第6話:変化
「そういえば、クロハちゃんって何歳なの?」
あの後組織の人間が来て、奴隷達は早朝から昨日と同じ作業をしていた。その時にレオナがクロハにそう聞く。
「今年で十歳になるけど、九歳」
「九歳か~!」
「……レオナさんは?」
「レオナって呼び捨てで良いよ! 私は十一歳!」
「一つ上なんだ……」
クロハは昨日より少し元気になり、二人は少しずつ距離を縮めていた。
◇
「ねぇ……私の話を聞いてくれる?」
しばらくして作業が終わり、檻に戻ってからクロハはレオナにそう告げる。
「うん、良いよ」
クロハの言葉を聞いたレオナはそう言って姿勢を正して彼女と向き合う。
クロハはここに来るまでのことをレオナに話した。
村が襲われたこと、自分が元凶を連れてきてしまったこと、両親が殺されたこと、全部自分のせいだということ、そして気がついたらこの場にいた、ということを全て話した。
クロハはそれを涙を流しながら語った。
レオナは言葉を失っていたが、クロハが話終えるとそっと優しくクロハを抱きしめた。
「……よく頑張ったね、話してくれてありがとう」
「……っ……聞いてくれて、ありがとう」
それから2人の仲は更に深まっていった。
◇
「あれ? クロハちゃん傷が消えてる?」
それから数日が経ったある日、朝起きてレオナはクロハの異変に気がついた。そう、クロハの体に傷が全く見当たらないのだ。
「え?……ほんとだ」
それを聞いてクロハも今まで感じていた痛みを全く感じていないことに気がついた。
「お前ら仕事だ、さっさと起きろ 今日は木箱に物を詰める作業だ」
そこでいつもの奴隷達を起こす男が来た。作業の時間のようだ。
「ん?……なんかお前の体、綺麗すぎねぇか?」
そこで男もクロハの傷が消えてることに気がついた。
「昨日も何回か鞭で打ったはずだが、痣1つない……それどころか今までの傷跡すら無い、だと?」
男はクロハの体をじっくり見て、驚愕が混じった声でそう言う。
「……おいお前、今から俺に付いてこい」
男は少しの間思案してから、突然クロハそう告げた。
「えと、なんでですか?」
「ちょっと! クロハちゃんになにする気!?」
「うるせぇ! さっさと来い!」
男はそう怒鳴ってクロハの腕を取って連れていく。
「ちょ、ちょっと!」
レオナは連れていかれるクロハを見て追いかけようとするが。
「おい、お前は作業をしに行け」
レオナの前に別の男が立ち塞がり、その男がそう告げる。
「レ、レオナ大丈夫だから……」
クロハはレオナを安心させるためにそれだけ言い残して、男に連れていかれた。
「むぅ……本当に大丈夫かな?」
そう心配に思いながらも仕方なく指定された場所へ行くレオナであった。
◇
クロハは男に連れられ装飾が無駄に豪華な部屋に来ていた。
(こんなところがあったんだ)
クロハがそんなことを思っていると、引率していた男が「ここで待て」とクロハに告げて部屋の奥へ消えていった。それを聞いたクロハは大人しく待つことにした。
それからクロハがその場で数分待っていると、男が彼女の元へ戻ってくる。そして部屋の奥からもう一人、白銅色の髪色をしている髭の長い中年の男が出てくる。
「お、この子か……ふむ黒髪とは珍しい、そしてなかなか良い見た目をしてる」
そう言って男は観察するようにクロハを見る。
「ダロン様、本題に」
クロハを観察していた男、ダロンと呼ばれた者は「ああ、そうだったね」と思い出したかのように言い、彼女がここに連れてこられた要因について話し始めた。
「傷が消えてたんだって? 確かに今のこの子に傷は見当たらないな……うん綺麗な肌をしている、昨日までは傷があって、今日見ると傷が見当たら無かったと」
「はい、明らかにおかしいと思い、魔法か何かを使ったのでは? と思いまして……」
「なるほど……傷を直す魔法と言うと、光属性か? 君、魔法が使えるのかい?」
ダロンはクロハにそう聞く。
「ま、魔法は使ったことありません……」
ダロンの問いに対して彼女は素直にそう答える。
「ふむ……無意識に使ったのか、はたまた……」
彼はクロハの答えを聞いてなにやら思案しているようだ。
「……そうだな、見てみるか」
しばらくするとダロンはそう言って透明な水晶を取り出した。
突然だがこの世界には魔法とは別に魔術というものがある。
魔術は魔法と同じく魔力を消費して発動させるが、魔法とは異なる点がある。
魔法は適正が必要、基本的には詠唱が必要、となっているが。魔術には適正などは無く、詠唱も必要ない。世間では魔法は元々人間の体に備わっているもの、魔術は後に人間が開発したもの、と言われている。
魔法は主にイメージが重要だが、魔術は魔法陣と呼ばれるものを描くことが重要である。
魔法陣にはさまざまな記号や図形などが描かれており、魔法陣を描くにはそれらの意味を理解する必要がある。更に、描いた陣の正確さが魔術の精度に直結するため、慎重に描かなければいけない。しかし魔法陣さえ完成すればあとは魔力を流すだけで使用が可能であるのが魔術の最大の利点である。
更に魔法陣を物に埋め込むことで、埋め込んだ魔術を行使することができる“魔道具„と呼ばれる物を作ることができ、魔術は魔法には無い汎用性がある。
ダロンが取り出した水晶は魔道具であり、鑑定の魔術が埋め込まれている。
触れると触れた者の適性属性と“天賦„というものを調べることができる。アズラ王国では10歳になった頃に教会で適性属性と天賦を調べる、その際にもこのような水晶を使って調べる。
天賦についても語っておこう。
天賦とは神からの授け物と言われ、十万人に一人が持つとされている。生まれつき持っている者も居れば、ある日突然授かった、という者もいる。
まだまだ研究が進んでおらず、その詳細はあまり判明していないことでも知られている。
「よし、これに触れろ」
ダロンは水晶をクロハの前に置き、そう告げる。
彼はクロハの魔法の適性属性と天賦を調べるつもりのようだ。
「は、はい……」
クロハはダロンの言葉を聞き、大人しく水晶に触れる。すると。
適性魔法属性:闇
天賦:超再生、精神保護
という文字が水晶に浮かび上がった。
「な!?」
その文字を見たダロンが驚きの声を上げる。
「闇属性、それに天賦が二つだと……?」
光属性と闇属性は扱える者が非常に少ないことで有名であり、更に十万人に一人が持つとされる天賦を二つも持っている、これで驚かないほうが無理と言うものである。
これを見てダロンは呆気に取られていたが、徐々に口元に笑みを浮かべる。
「超再生、傷が治った要因はこれか……今日見たときに傷が消えていたということは最近開花したばかりか? それに加えて精神保護とやら、ククッこの奴隷、高く売れそうだ!」
そう言って不気味に笑うダロン。
「あの……私は、売られるんですか?」
高く売れるという言葉を聞いてクロハは恐る恐る彼にそう尋ねる。
「ふふっ、勿論だ、君を欲しがる人は多いだろうからね……ここでこのまま働かせるのは勿体ない、良い主人が買ってくれると良いね」
「……売られる」
クロハはダロンの言葉を聞いて何とも言えない思いを感じていた。
「よし、さっそくオークションを開く準備をしよう……この子を檻に戻しておいてくれ」
「了解です」
ダロンは興奮を隠しきれないと言った表情で、クロハを連れてきた男に彼女を檻に戻すよう告げ、部屋の奥へ消えていった。
クロハは男に連れられいつもの檻に戻るが、レオナはまだ作業をしており檻には居ない。
(闇属性、超再生、精神保護……)
クロハは先程ダロンが言っていた自分の能力について考えていた。
(最近急に心が軽くなったように感じたのは精神保護、のおかげなのかな……)
その通り、彼女の精神が異常な速度で正常に近づいたのは精神保護という天賦のおかげである。この天賦はクロハが狂いそうになった時などに発動し、正気を失わないように強制的に精神状態を平常に戻す天賦である。
(それより、売られる……今より良い暮らしができるかもしれない、だけどそうとも限らないし、なによりレオナと離れたくないな)
彼女は売りに出されると聞いてそのことについても考えていた。
クロハは自覚していないが、彼女はレオナに対して少し依存している。それもそうだろう、レオナは絶望の中で唯一手を差し伸べてくれた存在なのだから。
(早くレオナ帰ってきてくれないかな……)
一人しかいない檻の中で、クロハはそう思ってレオナの帰りを待つ。
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【あとがき】
空葉です。
朱黒6話を読んでくださりありがとうございます!
突然ですが、最近私作曲を始めましてですね、良かったら作った曲を聞いてほしいです。
チャンネルのリンクは近状ノートに貼っています。
それと朱黒完結したらメインテーマでも投稿しようかと思っていますのでその時は是非!
【あとがき】
空葉です。
朱黒6話を読んでくださりありがとうございます!
突然ですが、最近私作曲を始めましてですね、良かったら作った曲を聞いてほしいです。
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