幕間:誕生日
「今日はリリア様の誕生日、何かプレゼントしよう」
この日はリリアの十一歳の誕生日であり、クロハは一年世話になったお礼として、彼女に誕生日プレゼントをあげる予定であった。
「とりあえず、色んな人に聞いてみよう」
誕生日プレゼントを贈ると言っても、クロハはリリアの好みが分かっておらず、何を送れば喜ばれるのか分からない。そのため、一先ずリリアの事をよく知って良そうな人達に、彼女の好みについて聞いてみることにした。
リリアに聞けば一発で分かるであろうが、今回はサプライズのため、その手段は無しである。
「リリア様の好みですか」
「うん」
「基本、アサーク様に仕えているので、あまり分かりませんな」
クロハは一番最初に、アサークの専属執事であるホロンに、リリアの好みを聞いていた。
主にアサークに仕えているホロンに、その答えが分かるはずも無く、"分からない"と返す。
「やっぱりそうですか……ありがとうございました」
クロハも、ただ城内の通路でばったり出会ったから、とりあえず聞いただけであり、回答にはあまり期待していなかった。
「力になれず大変申し訳ない、また何かあったら遠慮なく聞いてください」
「はい」
「リリア様の好み。そうですね……あの方は可愛らしいものが好きだと聞いたことがあります。ただ私は王妃様に仕える者ですので、あまり詳しくは分かりませんね」
次に聞いたのはリコットの専属侍女、ドーラであった。こちらもばったり出会い、とりあえず聞いていたクロハ。
「可愛らしいもの……」
「あまりお力になれずごめんなさいね」
「いえ、可愛らしいものが好きだと言うことが分かったのでむしろ感謝したいぐらいです、ありがとうございます」
とりあえず聞いたものの、今回は収穫があったようだ。
「そうですね、お嬢様は可愛らしいものがとても大好きです」
「やっぱりそうなんですね」
今度はリリアのことをよく知っていそうな者、カーラを発見したクロハは、早速リリアの好みを聞いていた。
「ただ、貴女が送るものであれば、あの方は何でも喜ぶと思いますよ」
「いや、それは流石に」
「いえ、恐らく」
「……とりあえず城下町で見てきます」
「そうした方が良いですね、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
一先ず『可愛らしいもの』を求めて、クロハは城下町へと出た。
◇
「クロハ、話とは何ですの?」
あの後、無事に『可愛らしいもの』を買い、クロハはリリアの部屋へと訪れていた。
「えっと、こ、これを……その、誕生日おめでとうございます……」
そう言ってクロハは自身の後ろに隠していたものをリリアの前に差し出す。
差し出したものはうさぎのぬいぐるみだ。
「まあ! なんてかわいいの!……これ、どうしたのですか?」
「リリア様の誕生日だから、城下町で買ってきた……」
「ありがとうございますクロハ!」
どうやら、プレゼントはリリアのお気に召したようで、彼女はそう言ってクロハに抱きつく。いや、それよりもクロハが自分のためにプレゼントを用意してくれたということの方が嬉しいのかもしれない。
◇
「今年もやってきましたわね、クロハの誕生日が!」
この日は、クロハが学院に入学してから初めての、つまり彼女の十三歳の誕生日であった。
「何を送りましょうか……前回はぬいぐるみでしたわね」
リリアはクロハの前回の誕生日にぬいぐるみを送っており、今回はどうするかと考えていた。
「あの子が求めるもの……」
リリアはクロハが求めるものを考える。
すると彼女の頭には激しく戦闘し、短剣が壊れて困った顔をしているクロハが思い浮かんだ。
「そういえばあの子いつも普通の短剣を使ってますわね……決めましたわ、今回のプレゼントは短剣にしましょう!」
そこでいつもクロハが使っている短剣が、騎士に無料で配られる一般的な短剣であることを思い出し、今回は質の良い短剣を買いに行くことにした。
「早速行きましょう!」
そうして、リリアは身を隠すためのローブを着て、護衛を付けず、クロハにバレないように注意しながら城下町へと向かった。
◇
「ここが王都でも有名な武器屋ですわね」
しばらく城下町を彷徨い、リリアはやっとお目当ての武器屋に着いた。
「早速入りましょう!」
リリアは扉を開け、中に入っていく。
「そこそこ人が居ますわね」
店内には見える範囲で五人程の客がおり、それぞれ店内に並べられている武器を見ていた。
「わたくしも短剣を探しましょう」
「うーん、どれも違う気がしますわね」
短剣が置かれている場所へと移動したリリアは、並べられている品を見て、そう呟く。
「しばらく見ましたが、パッとしませんでしたわね、別のお店に行きますか」
短剣をしばらく見ていたリリアであったが、どれもしっくりこず、違う店で探そうと、その場を去ろうとした。
「ん? こんなのありましたっけ?」
しかしその時、一つの短剣がリリアの目に止まった。
「これ、かっこいいですわね、それにクロハに合いそう……」
その短剣は全体的に漆黒の色をしており、装飾もいかついものであった。
「お、君、その短剣に興味があるのか?」
すると、そんなリリアにいかつい体をした男がやってきて、そう言う。
リリアはローブのフードを被っているため、王女だとはバレていない。
「ええ」
「そうか。それは丁度作り終えたばかりの品でな、切れ味も良く品質も最高級で俺の自信作だ」
男はリリアがこの短剣に興味があると知り、端的にこの短剣の説明をする。
「そうですか……ではこれをください」
リリアは買うか少々迷ったものの、結局買うことにした。
「さ、帰りましょうか……ところでクロハ、居るのでしょう?」
「勿論です」
リリアが呼びかけると、そう言ってどこからか出てくるクロハ。そう彼女はずっとリリアのそばに居たのだ。
「やっぱり……これじゃあもうサプライズなんてできませんわね」
「他の護衛も付けずに一人で城下町に行かないでください」
「多分クロハが居てくれてると思いまして」
「はあ」
「それよりも、誕生日おめでとうございますクロハ!」
「短剣……ありがとうございます……すごい、これ結構良いもの」
クロハは貰った短剣を手に取り眺めるとそう呟く。
「分かるのですか?」
「はい、今まで使ってたのと比べるととても頑丈で切れ味の良いものだと分かります」
試しに振りながらもそう言うクロハ。
「それなら良かったですわ!」
「はい、ありがとうございます、大事に使います」
そうして、またクロハの大事なものが増えた。