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星と羽虫  作者: 病気
第一章・異能の女たち
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39. 崖の狭間で




 顔を上げると、私が手紙を読んでいる間ずっと立ち尽くしたままサトヤの顔を見ていたらしいホルズが気が付いて、振り向いた。


「読んだか?」


「うん」


 私がそう短く返事をすると、ホルズは間を置かずに言った。


「んじゃ、行くか」


 意図は不明だが、彼がわざと手紙の内容を聞かないようにしていることは理解出来たので、私はそれを説明せず、再び折り目通りに紙片を畳み、自らのポケットにしまい込んだ。


 ホルズは腕や肩に装備していた複数の荷や武装を腰や背中などの邪魔にならない位置に手際良く付け替えると、両腕を使ってサトヤの遺体を自らの体の正面に担ぎ上げた。彼の衣服や腕の露出した部分はあっという間にサトヤの血によって赤く彩られた。


「あーあ…すげー軽いなこいつ…」


 元々帝国人よりはるかに小柄なメメトー人である上に、今のサトヤの体からは片腕と大量の血液が落ちてしまっているのだ。


「僕も何か持とうか」


 私は持て余している両手をひらひらさせて見せた。今ホルズが抱えている他でもないこのサトヤに襲われて黄昏の森の中を駆けずり回った際に、私の荷物は腰に下げていた水筒も含め根こそぎ全て喪失していたため、この時は完全な手ぶらの状態だったのだ。


「あー…重くてでかくて邪魔臭くて役にも立たねー荷物が一個あったな」


 ホルズは一旦サトヤを片腕に持ち替え、もう片方の手で腰に下げていた鞄のベルトを外した。


「その鞄の中身は確か…」


 私の言葉を待たずにホルズはそれを投げ寄越した。慌てて両手で受け取めたが、それは見た目以上にずしりと重く、危うく手の甲を地面に付けそうになった。


「あのクソメガネのくだらねー日記帳だよ。なんかもうどうでもよくなっちまった。街に戻ったら広場でばら撒いてくれや」


「おまえから返してくれないのか。僕がこれを持ってるのを彼女らに発見されたら酷い目に遭いそうなんだが」


「どーでもいいよ」


 ホルズがため息をついた。私はその腕に抱えられたサトヤの悲しみの表情のまま凍りついた真っ白の顔を見た。彼女の前では確かに私のくだらない心配などどうでもいい。私は口をつぐんだ。


「その中身、他のも全部てめえにやるわ」


 私の顔を見もしないで、そう投げやりに続けた。私はやはり口をつぐんだまま、それを受け入れることにした。


 留め金を外し鞄の蓋を開けて中を見てみると、その内容物はニャキの日誌の他にも様々だった。一瞬でさっと中を確認しただけでもそこには、無造作にばらばらに詰め込まれた干し肉や、カミソリが数枚、さらに歯磨きに使う特別な植物の茎や、髪留め、櫛、石鹸、そして瓶入りのインク、タバスコ、ハチミツ、謎の丸薬などが見つけられた。腰から提げて携帯する形のさほど大きくない鞄であるにもかかわらず、その中はまるで異世界と繋がっているかのごとく雑多な物に溢れ混沌としていた。

 私がホルズと同じようにそれをズボンのベルトに提げていてはその重量でズボンがずり落ちてしまうため、革鎧の金具になんとか釣り紐を留め、失くしてしまった背嚢のようにそれを背負うことにした。


「俺は崖の向こう側に行くが…てめえは反対だったな」


 ホルズは再びサトヤを両腕で抱えてほら穴から出ると、あたりをきょろきょろと見渡した。


「ハステさんたちが怪我をしていないか確かめたいし、それにおまえと二人でサトヤの死体を担いで山賊の根城を訪ねても殺されそうだしな」


「ふーん、そう。でも合流するまで俺が送ってやる必要もねーな。ほら、見ろよ」


 見ると、先ほど縄を垂らしたままにしていた崖の上から、その縄を使うこともなくひとっ飛びで崖下へと着地する人影があった。

 メセだ。恐らく逃げたサトヤの後を追ってここまでやって来たのだろう。彼女の運動能力から考えればここまでやって来るのに随分と時間が掛かったように思われるが、その原因らしき二人の人影もすぐ後から崖の上に現れた。メセは、ニャキとハステを守るために彼女らからあまり遠くに離れることが出来ないのだろう。見たところ、三人とも無傷のようだった。

 メセは私たちの姿を見つけると無言のままトコトコと小走りで近付いて来て、その細い声が我々に届くほどの距離で止まった。


「死んだか」


 彼女はやはり路傍の小石を見るような無慈悲な視線でサトヤを見つめて、そう言った。


「てめえが殺したんだろ」


 ホルズの口ぶりはまるでメセを非難するかのようである。つい先ほどまでは彼もサトヤに対して敵愾心を抱いていたように見受けられたが、今となってはそんなものはもはや遠い過去の感情のようである。


「ある程度の損傷は与えたが、殺し損ねた。おまえがとどめを刺したのか」


 メセは表情一つ変えずにその小さな唇だけを動かして淡々と続けた。


 崖の谷間に風が吹き抜けて笛のような音を鳴らした。


 ホルズは犬歯を剥き出しにして答える。


「てめえもくたばっちまえばいい。あばよ」


 そう吐き捨てるとホルズはサトヤを抱えたまま身を反転して向こう側の崖へと去ろうとしたが、メセの片手がスッと水平に上げられたことに気付くと、ゆっくりとそちらへ振り向いた。


「おいコラ、なんだその手は。なんか文句あんのか」


 メセは黙ったまま、その伏し目がちな顔を少しだけ持ち上げ、ホルズの目をまっすぐ見据えた。その一瞬の後に、彼女が持ち上げた片手の周囲には例の不思議な光の礫が発生した。その一見して神秘的な美しい光は輝きを増すにつれ徐々に禍々しさをも増していき、理屈ではなく本能に訴えかけるような危険な雰囲気をぎりぎりと拡大させていく。言葉は無くとも、それがホルズに対する威嚇行為であることは私の目からも明らかだった。


 ホルズはその様子を見つめながらもサトヤを抱えた腕を離すことなく、ただ憎悪の視線をまっすぐメセに向けていた。


 私は思わずメセとホルズの間に割って入っていた。


「やめろ」


 私は自分の発する声や、メセに向ける視線に篭る怒りの感情を隠しきれなかった。この時自分は既にメセよりもホルズの味方だったのだ。


 メセは一瞬私と目を合わせると、持ち上げていた片手をすぐに下ろした。その手に集まっていた巨大な光の球は一瞬で収縮し、メセが再び私から視線を逸らし、いつもの伏し目がちな様子に戻る頃には発光は完全に収まっていた。


「メセ殿ーッ!」


 メセの背後から、ロープを使って崖を降りたハステが大急ぎで走り寄って来た。


「今、一体何をしていたのですか!敵は…もう…」


 ハステは血にまみれた少女の死に顔を見て言葉を失った。


 ホルズはまるで臆すことなく、顎を引いてより強くメセを睨み付ける。


「血に餓えたバケモノが、まだ殺し足りねーらしい」


「違う」


 メセは珍しく鋭い勢いでそう即答した。


 そして私とハステの間で視線を一度往復させてから、再びホルズの方へと向き直って続けた。


「そのメメトー人は、俺に与えられた使命の一つだ。引き渡せ」


「やなこった!」


 ホルズはそう叫ぶと、ついに背を向けて全力で駆け出した。


 メセも走り出してそれを追う。彼女が私の横を通り過ぎようとする瞬間だった。


「おい!そいつを止めろ!」


 ホルズが、明らかに私に対してそう言った。私は迷うことなく片手を伸ばし、至近距離に居たメセの手首を強く掴んだ。彼女の足が止まり、私の方へと顔を向ける。


「離せ」


「力ずくで振りほどいたらどうだ」


「…どうして邪魔する」


「こっちの台詞だよ。死んだ子供に何をするつもりだ」


 その問いには答えず、ぐい、とメセは掴まれた腕を引っ張ったが、その力は明らかに体格相応の小柄な少女のものでしかなかった。この時確信した。彼女は能力を使うことで私たちを傷つけることを恐れている。先ほどの行為もやはりただの威嚇であり、危害を加えるつもりなど初めから一切無いのだ。


 メセは相変わらず無表情だが、掴んだ腕から焦りの感情が伝わる。


 彼女は唇を微かに動かした。


「死んだ子供のために俺の敵になるのか」


 敵。その一言を聞いた瞬間に私は少しだけ躊躇したが、その躊躇を払い除けなければならないという発作的に出現した強い義務感によって、私の感情はむしろ昂ぶった。

 私の口からは、サトヤの手紙を読んでから今まで私の中に曖昧に存在し続けた意志が、はっきりとした言葉として飛び出した。


「あの子は家族の元へ返されるべきだ!」


 私がさらに力をこめてその手を引っ張り返そうと思った、その時だった。背後のやや遠い位置から一際よく通るはっきりとした声が響いた。


「命令します!メメトー人の遺骸を即座に確保しなさい!」


 握り締めていたメセの手首がまるで火にくべたかのように突然熱くなった。私は驚いたが、そのまま握る力を緩めなかったため、ついにメセは掴まれた手をそのままに全身で勢い良く回転し、私の体を遠心力によって浮き上がらせた。私の握力はすぐに限界に達し、手を離した瞬間に吹っ飛ばされて地面の上をうつ伏せで滑って砂煙を上げた。起き上がって振り向くと、何がなんだか分からない様子で仰け反っているハステの向こうに、たった今の声の主であるニャキの姿があった。ニャキの命令は、私に危害を加えたくないというメセの感情を一瞬で上書きしたのだった。


 私はすぐさまメセの姿を探したが、走り出していた彼女は既に超越的な運動能力を発現させており、まるで私の足で追いつけるような速度ではない。俊足のホルズの疾走にさえどんどん距離を詰めていく。


「てめえーっ!!」


 両者がぶつかる瞬間、ホルズは振り向いて腰の刀を抜いたが、それは一瞬で弾き飛ばされ、激しく回転しながら遠くの岩肌に当たって跳ね返り、まばらな草の上へと落ちた。そしてメセが手を伸ばし、ホルズが片腕で保持し続けていたサトヤの亡骸の首筋へと触れたその時、再び眩い光が放たれ、その光景をそれ以上直視することは困難となった。


「ち、畜生!そいつを返せ」


 光が見えた地点から離れた場所で、ホルズの声が聞こえた。彼は負傷した様子は無いが、サトヤの遺骸から引き離された上に大きく吹き飛ばされ、以前と同じように光の束によって両足を縛られて身動きが取れなくなっていた。


 一旦光が止むと、そこには片手でサトヤの首を掴み、その血にまみれた小さな全身を頭上に持ち上げているメセの姿があった。


「今です、メセ!同化を行いなさい!」


 ニャキの声が響いた。


 メセの両の瞳が妖しい紫色にぎらつき、握り締められたサトヤの首筋から再び光が放たれた。すると遺体の顔面の傷跡はまるで石のひび割れのように、ぴしりと音を立てて亀裂を延ばした。そしてその亀裂の内側からも光が漏れる。


「ああーっ!なんてこった!畜生、畜生!あああーっ!」


 もがくホルズの絶叫が聴こえる。彼の視線の先にあったサトヤの姿は赤黒い煙を上げながらばらばらと崩れて行き、白い灰と身に着けていたぼろぼろの衣類や防具だけがメセの足元に落ちて積もった。その灰も、すぐに吹きつけた風が空へと舞い上げ、どこかへ運んで行ってしまった。


 サトヤの亡骸は消滅した。


 ニャキが歩み寄り、いつもの調子に戻ってメセに声を掛ける。


「崩れてしまいましたか。と、言うことは、やはり自然覚醒した適正者ではなく、なんらかの処置によって強制的に覚醒されられた者のようですね」


 頭上に掲げられたメセの手の中には既に何も握られていなかった。その手をゆっくり下ろしながら、彼女は振り向かずに淡々と答える。


「予め伝えてあった通りだ。探知の時点で、自然覚醒にしては適正が低過ぎることは分かっていた」


「非自然的に出現した我々の関知していない覚醒者、しかもメメトー人です。これを発見、破壊、そして能力の回収が出来たことはそれなりの収穫と言えますね。ですが、どこかにもう一体居るのでしょう?」


 矢継ぎ早に応酬される二人のきな臭い会話は、憤怒に満ちた男の叫びによって中断された。


「おい、てめえら」


 ニャキが振り向き、片手で眼鏡を押し上げた。彼女の口元には、薄っすらと笑みが浮かんでいる。


「まだそこにいらしたんですか」


「てめえらあんな小っこくて弱くて哀れな奴に…ありゃ一体何なんだ!何をしやがったってんだ」


 ホルズがまるで空中にある透明な何かを力いっぱい払い除けるかのように激しく片手を振り上げて、悲鳴のような声を上げた。


「あれは貴方のお友達でしたか?それとも親戚です?私たちの姿を見つけ次第何も言わずにいきなり襲い掛かってきたあの殺人鬼が?これは問題ですね!」


「何をしたって訊いたんだ。返答によっちゃ…」


「自殺でもしますか?」


「殺す」


 ホルズは既に拾い上げていた刀を再び持ち上げ、もう片方の手にはさらに短刀を取り出して逆手に構えた。


「それを自殺と言うんですよ!」


 切れ長の目を大きく見開いたニャキが片手をかざし、ホルズのほうへと向けた。


 メセの髪がそれに呼応するようにざわつく。


「駄目だ!」


 私とハステが同時に叫んだ。


「メセ殿!なりませんぞ!ニャリキミヒ殿が許しても私が許さない。あなたは私を裏切れますか、メセ殿!」


「ホルズ、落ち着け。命令一つあればメセはきっと躊躇しない。戦っても勝ち目が無いのはわかってるはずだ」


 それぞれが彼らの間に割り込んだため、私とハステが向かい合う形になった。


「面白いですね」


 一度上げた手を下ろして、ニャキが笑った。


 ハステが振り向いてその顔を見る。その短い眉毛は釣り上がり、澄んだ大きな両の目は厳しく細められている。彼女は今度こそ怒りの感情を持ってニャキを見ていた。


「敵とは言え、今のは死者を冒涜する行為です。そしてホルズたちがその死を悼んでいたのは様子から見て明らかでした。あなた方の行いは哀悼者の精神すら冒涜したことになりますぞ。説明して頂けますか、ニャキ殿。さもなくば、私はこれ以上あなたに従えない」


 ニャキは皮肉な笑みを止め、真面目な顔に戻ってハステを見つめた。


「正しかったのは私ですよ、ハステさん。あの男はやはり私たちに刃を向けました」


「そういうことを言っているのではない!」


 ついにハステが声を荒げた。ニャキは両の掌をハステに向けて見せる。


「そう怒らないで下さい。私も貴女が離れてしまうのは大いに困ります。ホルズさん、いいでしょう!今、剣を抜いたことは大目に見ましょう!どこへなりともお行きなさい」


「ナメやがって!」


 ホルズが挑発に乗って一歩進み出ようとしたため、再び私とハステが同時に振り向いた。それによって意図せずしてホルズ一人に対して私たち四人が対峙する状況になってしまった。彼が途端に萎縮し、短刀を握った両手を力なく下ろしたのはそのせいだったかもしれない。


 私は不意に、ホルズを『イジメられっ子』と形容したサトヤの言を思い出した。そしてすぐに、死の淵でひどく弱々しくなってしまったサトヤに対して、その態度をまるっきり改めたホルズの様子もまた思い出された。


「ああ、そうかよ…。てめえら二人には借りがあるからよ、そういうことなら従うさ。だがこれっきりだ!約束なんてクソ食らえだ!俺は今後、やりたいようにやらせてもらうからな」


 ホルズは啖呵を切って歩き去ろうとしたが、私は彼の進行方向に回り込んだ。


「なんだてめえは!」


 ホルズは面食らったように私の目を見た。


「僕はこっち側だよ。早くここから離れよう、ホルズ」


「あのクソ女どもと一緒に行くんじゃねーのか」


「僕もさっきメセを妨害したからな。きっともう連れて行っては貰えないと思う」


「ふん…」


 ホルズは私のことをじろじろと見ると、許容も拒絶もせずに、女たちとは反対の方向へと歩き出したので、私はその後を追った。振り向くと、悲しげな目をしたハステとしばらく視線が交差したが、彼女は何も言えずにいた。その背後ではニャキが既に反対方向へ歩き始めている。先ほど崖の上で別れた状況と似ているが、場を取り巻く空気はまるっきり変わっていた。


「待て」


 私たちを呼び止めたのはメセだった。しかしその声色に先ほどのような威圧的な雰囲気は無く、ごく短いその一言だけで彼女が少なくとも私個人に対してまったく敵意を持っていないことが伝わってきた。


「何」


 一旦その場に立ち止まった私の口を突いて出た返事は、思いがけずひどくぶっきらぼうなものだった。目が合うと彼女はやはり黙りこくった。その顔は相変わらずの無表情だったが、まるで犬か猫かなにかのように、動物的な無表情の中に何かしらの感情が潜んでいるようにも感じられた。しかしそれが何なのかはまではわからない。


 私は先ほどハステがこっそりと私にだけ伝えた、メセについての評を一瞬だけ思い出した。


「君には二度も助けられた。それについてちゃんとお礼を言ってなかったね。本当に感謝してるよ。ありがとう」


 そして半ば義務感からそんな言葉が押し出されたが、自分自身に嫌悪感を覚えるほどにその言い方は投げ槍だった。それはやはりきっとサトヤの手紙のせいだった。私はどうしても許すことが出来なかった。私の命を二度も救い、私の同僚の仇を討った彼女のことをだ。


 私はすぐに顔を背けた。


 彼女らはそれ以上何かを言うことはなかった。私は先へ行ってしまったホルズを小走りで追った。その後結局一度も振り返らなかったので実際は定かではないが、彼女らもすぐに踵を返してニャキの後に続いたことだろう。


 ホルズもまた何も言わず崖底の砂利の上をしばらく歩き続けていたが、ある地点を選んで立ち止まり、そこから崖を登り始めた。私たちが歩いていた砂利は緩やかな上り坂に、崖の上の草地は同じ方向へ向けて下り坂となっていたため、そこにあった段差は既に崖と呼ぶのも大袈裟な、私の身長より少し高い程度のものになっていた。独力でも容易によじ登れそうなものだったが、先に上ったホルズが屈んでこちらに手を伸ばしたため、私はその手を掴んだ。


「ほとんど無くなっちまったが、これもあいつの一部だ。届けなきゃな」


 登り終えて肩を並べた私に向けて、ホルズが自らの服にべったりと付いた血液の染みを指さした。


「手紙もある」


 私はポケットを叩いた。


「と、言うわけで、俺たちは今からアホどもの根城へと向かうわけだが、てめえの身の危険は心配しなくていい。俺が指一本触れさせねーからよ。それよりもいいのか。会いたい奴が他にいるんだろ?」


「危険を回避できる能力を持つオーリスさんにとっての脅威になり得るサトヤはもう死んだんだ。僕がどこへ行ってもいずれ会えるよ。それに、よく考えたらおまえが会いたくなさそうな連中も彼女と同行してるはずなんだよ。さっきまではそれをすっかり忘れてたんだ」





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