ハキリアリ
防毒マスクを外し噴き出す汗を拭いながら、地下室の床を深く掘り下げて作った菌床から採取してきた茸を、シンクの脇のカウンターに置く。
肥料が良いのと、菌床に下りただけで汗が噴き出す程の湿度でジメジメした此の茸が好む環境のお陰で、丸々とした大きな茸。
柄なんて大人の太もも程の太さがあり、その上に女性の臀部程の傘がついている。
此の茸1本で人が1日に必要とする全ての栄養素を得る事ができるの。
難点は他の茸類と同じようにカロリーが低いってところかな。
ま、1本食べきれば1日に必要なカロリーも摂取できるから良いんだけどね。
茸類は洗わずに調理しろって聞くけど、此の茸は洗わなくちゃ駄目。
肥料にチョット特殊な物を使用しているんだけど、そのドロドロした物が茸の石づきだけで無く柄や傘にもこびり付いているから。
私はヴィーガン、以前は茸だけでなく穀物類や果実に野菜も食べていたけど、此の茸を教えてもらってからは1日に口にする食物は此の茸だけになった。
今日は夕食後出かける用事があるから早く食事を作らなくちゃ、此の茸は焼いても煮ても蒸しても美味しいのよ。
もちろん生でもいける。
夕食の後、茸を乾燥させて作った茸茶を飲んでいたら近所に住むヴィーガン仲間が迎えにきた。
此れから向かうのは、近隣の市町村に住むヴィーガン仲間の人たちとデモを行った時に、これ見よがしにフライドチキンのバレルを抱えてチキンを食い散らかした男の家。
男は両親や兄弟らと一緒に暮らしている。
どうせ両親や兄弟も男と同じような反ヴィーガンだろうから、寝静まってから致死性のガスを家の中に流し込み皆殺しにするの。
そして死体は茸の肥料として使わせてもらうから、発覚しても殺人事件では無く失踪事件ってなるのよ。
他の生物の命を奪ってその肉を食べるんだから、自分の肉体が茸の肥料として使われても文句は無いでしょ。
ヴィーガン仲間から偶に茸の名称を聞かれるんだけど、此の茸を私に教えてくれた人も分からないんだって。
ただ、大きさや好む環境とかは違うけど、ハキリアリが栽培している茸の近縁らしいわよ。