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その先は朱か黒か……  作者: 空葉
一章:地獄へと
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第5話:異常

 目が覚めると、クロハはヴァエール村にいた。

 ヴァエール村は賑やかで、皆が楽しそうに過ごしている。


(今までのことは夢だったんだ!)


 その光景を見てそう思ったクロハは、自分の家へと向かう。


 しかしそこで突如として目の前が暗くなり、気がつくと先程までの穏やかな光景が一変していた。


 周りには村人の死体、家は燃やされ破壊され、さらに数十人の村人が馬車に詰め込まれている。


 突然のその光景に戸惑いつつも彼女は家に向かっていった。




「……」


 クロハは自身の家に着いた、しかし彼女の家は崩れ、瓦礫の山となっていた。


「お前のせいだ」


 呆けている彼女の後ろから突然そのような声が聞こえた。


「あ……」


 振り返ったクロハは目にした。村人全員が憎しみの籠ったような瞳を自身に向けているのを。


「お前のせいだ」

「あんたのせい」

「お前があいつを連れてきた」

「許さない」

「お前は私達の平和を壊した」


「や、やめて……」


 ──私のせい、その通りなんだ


「お前は俺達の家族じゃない」

「こんな子を産んだ覚えは無いのだけど」


 イリナとアレクスも、クロハに向かってそう言葉を吐く。


「そんな……」


 ──私は困っている人を助けたかっただけなの


 これは困っていると言っていたオミナスを助けたかっただけの彼女が招いた悲劇。


「「「お前のせいだ」」」


「そんなつもりは無かった、こんなことになるなんて思ってなかった……」


 ──そんなつもりが無くても事実


 ――嗚呼


(そうだね私のせいだ。私がこの平和を壊して皆を苦しめた。)


「あ、あはは……私のせいだ」


――私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい私のせい――



『白……反……黒葉くろは…………な?』

『…、朱殷しゅあん……良……も』


 クロハのどこからか何かが聞こえた。


 ――バキッ


 彼女の中の()()ひびが入る。


 (あ、あは、そういうこともある、よね)


 彼女は突然と正気を取り戻した、しかし何かがおかしい。


 (そう、そう、そういうこともあ、あ、あ、る……?)


 更に()()の罅が広がろうとした、その瞬間。


 ――クロハちゃん大丈夫!?


 その声が聞こえ、クロハの意識は覚醒する。



    ◇



 まだ日が昇っていない頃、レオナは呻き声のようなものを聞いて目を覚ました。


「うっぅ、あ……ぅ私のせい……」


 レオナが目覚めた原因の呻き声、それはクロハから発せられていた。


「クロハちゃん?……うなされてるの? うーん」


 クロハがうなされているのだと分かったレオナは起こした方が良いのかとその場で思案する。


「ああッ! 私のせい私のせい私のせい!」


 そんなことを考えていると突如としてクロハが頭を抱えてそう叫び出した。そしてそれは収まること無く悪化していく。


「ッ! クロハちゃん大丈夫!?」


 レオナはそれを見て物凄い悪寒を感じ、彼女にそう声をかけて起こす。



    ◇



「……う」


 クロハは目を覚ます。


「良かった起きた……大丈夫? すごいうなされてたけど」


(さっきのは夢……)


 クロハは先程まで見ていたのが夢だと気がついた。しかし表情は依然として暗いままである。それもそうだろう、彼女にとって現状が一番の悪夢なのだから。


「……ぅ、大丈夫……」

「本当に? すごい汗かいてるよ?」


 レオナの言う通りクロハは全身汗だくだった。


「良い、ほっといて……」


 彼女はそう素っ気なく返し、膝を抱えて丸くなる。


「……ねぇ、大丈夫? 私、話を聞くことならできるよ……言いたくないなら別に言わなくても良いけど……嫌なことを思い出させちゃうと良くないからね」


 そう言って苦笑するレオナ。

 対してクロハは無言で丸くなっている。


「ここに来る人は大体憎しみや悲しみの負の感情が大きい、だってみんな勝手に奴隷にされて強制的に働かせられてる……それにここに来る過程で殆どの人が辛い思いをしてると思うんだ、私は誰かを励ます勇気が無かったの、自分のことで手一杯だったしね、でもクロハちゃんを見て、せめてこの子には元気で居て欲しいって思ったの、なんでか分からないけど……歳が近いからかな?」

「……」

「私はね、親に売られてここに来たんだ」

「……」

「ある日ね、家の前に一台の馬車が来たんだ、それで両親は私を馬車に乗せて『お金がなくてね、さようなら』とだけ言って荷台の扉を閉めたの……そして少しして私を乗せた馬車は動いて家から離れていった。私は突然すぎて最初は理解できなかったけど、後々両親が借金返済のために私を売ったということを理解した、その時はちょっと泣いたね」


 レオナはその話を少し寂しく思いながら告げた。


「……レオナさん、は親を恨んでる?」


 いつの間にか顔を上げていたクロハがそう聞く。


「うちの家は貧乏だったからね、仕方が無いって思ったりもしたけど……まあ恨んでないと言えば嘘になるかもね」


 レオナは苦笑いしてそう言う。


「……どうしてそんなに元気で居られるの?」


 クロハは心底疑問思った、なぜそのようなことを経験して元気で居られるのか。


「うーん、そうだね……一つはこの暮らしに慣れたから、もう一つはクロハちゃんの前だから、とかかな?」


 クロハの問いにそう返すレオナ。


「……なんで私」

「なんか良く分からないけど、クロハちゃんと居ると元気になれるっていうか、心が浄化される感じがするんだよね!……なんかクロハちゃんからは不思議なオーラみたいなのを感じる気がする」

「……ふふっ、なにそれ」


 レオナの言葉を聞いて少し笑うクロハ。


「あ、笑った!」

「え?」

「会ったときからずっと暗い表情だったから、少しでも笑ってくれて嬉しい!」

「……そういえば少し心が軽くなった気がする、レオナさんのおかげ?」


 クロハの精神は正常に戻りつつある、しかし異常な程突然の変化。クロハはその急な変化に自分でも驚きと疑問を抱いていた。


(まあ、そういうことも……あるよね)


 しかし彼女は疲れていることもあり、自身の疑問に対してそう思って考えることをやめた。


「私のおかげ? もしそうなら私も役に立てたってことだね! そうだったら私も嬉しいからそういうことにしておこう!」


 そう元気に言うレオナを見て、また少しクロハは笑う。

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