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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
最終章:その先は……
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第36話:事態の急変

 事態は急変する。


「陛下! 北のインフォル侯爵領が壊滅とのこと!」

「……一体何があったんだ?」


 アズラ王国の宰相、ビルデンが報告した内容に、思わず固まって言葉がでないハンズ。

 インフォル侯爵領とは、アズラ王国の最北端に位置する、北を防衛している、貴族の中で最も広大な領土を誇る侯爵貴族の領土である。


「い、生き残りの証言によりますと、巨大な火球がインフォル侯爵領に落ち、大半が一瞬にして破壊されたと……」

「帝国はそんな兵器を持っていたというのか?」

「……そのようです」

「被害は……」

「まだ詳細は分かりませんが、恐らく民含め大半は死亡していると思われます」

「くっ……!」


 ビルデンの言葉を聞き、ハンズは思わず拳で机を叩く。



    ◇



「準備は良いな」


 時は少し遡り、ラストリア帝国軍とアズラ王国軍が激突している前線から少し後ろ。アズラ王国とラストリア帝国の間にある小さな森にて、ラストリア帝国の帝王ゴルムは、その場にいる魔導士達にそう声を掛ける。


「早速始めよ」


 誰も返事などしなかったものの、ゴルムは満足そうに頷いて、数十人の魔導士にそう指示を出す。


 円形に魔導士は配置されており、その円の中心には、ボロボロの服を着た人間が大勢縄で縛られていた。

 そう、そのすべてはかつてクロハも経験した、奴隷狩りによって違法に奴隷に落とされた者達、違法奴隷である。

 違法奴隷と言ってもラストリア帝国ではもはや合法であるため、彼らからしたら違法とは呼ばないのかもしれないが。


「がっ……」

「く、苦しい……!」

「や、やめてくれー!」


 ゴルムの指示を聞いた魔導士たちは、一斉に違法奴隷達の地面に巨大な魔法陣を描く。すると次々と違法奴隷の悶え苦しむ声が上がる。


「クックックッ、良いぞ」


 しばらくその状態が続いていたが、やがてその声は消えていく。声を発していた者達を見ると、皆干からびているように死んでいた。そして上空には、虹色に輝く大きな塊が出現していた。

 これは大勢の生命力と魔力の塊である。先程行ったものは、対象の生命力と魔力を取り出す魔術であった。


「よし、次だ」


 ゴルムがそう告げると、魔導士たちはもう一つの魔法陣を上空に作り出した。


「おお……!」


 その魔法陣は先程の魔法陣よりも更に大きく展開されていく。


 展開しきったところで、ゴルムは次の指示を出す。


「やれ」


 そう一言。

 すると虹色に輝く塊が、魔法陣にぶつけられる。


 その瞬間。


「完璧だ」


 上空を超巨大な火球が埋め尽くしていた。


「操作し、敵地へ持っていけ」


 ゴルムの言葉通り、魔導士たちは落下してくる火球をアズラ王国方面へと移動させる。


「くっ」

「ぐ」


 しかし、火球を動かすには膨大な魔力が要求され、次々と限界を迎えた魔導士達が倒れていく。


「……まあいいだろう」


 結果的に魔導士全員が倒れることとなったが、火球がアズラ王国方面へと向かってゆるやかに落下するのを見て、ゴルムは満足したようにそう呟き、ラストリア帝国へと踵を返す。


「待て!」


 しかしその時、彼の後ろから、その声が響く。


「……ああ、確かお前は、アズラの砦、クラゲーヌと言ったか」


 その声の主はそう、クラゲーヌであった。


「あれを、止めてもらおうか……さもないと」


 彼は少し焦った様子でゴルムへそう告げる。


「殺す、か? 果たして私を殺せるか?」

「ああ、出来るとも」

「そうか……だが残念ながら、あれを制御することはもうできない。あー残念だったなぁ、ククッ、大勢死ぬぞ」

「チッ!」


 クラゲーヌはゴルムの言葉に耐えられず、彼へ剣を向け、駆け出す。


「良いだろう、我が剣で破壊してやる、アズラの砦」


 向かってくるクラゲーヌに笑みを見せ、ゴルムも剣を構える。そうしてラストリア最狂とアズラ最強の二人が衝突する。



    ◇



「どうした? 動きが単調だな、怒りに蝕まれているぞ!」


 交戦し始めて数分、クラゲーヌは苦戦を強いられていた。それによって彼は中々ゴルムに有効打を与えられない怒りと焦りを感じており、ゴルムの言う通り少々動きが単調になっていた。


(……こいつの言う通り、今の私は冷静じゃないな)


 しかしゴルムの言葉を聞き、ハッとしたクラゲーヌは、そこで落ち着きを取り戻し始め彼は、一旦ゴルムとの距離を置くことにした。


「……衝突の時間だ」


 だがその瞬間、ゴルムのその言葉と同時に爆音が響き渡る。


「ぐっ……!」


 突然の背後からの強烈な熱風にクラゲーヌは吹き飛ばされる。


「クハハハハハ!」


 ゴルムはそれと同時に愉快そうに声を上げて笑い出す。


「うぐっ……は?」


 吹き飛ばされたクラゲーヌが体勢を立て直して木々の隙間から熱風の方を見ると、そこにはインフォル侯爵領の防壁などが跡形も無く消え、森も一部が消え去り、更に彼から見える範囲だけでもインフォル侯爵領は炎に燃える更地と化していた。


「隙ありだぞ」

「はっ!……っう、ぐっ」


 呆気に取られているクラゲーヌへ、いつの間にかゴルムが迫っており、彼は攻撃をしかけてくる。

 クラゲーヌはハッとし、すぐさま回避行動を取ろうとするがゴルムの攻撃は早く。気づけば彼の腹にはゴルムの剣が突き刺さり、背中を突き抜けていた。


「ふん」

「ぐぅっ……」


 ゴルムは彼の腹から剣を抜く。

 その反動と痛みで、クラゲーヌは思わず膝をついてしまう。


「ふん!」

「ぐはッ!」


 ゴルムは膝をつくクラゲーヌを蹴り飛ばす。

 クラゲーヌは後方にある木へとぶつかり、苦しそうに声を上げる。


「……はぁ、はぁ…………ぐっ」

「流石と言ったところか、しぶといな」


 しかし、彼は流血する腹を抑えながらも、立ち上がり、ゴルムへと刃を向ける。


「だが、先程から私に攻撃を当てることができなかったお前が、その満身創痍な状態で、私に勝てるとでも?」


 ゴルムはクラゲーヌをそう挑発する。


「ああ、ゴホッ……勝てないかもな……ただ、私はアズラの砦として、命燃え尽きる最期まで、お前に抗うだけだ……!」


(私が、死んでも。こいつに傷さえ付ければ、誰かがきっとこいつを殺してくれるはずだ)


「そうか……では抗う暇も無く殺してやる」


 クラゲーヌの言葉が少々癪に障ったのか、ゴルムは彼への元へ素早く移動し、剣を振るう。


(相打ち上等! この身を捨てて奴に有効打を!)


 クラゲーヌは、そうして回避行動を取らず、ゴルムの腹へと剣を刺しにいく。


「私とて、馬鹿ではない」

「なっ!」


 しかし、ゴルムには冷静さがあり、クラゲーヌの剣を弾き飛ばす。


「チッ!まだ――」


 まだ体術で、そう思いゴルムへ向かっていこうとするクラゲーヌには既にゴルムの剣が迫っていた。


(……これは死んだか)


 首元に剣が食い込む感触を感じ、一瞬にして彼は死を悟った。


(ああ……陛下すみません。私はここで終わりです……有効打は与えられなかったが、誰かがこいつを殺してくれるだろう、ああ誰だろうな。私の育てた騎士たちが良いものだ――)


 斬


 そうしてゴルムは、彼の首を切り落とした。


「これがアズラの砦か……この程度か」


 ゴルムは剣に付いた血を払うとそう呟いて。今度こそ自身の国へと踵を返した。



 ――そうだな。クロハ辺りがきっと……あとは、頼んだ


 死に間際のクラゲーヌの思いはそうして暗闇へ消えて行った。



    ◇



「あそこにはクラゲーヌも居る、頼むから、生きていてくれ……くそ、こんな私が不甲斐なくてしょうがない」


 愛する民を大勢失ったハンズは今、数十年の付き合いとなる友とも呼べるクラゲーヌが死亡したと報告を受けたら、酷く病んでしまうかもしれない。


 しかし現実は、そんなハンズ待たず、事態は更に悪化していく。

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