4. 冒涜
他の大勢の隊員らとの共同作業を苦手とすることがどうやら隊長にバレていたらしい私は、本来部外者であるセリトと共に死体を埋める作業を命じられた。が、セリトは朝は自慢のブロンドの頭髪をツンツンに逆立てる作業に忙しいらしく、ノラッドから受け取ったシャベル型の槍を私に押し付けて川へ行ってしまった。彼は昨日のうちは、隊が彼のために村人から買い上げた、いかにも農民と言った感じの粗末な服を着ていたのだが、今朝は別のもう少しだけ見栄えの良い、どこかで見覚えのある旅人用の服を着ていた。一体どんな交渉をしたのか、どうやら体格の近い他の隊員と交換したらしい。
私はけもの道からやや離れた場所に短い草の生えた柔らかい地面を見つけ、そこで一人墓穴を掘る作業に励んだ。しかし時間が満足に与えられなかったこともあり、まるで十分な深さの穴は掘れなかった。そもそも焚き火による即席の簡易火葬では、骨だけではなく肉や内臓も多くが焼け残るのだ。それに虫化した者の体は筋肉の多くが火の通らない硬い繊維や甲殻に変化しているため、焼いたところでそこまで軽くなるということもない。
私はなんとか掘った浅い窪みに、もはやどれがどの部位かまるでわからなくなった二人分の焼死体を投げ入れると、その上に足で土を蹴りかけた。それはまったく埋葬と呼べるものではなかった。だらだらとのんびり掘った浅い穴からは人骨や殻が大きく飛び出していた。しかしもはや墓穴を掘りなおす時間など無い。
そのまま、まるでゴミのように土とこね合わされただけの死体を眺めながらやる気をなくして茫然としていると号令がかかったので、私は作業を放り出して歩き出した。
結局、面倒臭さが感傷に打ち勝ってしまったのだ。つい先ほど、死者を侮辱したセリトを殴ろうと思わなかったのもそのはずだ。私だって何も変わりはしないのだから。
…果たしてこんなことが許されるのだろうか…。私は一時の怠惰のために、永遠に私自身に圧し掛かってくるかもしれない後悔を受け入れる覚悟が本当にあるのだろうか。
私はその場を離れようとしながらも後ろ髪引かれる感覚を無視出来ずにいたが、不意に遠くで誰かが苛立ちを含んだ声で私の名を呼ぶのを聞いた。きっかけとしては十分だった。私は怠惰を焦燥に置き換えて、それ故に自らの行為は仕方の無いことだったのだと咄嗟に正当化し、その瞬間にそれをそれ以上考えることを止めた。とにかく一刻も早くこの場を立ち去りたかった。私はついに駆け出した。
こうして、短い付き合いだった私の唯一の友人の死は、遠い過去の物語となってしまった。
私が集合場所へと着くと、一体どこで整髪剤を調達したのかセリトは既に髪を完璧に整えて隊列に加わっていた。