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その先は朱か黒か……  作者: 空葉
一章:地獄へと
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第8話:未練と感謝

 あれからクロハ達二人は出口を探して走っていた。

 下水道内は迷路のようになっており、二人は迷いながらも出口を求めて走る。



    ◇



「はぁ、はぁ……出口?」


 しばらくひたすらに走って、何十もの曲がり角を曲がったところで二人の目に光が差し掛かる。


 二人は光の方へ走っていく。


「街?」


 光の方へ走っていく中二人は石造りの建物が並んでいる景色を見た。





「で、出れた……」

 

 二人は無事に下水道から出ることができた。しかし出口は街の外れにあり、付近に人はいない。


「休憩したいけど、組織の人達が来たら困るから……クロハちゃん、歩きでも良いからここから離れるよ」

「う、うん……」


 二人は激しく疲弊しているが、根性で足を動かし、下水道の入り口から離れようとする。


「全く困るな、本当に危なかったぞ」


 しかしその時、ある男の声が辺りに響いた。



    ◇



 時は少し遡る。


 ダロンはオークションの準備を着々と進めていた。しかしそんな彼はとある知らせを受けた。


「何!? 逃げただと!?」

「は、はい……溝蓋の下から下水道へ降りていきました」


 そう、クロハとレオナが逃げたという知らせだ。


「すぐに森にある入り口を押さえろ!」


 ダロンは情報を聞き、素早く下水道の入り口に組織の人間を数人向かわせた。


「絶対に逃がすなよッ! クソッ! ここであいつを逃がせば大きな損失になる!」



    ◇



「何? まだ見つかっていないだと?」


 ダロンは森付近にある下水道の入口に数人待機させていたが、未だに逃げた二人を見つけられていないと報告を受け、焦っていた。


「あいつらはもう逃げたのか? いやまだ下水道の中にいるはず……ッ!」


 更に焦っていたダロン、しかしそこであることを思い出す。


「そうだ、もう一つ街の方に入口がある……チッ! 今からでは遅い、私が行くしかないか」


 そう言って、彼は魔法陣が描かれている紙を取り出す。


「クッ、背に腹は代えられんか」


 ダロンが取り出した紙には一定時間魔力が続く限り空を飛ぶことができる魔法陣が描いてある。これは魔法紙と呼ばれる、紙に魔法陣を埋め込んだ魔道具である。

 この空を飛ぶ魔法陣はラストリア帝国が秘密裏に創作した物であり、帝国は魔法陣が他国へ渡るのを恐れ、量産を規制している。そのため一般には出回っていない代物であり、裏社会での取引でも非常に高価で入手困難な魔法陣なのである。裏社会で名を馳せて、様々な高価な代物をいくつか所持しているダロンでさえも、その魔法紙を一枚しか持っていないものだ。


「……行けるな、あとは次第に慣れるだろう……絶対に逃がすものかッ!」


 空を飛ぶとなると、ある程度訓練が必要であるが、ダロンは獲物を逃がすまいという思いだけですぐに感覚を掴み、空へと飛び立った。



    ◇



「全く困るな、本当に危なかったぞ」


 そして今に戻る。


「なんで……」


 クロハはダロンを見て呆気にとられている。


「っ……」


 レオナはダロンのことを見たことが無かったが、彼の口ぶり、そしてクロハの反応を見て組織関係の人間だと気づく。


「はぁ、本当に危なかった」


 それに対してほっとしたように息を吐くダロン。


「クロハちゃん走るよ!」


 レオナはここで諦めるわけにはいかないと思い、クロハの腕を取って逃げようとする。


「あがっ……」


 しかしそんなレオナに土製の槍のようなものが飛んでくる。レオナはそれを躱せずにそのまま腹を貫かれ、呻き声を上げて倒れる。


「れ、レオナっ!」

「今回はさすがの私も頭にきたからな、その罰だ」


 ダロンはそう言って二人に近づく。レオナを貫いたのは彼の魔法だ。


「嘘でしょ? ねぇっレオナっ!」

「ク、ロハちゃん……逃げて」

「レオナを置いて逃げれるわけ無いよッ! ね、ねぇ……」


 クロハは恐怖する、絶望していた心を照らしてくれたレオナが瀕死になっている事実に。


 ──つい最近大切な人を失ったばかりなのにまた失ってしまうの?


「煩いな……再生の天賦があるなら別にいいか」


 ダロンはそう呟きクロハの頭を強く殴り付ける。


「うっ、レオ……ナ」


 頭を強打されたクロハは朦朧とする意識に抗おうとするも叶わず、そのまま意識を失った。



    ◇



「クロ……ハちゃん」


 ダロンに殴られて気を失ったクロハを見て、レオナはそう呟く。


(あぁ、失敗したんだ……)


 レオナは現在の状況を見て、そう悟った。


「ふぅ、全く……ちょっとやりすぎたか?」


 ダロンはレオナを見てそう呟く。


(もう痛みも感じないや、そろそろ私は死んじゃうのかな?)


 レオナはそんなことを考えながら、徐々に意識が朧げになっていくのをを感じていた。


「まあいい、勿体ないがこいつを回収できただけで良しとしよう……苦しいだろう、今楽にしてやる『我が魔力よ、土の意思によって槍と化し、敵を穿て、アースウィングランス』」


 ダロンはそう言い、先程レオナを貫いた魔法を彼女に向かって放つ。狙いは頭、レオナの頭を貫くつもりだ。



    ◇



 レオナはとある街の貧乏の家に生まれた。

 幼い頃から両親は彼女に厳しく、褒めることが全くなかった。レオナは両親から褒められたく、勉強を頑張り、手伝いなどを積極的にしていた。しかしそれでも褒められることはなく、レオナに向けられるのは『できて当たり前』『もっと頑張れ』そんな言葉だけであった。

 それでもいつか認められると信じ、更に勉強をし、手伝いも多くやることにしていた。


「お金が無くてね、さようなら」

「え?」


 しかしある日レオナは両親に売られることとなった。

 借金が返せないほど膨れ上がってしまい、限界だと感じたレオナの両親は、彼女を売ることで金を得ようと考えたのだ。


 初めレオナは突然の出来事に理解できていなかったが、徐々に理解し、悲しみに涙を流した。しかし彼女は二人の役に立てたなら良い、と無理やり前向きに思い、その日のうちに泣き止むことにした。



 奴隷となり毎日強制的に作業をさせられる日々、ミスをすると鞭で叩かれ、暴力を振られる。他の奴隷を見ても目が虚ろになっており、呼び掛けても反応がない。

 レオナはその環境に何度も挫けそうになった、しかし彼女はいつか転機が訪れる、そう思って日々を過ごしていた。


 そんなある日、彼女は自分よりも背の低い黒髪の少女が作業場にて作業をしているのを見た。クロハである。


「……」


 よく荷物を落とし、何度も鞭で叩かれ、痛がっているところを笑われる、などしているクロハをしばらく見ていたレオナだったが、徐々に耐えられなくなり、彼女はクロハを庇う行動に出ていた。


 その後クロハに興味を持ったレオナはクロハと一緒に過ごすこととなり、二人は徐々に距離を縮めることとなる。



「クロハちゃん、大丈夫?」

「うん、ちょっと擦りむいただけ」


 最悪な環境での生活にもかかわらず、レオナはクロハと過ごす日々が充実してるように感じていた。


「クロハちゃん、だいぶ元気になったね、よかった」

「……うん、これはレオナのお陰だね」


 クロハの精神が落ち着いたのは、天賦の力だけではなく、レオナのお陰でもあった。


(だけどね、私もクロハちゃんのお陰で空いた心が埋まっていくような心地いい感覚がするんだよね……ふふっ、逆に私が元気を貰ってるよ)



    ◇



 レオナを死に至らしめる魔法は、もう彼女の目と鼻の先まで迫っていた。


(死ぬ瞬間ってこんなに時間が遅く感じるんだね、でもこの時間は長くは続かないよね……やっぱり死ぬのは怖いなぁ、もっと楽しい人生を歩みたかったかも……もし、クロハちゃんと逃げ切れてたらきっと楽しい人生を送れてたのかもね。生まれ変わったらクロハちゃんと一緒に生活したいや)


 死を目前に、そう考えるレオナ。


(クロハちゃん……)


 ──ねぇ、レオナ……その、ありがとう

 ──クロハちゃん急にどうしたの?

 ──天賦の効果があると言っても、実際にレオナは私の心を照らしてくれたし、レオナが居なかったらこうして組織から逃げ出すこともできなかったから、その……何となく言っておこうかなって思って……

 ──あはは、照れるなぁ……ふふっじゃあ私も! クロハちゃんのおかげで私の心も照らされたよ


(短い付き合いになっちゃって、ごめんね……)


 ──これから長い付き合いになると思う! よろしくね!

 ──ふふっ……それは逃げ切ってから言うことじゃないの?

 ──逃げ切れるに決まってるから今言っても問題ないよ!

 ──そうかもね


 ──あっ、これ言い忘れちゃいけないよね!

 ──え、なにを?


(そして


 ──私からも!


 ありがとう)



    ◇



「返るか」


 そう呟きダロンはクロハを抱き上げ、組織へと戻っていった。


 彼が先程までいた場所には、鮮やかなあかと共に一人の少女が永遠とわの眠りについていた。

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