はそれを意識した上で、ほとんど何もかもを話してしまった昨晩にも意図的にホルズの動向に関する詳細な話は避けた。今のやり取りでホルズ自身にもその意図が届いていることを願うが、少なくとも信頼を大きく損なうことは避けられたように思えた。


「ふーん…そう。それでは私も話せる範囲で自己紹介をしますわね」


 不満げに私を一瞥してからジッフェはホルズに向き直り、ハステやエジヤ姉妹を助けるという目的で合致した私に協力し、情報交換や探偵の手引きをしているのだと簡潔に告げた。


 促されたわけではないが、礼として私が補足した。


「彼女は僕が騙し取られた金貨を取り戻してくれたんだよ」


「はいはい、なるほど。信頼が欲しけりゃ恩を売るのが一番手っ取り早いもんな。俺もそのせいで今こんなとこに居るんだ。それより、おい、今、金貨つったか?あの色男、餞別で金貨なんか寄越したの?普通にイカれてんぞ、頭。子供の駄賃に金貨って王族じゃあるまいしよ。ここの支払いおまえに頼むわ…」


 ジッフェは何か言おうとしたのを飲み込んだような苦い顔をして、恐らくそれとは別の言葉を口にした。


「と、おっしゃいますと、ホルズさんはやはりハスタリメノ様への恩返しが、ここテンベナに居る目的なのですわね?」


 ホルズは頭を掻いた。


「あー、うん…。そうだよ。まあ、どうせ暇だしな…。あいつらに現状を伝えたりだとか、街から逃がしたりだとか、そういう直接の干渉をするつもりはねーが、危害を加えそうな奴が出てきたらとりあえず足でも折っておこうと思って監視してたんだ。さっき変装したおまえらがもしバカみたいに大声で喚いてなかったらすぐには正体が分からなかっただろうし、今頃二人して膝を逆方向に曲げて路地裏に這い蹲ってたかもな」


「まあ、野蛮!きっと育ちが悪いんですのね!」


「さっきの台詞、根に持ってんの…」


 そこで給仕がやって来て、麦酒を三杯テーブルに置いた。


「飲み物はこれしかねぇとよ」


 と、ホルズがジッフェの前にジョッキの一つを寄せた。給仕は無言だったのでどうもそうとは思えないのだが、意外にもジッフェは拒絶しなかった。


「まあ、一杯くらいなら…」


 直感だが、こいつに酒を飲ませてもろくなことにならない気がする。

 そして、なりゆきで私の前にも一杯の麦酒が寄せられた。絶対ろくなことにならない。


「よっしゃ。こうでなくちゃな。じゃあ何に乾杯する?」


「お祝いでもないのに乾杯なんかしませんわよ。学生グループじゃあるまいし」


「よし、それじゃあヌビなんとかの金貨袋に乾杯」


「ヌビクだってば」


 文句を言いつつ私もジッフェもとりあえず杯を上げ、そして口へと運んだ。


「麦酒は初めてだけど、例のキノコ酒のほうが好みだな」


「テペ酒のことですわね。そりゃ、お値段が十倍以上違いますから」


「えっ…そうなの…」


「良いもん飲んでんなぁ。でも金貨がありゃ足りるぜ、王様」


「町の酒場じゃそもそも置いてすらいませんわよ。テンベナにおける唯一の供給元も現在休業中ですし」


 その「唯一の供給元」が今どういう状態なのか、店に入る前から気になっているのだが、その前に私たちは昨晩ジッフェと行なった情報交換で更新された現状をホルズに伝える必要があった。

 後になって思うと、しらふの内に気になることを聞いておくべきだった。

 ホルズは肴が来るのを待っているのか頬杖を突いたりそっぽを向いたりそわそわと落ち着かない様子で、たまに品良くちびちびと麦酒に口を付けていた。それでも一応ちゃんと聞いてはいたらしく、大方の話が終わるとまともに質問を返した。


「…そういやおまえんとこの小隊長の…あの偉そうな傭兵のオッサン、銀髪女の親父に対して恩があるとか言ってたな。でもそれ、なんかおかしくねーか。なんでそっち側に恩があるくせに、そいつと対立してるテリリなんとかのなんとか将軍ってほうに加担してんだよ」


「おまえの台詞は固有名詞が省かれてて分かりづらいな」


 しかし尤もな疑問である。そこは私も引っかかるところだった。ニャキもそこまで愚かな人物のようには思えないし、裏切る可能性のある人物と無闇に手を組み重要な情報を流すようなことはしないだろう。何かしらノラッドが信頼に足る裏付けがあるはずなのだ。


「テリリドニジグのエズチカ将軍ですわ。別に両者は対立しているわけではございませんわよ。表向きにはね。互いに協調関係にあるからこそ、テリリドニジグ調査員ニャリキミヒ=エズチカさんの護衛として騎士団員であるハスタリメノ=フィノケリ様が公式に派遣されているのです」


 こいつの台詞は敬称の使い方で誰に仕えているのかが丸分かりだな。


「公人ならまだしも、民間傭兵の小隊長は表向きがどうとかなんてどうだっていいだろ。それこそ実質的な関係が全てだと思うが」


「だからこそですわよ。ノラッドさんが助けたいのはフィノケリ家、さらに言うなればフィノケリ卿のご子女たるハスタリメノ様ただお一人です。あの方の離反はニャリキミヒさんも含め、多くの方にとって理外の出来事だったようですわね」


「うーん…?」


 事件後の要塞に再び現れたリデオが仲間の傭兵たちと話していた言葉を思い出した。ノラッドは恩人の一人娘が帝国の裏切り者へと落ちる前に助けてやりたいという思いからこの仕事を請け負ったのだ。


「テリリドニジグによる適性者の捜索と引き込みは帝国主導の国家プロジェクトです。それを遂行するための手段が人道的であろうとなかろうと、ニャリキミヒさんの行なっていることが公式に正しいことであり、それに反旗を翻した方は誰であろうと国家への反逆者となります。ノラッドさんがニャリキミヒさんと手を組んだ目的は彼女の任務を助けることではなく、ハスタリメノ様をニャリキミヒさんの元へ返し、和解させる。ただそれだけです」


 そこでノラッドの言葉を思い出した。ハステの父、サーバリヌズ=フィノケリ卿もおそらくはハステと同じように強い正義感を持った人物であると思われる。そして彼もまたジッフェのような手駒を使ってテリリドニジグの非人道行為を阻止しようと動いている。表立って行なえば反逆者として粛清対象になってしまうため、隠密を駆使してあくまで秘密裏に進めていたのだが、抑止力として派遣したはずの自らの娘が何も知らずに無鉄砲にも表立った反逆を起こしてしまったために、きっと今頃は頭を抱えていることだろう。


「それで君はどっちなんだい。ニャキによる適性者拉致の妨害を優先するのか、ハステさんのために彼女の立場の復帰を急ぐのか」


「当然後者ですわ。このままハスタリメノ様が暴走を続ければ、我がマスターの計画が全て水泡に…って、何度も言いますけれど、私は素性を隠しているんですのよ。あんまりそれに関わる質問を振らないで下さいます?」


「おまえの素性とかマジで全然気にしてねーし、俺が知ったところで別に何するわけでもねーから、続けろよ。どうせ帝国のお偉いさんが遣わしたスパイかなんかだろ。話の流れからして、そのマスターとやらはあの銀髪女の親父のことか」


 あっけなく正体を看破され、また悔しがって両手でテーブルを叩くジッフェを横目で見ながら、私は口に含んだ麦酒を飲み込んでから続けた。


「小隊との敵対関係を平和的に解消出来るとするなら、狙いはノラッド隊長の動機にありそうだな。ハステさんさえ無事にニャキの元に戻ればその後のエジヤ姉妹の拉致の成否については無関心なはずだ。姉妹を無事に逃がすという約束を条件になんとかハステさんを説得して、ニャキの元に戻ってもらえれば丸く収まるんじゃないだろうか。彼女たちの間のわだかまりは消えないだろうけど、それについては我慢してもらうしか」


 悔しげな表情はそのままに、拳をテーブルに置いたジッフェが首を振る。


「それはどうかしらね。ノラッドさんが請け負った依頼の範囲に姉妹の拉致まで含まれていたら難しいと思いますけど。傭兵としての矜持もお持ちでしょうし、いくらハスタリメノ様の安全が第一優先とは言っても、一度受けた依頼を途中で投げ出すほど無責任な方とは思えませんわ。しかも依頼人は帝国の要人なんですのよ」


 ふん、と鼻を鳴らすとホルズはジョッキを大きく呷り、それで卓上を叩いた。


「要人つってもねえ。他のご立派な誰かならまだしも、あのクソメガネだろ。俺には分かるが、あいつは中身はケダモノだ。この契約は絶対に両者納得の行く形で果たされやしねえ。元騎士だろうがなんだろうが、地方の傭兵団の小隊長のことなんか虫けらほどにも思っちゃいねえさ」


「どういう意味ですの?」


 ジッフェと一緒に私も首を傾げたが、ホルズはそっぽを向いた。彼の視線の先から地味な服装をした給仕の女がやって来た。


「おう、おめーらお望みのサンマの塩焼きが来たぞ!なんかこの魚、今まで見たこともなかったのに最近急にバカみてーに流行ってんのな。都の秋の風物詩らしいが」




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