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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
最終章:その先は……黒(黒葉)
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番外編:ラードルの最期

「さて、見えない壁の対処法を考えるかのう」


 時は遡り約二年前、ラードルが転移魔術を発動し、クロハたちの前から消えた後の事。

 彼は無事、別大陸に行けない原因の見えない壁付近にまで来ていた。


「硬いのう」


 ラードルは壁を触り、そう呟く。


「魔法を放ってみるかの」


 一先ずその壁の強度を確かめようと思い、彼は上級魔法を複数放つ。その時彼は気づいた。


「壁から魔力反応じゃと?」


 上級魔法が命中した見えない壁は、凹んだ箇所も無く無傷であるが、彼は魔法をぶつけた際に、その壁から魔力を感じ取ったのだ。


「……もしやただの魔力、という可能性もあるかのう?」


 そこでラードルは一つの仮説に辿り着いた。

 それはこの見えない壁が魔力が固まっただけだという可能性に。


「一度先程の魔力を操作できるか確かめるとするか」





「これだけじゃったとは……」


 あの後、彼は見えない壁の魔力反応があった部分の魔力を見つけ、動かした。すると動かすのに苦労したとはいえその後、そこは通れるようになっていた。


 見えない壁の研究を始めてここまでで数十分。あまりの呆気なさにラードルは呆然としていた。


「まあ良いわい、早速大陸に…………なるほど、この壁はすぐに元通りになるのじゃな」


 思考を元に戻し、もう一度通ろうとすると、開けた部分は塞がっており、通れなくなっていた。


「魔力が固まるのは、恐らく風の影響じゃな、ちょうどここは風が衝突する場所ということじゃな」


 この場所は空を飛んでいるラードルが風に流されそうになるほど風が強く、更に風同士の衝突が頻繁に起きていた。

 そのため風によって魔力が運ばれ、長い間衝突を繰り返している内にその魔力が固まったとラードルは解釈した。


「本当にパパっと何とかできるとはのう、儂は天才じゃな。もう解明はできたしの、早速別大陸へ向かうとするのじゃ」


 あっさりと見えない壁の解明をしたことに自画自賛するラードル。

 そんな彼はもう一度壁の魔力を操作して、別大陸へと向かうのであった。





「〇□◇%!」

「◇◆□〇!」

「何を言っておるのか分からんのう」


 別大陸にも国や人間がおり、ラードルが初めて訪れた国の人間たちの殆どは、空を飛ぶ彼を敵視しているようであった。


「こら、刃物を投げてくるでない……一先ずここから離れるかのう」


 言葉が通じないため交渉もできず、結局彼はその場を去ることにした。







「初めて目にする動物はおれど、ここの人間たちは魔法というものにまだ疎いようじゃの」


 別大陸に降り立ってから約一年程が経ち、ラードルは巨大な木の枝の上で息をついていた。

 彼は一年でこの世界のほぼ全ての大陸を回った。

 そしてアストラ大陸と違い、他の大陸はまだ魔法というものがあまり研究されていないということが分かっていた。


「ふぅ、儂ももう年じゃの……もってあと二年……いや一年か」


 そんな中、彼は自身の寿命が近くに迫っていることを感じていた。


「儂の人生最後の研究はこれじゃな」


 そう言って現在座っている巨大な枝を触るラードル。

 これはこの世界の中心地と言えるような場所に存在する巨大樹である。全大陸はこの木を囲うように並んでいる。


「やはりこの木の膨大な魔力は魔の森に流れていたものと同じじゃな」


 巨大樹には膨大な量の魔力が流れている、ラードルはそれを感じ取り、魔の森にも同じものが流れていたと呟く。


 彼は魔の森へ行くと毎回、その地中から膨大な魔力の流れを感じ取っていた。

 その魔力の流れは、追跡をしても毎回途中で感知することができなくなる、そのため彼は魔力がどこへ向かって流れているのか、長年分からずにいた。しかしどうやらここで答え合わせができたようだ。


 彼の研究は進む。






「これで確定じゃな。まず巨大樹は世界各地に根を張っておる。アズトラ大陸の魔の森に多く魔物が出現する理由は恐らく魔力を各地に巡らせる巨大樹の根がその場所だけ地上の近くを通っているからじゃな。そしてこの巨大樹は世界が生きるのに必要不可欠、つまり世界が生きている証じゃ」


 一年近くラードルは巨大樹の研究を行い、次々とその謎を解明していった。



    ◇


 ――朱


「ふぅぃ、ひとまず一段落じゃな」


 ラードルによる、約一年の巨大樹研究はその日一段落し、彼は一息ついていた。


 しかしその時。


「っ!? なんじゃこの強大な魔力反応は……場所は、アストラ大陸……」


 ラードルはアストラ大陸から強大な魔力を検知した。


「……久々に戻ってみるかの」


 アストラ大陸は故郷ということもあり気にせずにはいられず、彼はアストラ大陸へと転移するのであった。


 その後、彼は転移して最初に目に移りこんだのが火の海であることに驚いていたが、すぐさま元凶と思われる朱殷を見つけ、彼女がアストラ大陸全土を滅ぼす危険があると判断した彼は、彼女との戦闘を始めるのだった。

 朱殷を別大陸に移動させるということには成功したものの、代わりに彼はその場で生涯を終えることとなった。



    ◇



 ――黒


「ふぅぃ、ひとまず一段落じゃな」


 ラードルによる、約一年の巨大樹研究はその日一段落し、彼は一息ついていた。


「そろそろ戻ってみても良いかもしれんのう」


 研究がきりの良い所まで来たこと、そしてもういつ死ぬか分からないといった状態なため、そろそろアストラ大陸に戻ってクロハ達に会いに行こうかと考えるラードル。


「とりあえず今日は疲れたわい、明日会いに行くとするかの」


 しかし研究による疲労が溜まっていたため、彼はその日、睡眠をとることを優先し、翌日にアストラ大陸へと向かう判断をした。






(?……目が明かない、それに体が動かせないのう)


 そうして翌日目覚めたラードルであったが、目を開けることができず、更に体を動かすことができなかった。そのため彼は少々焦った。

 しかし彼はそこで悟った。


(なるほどのう……これは死か。もう儂は死ぬということじゃな)


 そう、彼は寿命を迎える寸前であった。

 その前に意識を取り戻すとは、未練があったのだろうか、はたまた神のいたずらなのか。


(寿命で死ぬというのは案外心地いいものじゃな)


 それはまるで死自らが迎えに来てくれるような、暖かい死。


(……最後に、もう一度あやつらに会いに行きたかったのう、それが悔やみじゃ)


 死の瞬間の彼の悔やみ、それはハンズ、リコット、アサーク、リリア、クロハともう一度会えずに死んでしまうということであった。


(だがこれも人生、じゃな……儂は潔く死を迎えるとしよう)


 しかし、十分生きた彼は生には拘らず、死を受け入れる。



 そうしてラードルという偉大な魔導師の人生は、そこで終わりを迎えたのであった。

【あとがき】


 ぬい葉です。

 『朱』は朱殷の世界線の場合で『黒』は黒葉の世界線の場合です。


 今更ですがこの物語人がバタバタ死んでいきますね。



 話は変わるのですが。

 これは私見なんですけど。生命は死があるからこそ、輝かしく見える、そんな気がするんですよね。

 だから死を全て否定しないで、場合によっては肯定的にも捉えるべきだと私は思うんです。


 急に哲学っぽくて申し訳ないです、私哲学好きなので、考えさせるようなものをこれからも作っていきたいですね。



 あと数話で朱黒も完結となります、最後までよろしくお願いします。

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