第47話:崩壊の寸前
「はぁ、はぁ……皆大丈夫?」
「……ええ。まだ、走れますわ」
「私も問題ありません」
「まだ行けます」
アサークの呼びかけにそう答える三人。
道に沿ってサンクラット王国へと必死に進む四人。しかしその時、後方に人影が現れた。
◇
「……まだ見つからない」
リリアたちを追っているクロハはそう呟きながらも必死に走る。
「……見つけた!」
しかしそこでクロハはお目当てのものを見つけた。
◇
「見つからないか?」
「ええ、今のところ」
こちらはハンズたちを殺した帝国の部隊。
彼らも、王子であるアサークと王女のリリアを探していた。
「隊長! あれを!」
「ん?……ククッ! 皆、進め!」
中々リリアたちが見つからなかった帝国軍。しかしそこで帝国軍はあるものを見つけた。
帝国軍はそれ目掛けて駆け出す。
◇
「っ! 後ろです!」
ホロンの言葉により、他の三人も後ろを振り返る。
「くっ!」
「っ、ホロン!」
アサークが振り返ったその時、彼の眼前に氷属性の魔法が迫っていた。しかしそこでホロンが彼の前に入り、その体で防いで見せる。
当然魔法を受けたホロンは無事ではなく、彼は腕から大量に血を流していた。
「帝国軍……そんな」
「……戦うしかない」
そう、彼らの後方に迫っていたのはハンズたちを殺した帝国軍であった。
それを見て、アサークは覚悟を決めて剣を抜く。
「……そうですわね」
「クロハが居ない今、お嬢様の護衛は私ですね」
アサークが剣を抜いたのを見て、リリアもカーラも戦うことを決意した。
どちらにせよ、もう逃げることはできないのだ。
「ホロン、申し訳ない……大丈夫?」
「はい、私もまだ戦えますよ」
「そうか、ありがとう」
腕から血を流しているとはいえ、ホロンも戦えなくなったわけではない、そのため彼もナックルダスターを装備した拳を帝国軍へ向けて構える。
「敵は四人だ! 殺せ!」
帝国兵たちはアサークたちが四人ということを確認し、意気揚々と彼らに向かっていく。
帝国軍の人数は十数人、対してアサークたちは四人。絶望的である。
「父上たちに生きるよう言われた、どんなに絶望的でも絶対に生きる!」
「っ……そうですわッ!」
「大丈夫です、きっとクロハが来てくれますよ」
「ではクロハさんが来るまでの持久戦ですね」
しかし四人は諦めない、助けが来れば一気に状況は変わると確信していた。
彼らは一番この場に来てくれる可能性のあるクロハが来るまで耐えるつもりだ。
たとえ人数差や個人の強さの差で、それが難しいとわかっていながらも。
◇
「……見つけた!」
クロハはお目当てのものを見つけた。
それはリリアであった。否、リリアに掛けた魔法の反応であった。
クロハは魔法を発動する。
「今行きます」
そう言って彼女は闇に消えて行った。
(これで早く行ける、反応があるということならまだ生きてる、良かった)
暗闇の中を移動しながらそう思うクロハ。
彼女が使った魔法。それは対象の影に移動する魔法である。これは彼女が独自に考えた魔法だ。
あらかじめ対象の影にマーキングをする必要があるが、それさえすれば後は対象が一定の範囲内にいれば、影のある場所のどこからでも対象の影へと移動することができるのだ。
いつでもリリアの元へ素早く駆け付けられるようにと、クロハが思って作った魔法であるが、まだまだ未完成であり、走るよりも早く移動できるが瞬時に移動できるわけではなく、更に影の無い場所では使用できない、一定の範囲というものがまだまだ狭いなど、欠点も多くみられる。
しかしこの場では大いに役に立った。特にマーキングによってこの森の中でもリリアの場所の特定が容易にできるというのは、今のクロハからしたら非常に助かっていた。
数分が経ち、その頃にはマーキングしたリリアの影へと急激に近づいていた。
(リリア様と再会できる!)
そうして遂に彼女はリリアの影につき、そこから飛び出す。
「リリア様――」
当たり前のように立っていると思っていた。当たり前のように皆無事だと思っていた。
しかし。
「……え?」
彼女の視界には。大量の血を流しながら倒れているホロン。まだ息があるように見えるが、見るからに瀕死なカーラ。帝国兵に背後から腹を貫かれているアサーク。
そして、腹から大量の血を流し仰向けに倒れているリリア。
刹那、クロハから叫び声と共に四方八方に闇属性の刃が大量に飛ばされた。
◇
「あ」
目が覚めたクロハ。
「そうだ、皆は……」
そう言って彼女は立ち上がる。
「あ――」
まず目に入ったのはホロンとカーラ、二人は息絶えているようだ。
「……」
その次目に入ったのはアサーク。彼はクロハの魔法の影響でも受けたのだろうか、下半身と上半身が二つに分かれていた。
「……うぁ」
現実を理解し、せめてリリアだけでも。そう思い彼女を探す。
「あ……あぁ」
そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれる、リリアを見つけたクロハ。しかし仰向けに倒れており、一切反応が無い。
気絶しているだけの可能性に賭け、リリアの腕に触るクロハ。
しかしその腕は冷たくなっていた。
「あ、はは…………ああ、っあぁ……!」
クロハは理解した、守りたかった愛する人達はいなくなったのだと。
彼女の中の何かに大きな亀裂が入る。
「あ゛あ゛っあぁぁぁぁぁ!」
――どうしていつも私は大切な人を守れないの?
――どうしてみんな死んでしまうの?
――どうしてこの世界はいつも私から大切なものを奪うの?
――もう、こんな世界