第40話:騎士の奮闘
「進んでください!」
「どうかご無事で!」
「絶対に生きてください!」
「っ……あ、ああ」
騎士達が帝国の軍と衝突し始めて数十分程。
双方共に大幅に人数が減ってきたところで、帝国の軍を全員抑えた騎士達が、ハンズ達へそう告げる。
それに彼らは頷いて、少し数が減った近衛騎士団と共にサンクラット王国へ向けてまた駆けだした。
「くっ……」
「……」
「皆、深く感謝する……!」
騎士たちの命が失われる瞬間を、それも自分たちを逃がすためにその命を散らしているところを見ると、彼らも流石に精神的に疲弊してきていた。
しかしハンズは(それでもせめて最後に感謝を伝えなければ)と思い声高らかに、少々涙声になりながら感謝を告げていった。
(もっと私が前に出れば良かったのかな……でもそれで万が一リリア様達に危険が迫ったら…………そう、私が守るべき人はリリア様達。皆が守ってくれた、だから私も絶対に守り通さないと)
クロハはリリアの護衛、万が一の時を想定し、騎士への手助けは魔法を少々放つ程度しかしていなかった。そのことに、ずっと罪悪感を感じていた。しかし自分が真に守るべき者はリリア達である。クロハはそのことを思い出し、自身の心に鞭を打って気持ちを奮い立たせる。
彼女もまた、四年程共に訓練した者が次々と死んでいく様を見て、精神が疲弊していた。
故にまだ消えていなかった過去の負の感情が再び流れ出る。
クロハの何かが音を立てる。
彼女の奥深くに眠るものは目覚めの時を待つ。
◇
「……」
「アルー……まだ生きているな?」
「ああ……ラーニは、ゴホッ……死んでるか……俺も、もうそろそろだな……」
ハンズ達の後方で帝国の軍と戦闘していたボロノ、アルー、ラーニは見事に三人で帝国軍を打ち破っていた。
しかし、ラーニは既に命を散らし、ボロノとアルーも重傷を負っていた。彼らもすぐに彼女の後を追うことになるだろう。
「ああ……俺は、お前達と、陛下に仕えられて……幸せだった……お前は、どうだ……?」
この問いが最後になる、そう思いアルーはボロノへそう問いかける。
「ああ、俺も……誠実な民思いのあの方に仕えられて、良かった……最後にこうして、陛下のために死ねることも、幸せだな」
ハンズは歴代アズラ国王の中でも特に民に尽くしていた。故に大勢の民から慕われており、勿論ボロノ自身も慕っていた。だから彼も、そんなハンズに仕えられて幸せだったと返す。
「はは。もう、聞いていないか……」
しかしそこで、既にアルーが息を引き取っていたことにボロノは気が付いた。
そんな彼は、涙と共にそう苦笑いする。
「欲を言えば、最後までお前達と、仕えていたかったな……」
そうして、しばらく日の傾きを眺めた後、彼もゆっくりと眠りについた。
◇
「野営場所だね……今日はここで一夜を過ごそう」
あれから一日後の日が落ちた頃。クロハ達は魔の森の中に変わらずある野営場所にまで来ていた。
そこでハンズは、開けている場所であるのにも関わらず一同にこの場で休むことを提案をする。
「ハンズ、開けている場所は危ないわよ?」
「っ……そうだ、そうだな」
「……どうやら頭が正常に働いていないようね」
わざわざ追手に見つかりやすいような場所での野営を行おうとしたハンズに、リコットが声を掛け、それによって彼はハッとする。
「大丈夫です、私が見張ります」
しかしそこでクロハがそう告げる。
「いや、昨日と立て続けは良くない。クロハも疲れているだろう? どこか身を隠せる場所の方が良い」
ハンズはクロハの言葉を聞き、そう返す。
そう、前日もクロハは見張りを率先して行っていた。護衛であるため当然であるが、やはりハンズはクロハをもはや家族のように見ており、更に彼女がまだ子供であるため少々彼女に甘い。
「そうですわ、クロハ」
「いえ、私は体を鍛えているのであまり疲れを感じていません、だからどうか休んでください。陛下達が倒れられたら、これまでの騎士たちの頑張りが水の泡になってしまいます……」
流石に倒れるだけで死にさえしなければ、騎士たちの頑張りが水の泡になることは無いが、それでも体力不足で追いつかれたら終わりであるため、クロハはそう言う。
野営場所に何もなければ別の場所で良かったが、実はこの場には井戸や四阿が設置されており、雨も凌げるため休憩場所としては丁度良い、そのためクロハは特にここで休むと疲れが取れるだろうと思っていた。
「見張りは私達も交代で行います」
そこに帝国軍や魔物との戦闘によって始めより人数が半分以下となった近衛騎士達もそう告げる。
「…………ありがとう……クロハすまない、頼んだ。皆適宜交代して休んでくれ、頼まれたら私も喜んで見張りを行う、もし交代させてくれるなら呼んでくれ」
「はい」
勿論、クロハや近衛騎士たちはハンズたちに見張りをやらせるつもりは無いが。
「クロハも皆さんも無理しないくださいね」
「むぅ……頼みましたわ」
「任せてください」
どうやらクロハの『水の泡』という言葉が効いたらしく、皆大人しくクロハと近衛騎士たちに見張りを任せることにした。