第37話:アズラ王国の崩落
「アルファド侯爵軍、ナンラム侯爵軍ともに撤退! エソミアとの連合軍により、次々と突破されていきます!」
「まずい」
あれから約二か月程が経った頃、アズラ王国内の北側の領地は半分程がラストリア帝国とその同盟国の軍によって制圧されていた。アズラ王国にとって、クラゲーヌを失ったのは大きな痛手であったのだ。
「こちらの援軍要請は?」
「シュベル小国軍はエソミア王国軍に阻まれているとのこと、タルタ小王国軍とミクラン王国軍は現在こちらに向かっていると」
「間に合うか……?」
「それとサンクラット王国の使者からソラーヌ様の伝言を受け取りました」
「言ってくれ」
「はい、『危険になったらこちらに逃げてこい、その際は連絡しろ』とのことです」
「……はは、全く、自分の国のことで精一杯だろうに、『その際は連絡させていただく』と返せ」
「はっ!」
全員が忙しなく動く、それ程今の状況はアズラに取って危険であった。
◇
「この戦争、負けるかもしれない」
ハンズはリコット、アサーク、リリア、クロハを集めてそう告げる。
「そんな……」
「……」
ハンズの言葉を聞き、一同は絶句する。
「まだ勝てる可能性もあるけど、このままだとまずいんだ。もし、負けたら恐らく帝国は私達を処刑するだろう……そうなったら、一先ず皆はサンクラット王国へ逃げるんだ……ただ、サンクラット王国が必ずしも安全とは言えないけどね」
「『皆は』ね」
「……お父様は?」
「私は、この戦争の責任を取るために、大人しく処刑されるさ」
「っ!」
「そ、そんな……」
続け様に告げられた言葉に一同はまたもや絶句する。
「そんなの、私が許さない……!」
しかし、そこでクロハがそう言う。
「ク、クロハ……」
「お、落ち着いて」
クロハの強烈な威圧に一同は一瞬身震いしながらも、落ち着かせようと声をかける。
「……あ、ご、ごめんなさい……」
声を掛けられたことにより、クロハはハッとし、謝罪する。
「良いよ、そんなに私を大事に思ってくれてたんだね、ありがとう。ちょっと考えるよ」
ハンズとて死にたい訳じゃない、ただ王族としての責任を果たさなければならないのだ。
しかし、自分を大切に思ってくれる存在が居ると、改めて気付いたため、もう少し逃げる際のことを考えてみることにした。
「おっと、いけない。負けた時のことを考えるなんて、まだ勝機はあるはずだ。それと申し訳ないけど、これからしばらくは念のため学院には行かず、城の中で過ごしてくれ、本当に申し訳ない、アサークは卒業式もあるのに……」
「父上、気にしないでください」
「わたくしも、身の安全が第一だと分かっておりますわ!」
「ありがとう」
◇
「陛下! 王都北門付近に帝国の少数部隊が!」
「ついに来たか……何としても通すな!」
「陛下、サンクラット王国が帝国の一部を制圧したと」
「……流石だね」
サンクラット王国は勢いを取り戻していた、しかし、アズラは失速するばかりであった。
「本格的に考えるか……」
自ら首を差し出すか、最後まで抗うか。
「タルタ小王国の援軍が到着いたしました」
「……感謝と北の防衛に回るよう伝えてくれ」
◇
「クラゲーヌから何も音沙汰がない……どこかで生きてくれてると良いが……彼の性格上、生きていたら必ず戻ってくるはずだ」
ハンズは城のバルコニーから王都の様子を見下ろして、音沙汰の無いクラゲーヌの死を悟っていた。
「ああ、くそ……どうしてこうなったんだ」
彼の心は疲弊していた。次々と国のために騎士が死んでいく現状に。
「……全く、王族が嫌になるね」
しかしいくら打ちのめされようとも、民を導く王族として、立ち止まってはいられない。
少しはリリアの言うことは分かったかもね、と呟いて、ハンズは指揮に戻る。
◇
「タルタ小王国軍撤退! 北門突破されました!」
「……そうか……ここまでだね。皆に伝えよ、アズラ王国は降伏すると」
「し、しかし……」
「これ以上は駄目だ、王都の民までも危険に晒すことは許されない、潔く負けを認める、敵軍にも味方軍にも伝えてくれ……」
「……承知しました」
そうして、帝国とその同盟国の連合軍によって、アズラ王国はこの日、崩落した。
◇
「報告! アズラが降伏するとのことです!」
「ククッ、ご苦労であった。アズラの王室共を縄に括り付けておけ、そして処刑の準備をしろ」
「はっ!」
アズラ王国王都の北門付近で居座っていたゴルムは、アズラ王国が降伏したと知らせを受け、とても上機嫌であった。
「私の手伝いをしてくれた同盟国共には感謝をしないとな」
今回ラストリア帝国が、アズラ王国とサンクラット王国という二つの大国を同時に相手にして、アズラ王国に対して勝利を収めることが出来た大きな理由は、何といっても同盟国の存在であった。
この世界、特にこの時代の国家元首は、性格破綻者や、悪趣味な者が多かった。故に、悪名高いラストリア帝国には今回、味方が多く集まったのだ。更に、その国々が帝国周辺に多く分布していたことも勝利に多く関係していただろう。
「ククッ、特にエソミア王国とはこれからも関係を保っていきたいものだ」
ラストリア帝国の同盟国の一つ、エソミア王国、今回帝国のアズラ王国制圧に大きく貢献した国であると言っていいだろう。大国であるが故に、帝国に援軍を送り続けることができ、兵器の援助などもこの国からが大半であった。この国が居たため、帝国はサンクラット王国の対処もできていたのだ。
故にゴルムは深く感謝しており、そう呟いていた。
「クハハハハ! さあ、アズラの処刑を見に行こうか」
【あとがき】
元『空葉』の現『ぬい葉』です。名前を変えました。
恐らくもう変えることはありません。
知っている人がいるか分かりませんが、私は最初は『白葉』で活動してました。名前を変えるのは二回目と言うことですね。
さて名前を変えたのは置いといて、最終章展開が早すぎですかね? 一つ前の回から思ってきていたんですよね、二章では長々と進めていたのに急に最終章ではあっという間にクラゲーヌが死んでてちょっと展開速度に差がありすぎて混乱してしまうかな? なんて思っていたり。
すみません、自語りが長くなってしまいました。
ただ最終章はまだまだ続くので、これからも最後まで『その先は朱か黒か……』をよろしくお願いします!