2 二人でひとつだったから
まだ二人とも、社交の意味をよく知らなかったころのことだ。
春の終わりの午後で、庭の芝は明るく、花壇の縁だけが少し濃い影を落としていた。エリンが裾を持って歩く少し先を、クラリスはほとんど駆けるように進んでいく。目についたものへまっすぐ寄っていくところは、そのころから変わらなかった。
「見て、エリン」
花壇の脇でしゃがみ込んだクラリスが、手の中の白い花を差し出す。小さくて、薄くて、触れればすぐ形を失いそうな花だった。
「きれいでしょう」
エリンもその隣にしゃがむ。花だけではなく、まわりの色も見る。少し離れたところに薄紫があり、奥には黄を含んだ白がまとまっていた。その中で見ると、クラリスの摘んだ白はたしかにきれいだったが、一本だけでは少し心もとない気がした。
「きれいよ」
「でしょう?」
「でも、それだけだと少しさみしいかもしれないわ」
クラリスは目を丸くした。
「さみしい?」
エリンはすぐそばの花へ手を伸ばした。
「こっちを一緒にすると、もっときれいに見えると思うの」
「どうして?」
「どうしてかは、まだうまく言えないけれど」
そう言って、二本を並べてみせる。
「一つだけだと、そこだけで終わってしまうでしょう。でも、少し違う形のものが隣にあると、白いところがちゃんと見えるの」
クラリスはしばらくそれを眺めて、それから笑った。
「面白いの」
そのあとも二人は庭を歩いた。クラリスは目についた花を摘みたがり、エリンは、そのたびに合うものを選んだ。やがてクラリスは、エリンが手を伸ばした花のほうを先に籠へ入れるようになった。
「それでいいの?」とエリンが聞くと、クラリスは不思議そうにした。
「いいわよ」
「だって、最初に見つけたのはクラリスでしょう」
「でも、咲かせるのはエリンのほうが上手だもの」
花を摘み終えて、東屋の石段に並んで座る。籠の中には白、薄紫、青みを帯びた小さな花、それからやわらかい葉が少しずつ重なっていた。クラリスはそれをのぞき込み、うれしそうに息をつく。
「きれい」
「ええ」
「最初にわたしが摘んだ白だけだったら、こうはならなかったわね」
「ならなかったかもしれないわ」
「エリンがいてよかった」
あまりにまっすぐに言われて、エリンは少し笑った。
そう言われるのは、たぶん初めてではなかった。
やがて侍女が二人を呼びに来て、そろそろ戻りましょうと声をかけた。クラリスは立ち上がると、当然のようにエリンの手を取った。
そのまま屋敷へ戻ると、応接間には母と、訪ねてきていた夫人が二人いた。窓は開けられていて、卓の上には茶器が並んでいる。
「まあ」
最初に気づいたのは客の夫人のほうだった。
二人の手元の籠を見て、それから並んで立つ姿を見て、目を細める。
「なんて愛らしいこと。お二人で摘んでいらしたの」
クラリスがすぐにうなずいた。
「ええ。でも、きれいにしたのはエリンです」
「クラリスが見つけたのよ」とエリンは言う。
夫人たちは顔を見合わせて笑った。
「まあ、本当にいつもご一緒なのね。並んでいらっしゃると、それだけで綺麗ですこと」
もう一人の夫人が籠をのぞき込む。
「この白をお選びになったのはどちら?」
「わたしです」とクラリスが胸を張った。
「でも、薄紫を入れたのはエリンなの」
「なるほど」
夫人は感心したようにうなずいた。
「白だけでは少し儚すぎますのに、こちらが添うと急に品が出ますわね。お二人でなさると、こんなふうに綺麗になるのだわ」
母もそのときはやわらかく笑っていた。
「クラリスさんは、昔から見つけるのがお上手なの」
すると夫人が、すぐに言った。
「そしてエリンさんは、どこへ置けばいちばん美しいかをご存じなのね」
クラリスはそれがうれしくてたまらないように、エリンの手をもう一度握った。
「ほらね」
「何が?」
「二人でやったほうが、ちゃんときれいになるの」
その言い方が、いかにもクラリスらしかった。
見たままをそのまま口にする、そのまっすぐさに、エリンは何度も救われていた。
結局、その花はその場で小さな花器に移されることになった。白がいちばん高いところに置かれ、その脇へ薄紫が添えられる。夫人たちはまた「まあ、なんて綺麗」と声を上げ、母も満足そうにうなずいた。
そのころにはもう、周囲も二人を一緒に見るのが当たり前になっていた。どちらか一人を褒めるというより、二人並んでいる姿に目を留める。片方が前へ出れば、もう片方はその隣にいるものとして扱われる。それを窮屈だと思ったことはなかった。むしろ、そういうものなのだと信じていた。
花器の中で、白と薄紫はよく馴染んで見えた。
夫人たちは笑いながら二人を見比べ、母もやわらかくうなずいていた。
あのころのエリンには、それがなくなる日のことなど、思い浮かびもしなかった。




