第43話:復讐
オミナスとダイタンはヴァエール村を襲った後も共に様々な任務をこなしていき、いつしか帝国内ではそこそこの地位にまで上り詰めていた。
「今回の任務は帝国の軍と共にアズラの王室を捕らえる、もしくは殺す任務だってね」
アズラ王国が降伏してから数日経った頃、二人は自身たちの皇帝であるゴルムから直々に、アズラ王国の王室を捕らえるか、もしくは殺すようにと命令を受けていた。
もはや彼らはゴルムの何でも屋なのである。
「思ったよりもアズラ王国は早く落とされたな」
「だね、大国だからもっと掛かると思っていたけど」
アズラ王国が思ったよりも早く落ちたことを話題にそう言葉を交わす二人。
「ここだね」
「訓練場か」
二人は雑談をしながらしばらく歩き、目的の場所、ラストリア帝国の兵を鍛える訓練場へと辿り着いた。
「あー、今回は違法奴隷を使うのか」
訓練場へと入り、そこで二人が目にしたのは、隊列を組む、帝国兵とやつれて貧相な姿の違法奴隷たちであった。
「それほどこちらも追い込まれているということか?」
「それもあるのかもしれないけど、多分あの方は今出せる全てを使ってでもアズラの王室を捕らえたいんだろうね、それにほら、サンクラット王国に対しても兵を割かないといけないらね」
「……こう言うのは不敬かもしれないが、サンクラットの人間を攫って先にあの国を相手にしたのは間違いじゃないか?」
「いや、この前こちら側が大規模の魔術をアズラへ向けて放っていただろう? サンクラット王国から持ってきた人間は多分あれに必要だったんじゃないかな? 特に最近は何処も彼処も警戒していて奴隷狩りが上手くいかないからね、きっと違法奴隷の人数に十分な余裕がなかったんだろう、多分今回一緒に行く違法奴隷も帝国に居る残りを掻き集めてきたんだろうね。あと単純にアズラ王国と仲良くしてる国が嫌いなのもあるんだろうけど」
「なるほどな」
そう、これがゴルムがサンクラット王国の民を攫った真の理由であった。
今回のような非常事態に違法奴隷を使うことがあるため、アズラ王国へ痛手を与えるために計画していた、大規模魔術の発動の生贄には、余裕をもって違法奴隷などこき使える人間が大勢必要であった。四年前のその時期は、ヴァエール村の件もあり、アズラ王国が警戒を強めており中々民を攫うことが厳しかった、そのためゴルムは計画の人数確保にアズラ王国の次に嫌いなサンクラット王国の民を使ったわけである。
余談であるがヴァエール村の件は、夜中で森の中であったこともあり、ラストリア帝国との直接的な繋がりを示すような証拠が見つからず、帝国の仕業だということにはなっていなかった。これもゴルムの計画通りである。
「ま、それよりも任務だよ、さああの軍と行こうか」
「そうだな」
二人はそれよりも早く帝国軍と一緒に、ハンズたちを追いに行くべきだと思い、思考を切り替え、軍と合流する。
そうして現在に至る。
「すばしっこいな!」
「早く死んで?……チッ邪魔」
オミナスとダイタンは、クロハと戦闘を始めていた。
ダイタンとクロハが激しい近接戦闘をしている最中に、オミナスがクロハへ向けて炎属性中級魔法・フレイムアローを複数放つ、雨の中であるがそれはクロハへ届き、彼女は鬱陶しそうにそれを短剣で弾く。
「すげぇ」
「なんて戦いだ……」
「目で追えねぇ」
そんな戦いを帝国の兵たちは呆然と眺めていた。
「これでも僕たちは物凄く成長したと思ったんだけどねッ!」
そう呟くオミナス。
勿論彼らも四年前から大幅な成長をしていたが、それ以上にクロハが成長していた、ただそれだけである。しかしこの事実は地味に彼らを苛立たせていた。
「フフッ、そんなに憎しみに満ちた顔をして、僕たちをあの村に招き入れたのは君だと言うのに!」
「煩い」
「ああ、もう一度君の絶望した顔が見たいよ、無様に死んでいく両親を見た、あの時の君のような!」
「おい、オミナス煽るな、俺の負担が増える」
憎しみに満ちたクロハの瞳を見て、逆にそれを利用しようとオミナスは彼女を挑発するが、ダイタンからすれば彼女の攻撃の激しさが更に増すだけであり、止めて欲しいと思っていた。
「もういい――」
しかし、そんな挑発に耐えかねたのか、クロハは突然動きを止めてそう呟く。
彼女の周りに魔力が溢れ出す。
――ここら一帯を――
「ッ! ダイタン僕の元に下がれ!」
「了解だ!」
クロハから膨大な魔力を感じ取り、オミナスはダイタンへ下がるよう告げ、その言葉を聞いたダイタンもそれに答える。
「『カタストロフ……!』」
――ここら一帯を消し飛ばす
二人がしぶとく、更に両親まで使われて挑発されクロハから憎しみが溢れ出す、彼女は魔力を極限まで使って先程放った上級魔法のカタストロフをもう一度放つ。
「『インフェルノ!』」
それに対し、オミナスは前方に炎属性上級魔法・インフェルノを詠唱短縮で放つ。
「ぐっ、魔力量が多すぎる……!」
双方の魔法が衝突する。しかし魔力を込めた量の差が明確に表れ、徐々にオミナス側が押され始める。
「死ね死ね死ね死ね死ね!」
なかなか消えないオミナスたちに更に苛立ち、クロハは限界まで魔力を込める。
「ぐうぅ!」
勿論オミナスも魔力を最大限込めるが虚しく、彼らは闇に呑まれていった。
◇
「あ、消えた。やった殺せた」
闇が晴れ、クロハの視界の先にはオミナスやダイタンは居らず、帝国兵も大半が消え去り、遠くに数人の兵だけが残っていた。
オミナスは直前で自身を炎で覆っていたのだが、魔力を限界まで込めた上級魔法には耐えられなかったようだ。
挑発した結果一瞬で跡形も無く消される、なんとも情けない最期である。
「あ――」
(しまった、我を忘れて魔力を使い過ぎた)
しかし、クロハも魔力を使い過ぎたためただでは済まず、彼女は魔力切れによりその場へ倒れる。
「ぐっ、リリア様の所へ行かないと……」
不思議と彼女の憎しみは収まっており、冷静になった彼女はリリアの元へ向かおうと、動かない体で這ってでも進もうとする。
「お、おい、い、今チャンスだろ?」
「お、俺は消えたくないぞ!」
「い、いやあの様子だと奴は魔力切れを起こしてる、今がチャンスだ、仲間の敵を討つんだ」
「そうだ、何か戦果を持ち帰らないと何をされるか分からない、俺には家族が居るんだ、あいつを殺さないと」
しかしそんな彼女の様子を見た残った数人の帝国兵たちがそんな話をする。
一人は自分の為に、一人は仲間の為に、それぞれがクロハを狙う。
「まずい……動いて……!」
自身目掛けて迫る兵たち、クロハはそれを見て焦りを感じ、立とうとするが、体は思うように動かない。
「よし、近づいても攻撃してこない!」
「うくっ……」
とうとう帝国兵たちに近づかれるクロハ。
「情けは要らない、魔力が戻る前に、やるぞ!」
そうして帝国兵たちは恐る恐る剣を抜き、それをクロハへ振り下ろした。




