第52話:戦いの終わり
辺りを闇が覆い尽くす。
ゴルムの刃はクロハには届かず、クロハの魔法はゴルムを飲み込んだ。
「……」
オミナスの時のような抵抗をされている感触は無く、しばらく闇が続く。
「倒せた、かな」
闇は晴れ、そこにはゴルムの姿が無い。
「残念だな」
「っな――」
しかし次の瞬間、その声と共にクロハの首が切断された。
「あの魔法は強力であった、しかし体に大量の魔力を纏えば簡単に耐えることができたぞ……まあ、もう聞いていないか」
彼女の首を切断したのはゴルムであった。彼はクロハの魔法を受ける直前、自身の体に魔力を大量に纏うことで、あの魔法に対抗して見せたのだ。
首を切断されたクロハを見て、絶命したと思い、彼は背を向けて玉座へと戻ろうとする。
しかし。
「なっ……クッ。チィッ!」
「ぐっ」
ゴルムは突然後ろから背中を刺された。刺した者はクロハであった。
彼女は心臓を狙ったが、ゴルムが直前に反応したため、急所を外してしまった、更に彼の体は硬く、彼女の短剣は深くまでは沈まなかった。そのため有効打にはならず、クロハはその後ゴルムの回し蹴りで飛ばされた。
「貴様、なぜ生きている」
「……私もわからない」
彼女が生きている理由は勿論天賦の超再生である。
しかしクロハ自身も困惑していた。何故彼女も困惑しているのか、それは彼女も首を斬られたら死ぬということが直感的に分かっていたからである。
実際、今までなら首を斬られた場合確実に彼女は死んでいただろう、だが既に彼女は数えきれないほどの傷をその超再生で治している。
超再生は傷を治せば治すほどにその再生速度が早まる。故に沢山の傷を超再生で治してきたクロハは、今では首を斬られたとしても絶命する前に首が再生する、そんな状態になっていた。
「血が止まっていたのには何かあると思っていたが、まさか不死身とは」
「不死身じゃないはず、なんだけど」
「なら、細かく切り刻んで確かめるとしよう」
「まあ良いや、これでお前を殺すまで生きれる」
そうして再び二人の衝突が始まる。
――数分後
「ゴルム様! 何事ですか!」
「遅いぞ貴様ら! だがちょうど良い、もっと他の兵を集めて来い、この者を切り刻むぞ」
戦闘音を聞き、数十人の兵が玉座の間まで訪れ、ゴルムは兵達にそう告げた。
戦闘はまだ続く。
――数十分後
玉座の間には次々と兵が押し寄せていた。
「ククッ私を相手にしながらこの量を相手しきれるか?」
ゴルムはまだ余裕である。
しかし両者ともに有効打は与えられていないようである。
――数時間後
「……貴様、いつまで戦うつもりだ?」
「お前を殺すまで」
「貴様、あれほどの相手をしておいてまだ体力が残っているというのか」
「さあ、ね」
数時間後にはやって来た帝国の兵達は、クロハにより全て惨殺されており、再びゴルムとクロハは一対一となっていた。
流石にクロハは魔力、そして特に体力を相当消費していた。
「私はお前を殺すまでは倒れない」
「そうか」
クロハは闇属性上級魔法・ナイトメアブレード、更に闇属性上級魔法・ナイトメアアローを同時にゴルムへと飛ばす。ブレードはカッター系の上位版である。
対してゴルムは火、水、風、土の四属性の上級アロー系魔法を放つ。彼の適性魔法属性はこの四属性である。
二人の魔法は拮抗していたが、徐々にクロハが押され始め、やがて彼女はゴルムの魔法に飲み込まれる。
「まだ貴様はまだ立つのだな」
「言った、お前を殺すって」
クロハの傷はもはや瞬きをするだけで回復をする。それを見てゴルムは徐々に焦りを感じ始めていた。
――更に数十時間後
「はぁ……はぁ」
「……」
両者は疲弊している、しかし今はゴルムの方に特に疲弊が見える。
クロハも疲弊していないわけではない、しかし肉体が再生される際にある程度体の疲れが解消されるのだ。今の彼女の疲れは精神的な苦痛や、魔力の消費。そして以前あった魂のような自身の奥底からの疲れであった。
このまるで魂の疲労のような疲れは、超再生の発動が頻繁に起こると出る、とクロハは予測していた。実際、ゴルムからの攻撃が徐々に当たらなくなり、超再生の発動頻度が大きく落ちてから、彼女はその疲労が徐々に解消されていくのを感じていた。
「形成逆転してるみたいだね」
「……くっ、そんなはずは」
クロハはこの戦いの中も成長をしている、そのため疲れも相まってゴルムは徐々に彼女から攻撃を受け始めていた。
形成が逆転し始めている。
――数十分後
「はぁ……はぁ、やっと殺せる」
「……くっ」
遂にゴルムは疲れ果て、動けないでいた。
クロハも物凄く疲れた様子を見せているが、まだ動けるようだ。
「私の、負けか……」
「うん、さっさと死んで地獄で詫びろ」
「ふっ、そうしよう、アズラの王室共と、な……がっ」
「最後まで煩い……!」
クロハは短剣をゴルムのその太い首に刺し、捻って引き抜く。
「が……あ゙…あ」
「仇は、取りました……」
こうしてゴルム・ラストリアは絶命し、この長き戦いはクロハが勝利したのであった。
◇
ラストリア帝国の皇帝、ゴルム・ラストリアが死亡したという事実はすぐさま大陸中に知れ渡った。
「まさか本当に殺すとはな……嬢ちゃんをうちに誘って正解だったな」
「そう、なら良かった」
「嬢ちゃんも満足したか?」
「さあ、ね……」
アジトに戻ってガントと話をしているクロハ。
ゴルムを殺した彼女であったが、その気持ちはまだどこか曇っていた。
「今日はもう帰る、じゃあね」
「そうか。まあ、なんだ……あまり思い詰めるなよ」
「……」
クロハはアジトを出て、どこかへ歩いていく。
【あとがき】
人物紹介を挟んだら最終回です。
色々思うところがあるかもしれませんが、是非是非最後までご覧ください!