第35話:学院生活、そして緊迫する状況
「ほっほっほっ、今日は最後の授業じゃな」
「もっと先生の授業を受けていたかったですわ!」
「うん」
「困ったの、儂は別大陸に行くからのう」
あれから二年以上が経った現在。クロハたちはラードルの最後の授業を受けていた。
「でも、本当に別大陸に行けるんですか?」
そう聞くのはアサーク。サンクラット王国へ訪れた際に、ラードルがクロハたちに魔法を教えている所を見て以来、リリアに続いて彼もラードルの授業を受けていた。
「確証は無いんじゃが、儂だからのう。きっと壁なんてパパっと何とかしちゃうわい」
先程から話している内容は、別大陸のことである。今回ラードルの授業が最後の理由でもある。
ラードルは今回の授業の後、別大陸へと行くつもりであり、見えない壁の突破方法の模索もあり、しばらく帰ってこない予定なのだ。
「でもなんで急に別大陸に?」
「儂は今まで魔法や魔術ばっかりだったからのう、そろそろ新しいことに挑戦しようと思ったのじゃ」
今まで、魔法と魔術こそが彼の人生の全てであった。しかし、もう相当な歳であり、あと何年生きれるか分からない、そう思った彼はこの際何か新しいことに挑戦しようと思っていた、そこで目に付けたのが別大陸に行く、ということであった。
「それに、儂はついに転移魔術の開発に成功したのじゃ!」
転移魔術。その名の通り目的の場所へ転移することができる魔術だ。これにより、ラードルは一瞬にして見えない壁付近へと移動することができる。
これが完成したことが特に、今回、彼が別大陸へと向かうことを決定付けさせたのだろう。
「転移の際、座標の設定が必要でのう、これがとても難しいんじゃ、座標を間違えると――」
「師匠、言われても分からないから早く今日の授業して」
「……これは恐らく世界初なのじゃがな……まあ良いわい、それじゃ今日の授業を始めるとしよう」
◇
「ラードル先生、ありがとうございました」
「師匠元気でね」
「お元気で」
「ほっほっほっ、お主達もな」
授業は終わり、クロハ、リリア、アサーク、ハンズ、リコットの五人はラードルの見送りに来ていた。
「ラードル先生、いつでも帰ってきていいですからね」
「そうじゃの、大陸全部見て回ったら戻ってくるわい」
ハンズの言葉に彼はそう返す。
「じゃあの。元気でな」
そうしてラードルはそう言い残して魔法陣を起動させ、五人の前から消えた。
◇
「二人とも、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
ハンズの祝いの言葉に、クロハとリリアは同時に礼を返す。
あれから数日後、クロハとリリアはアズラ王立学院に入学していた。
――数ヵ月前。
「アズラ王立学院?」
「うん、王都にあるんだけどね」
書斎にてクロハとハンズは相まみえていた。
アズラ王立学院とは、その名の通りアズラ王国創立の学院である。
三年制の学院で王都内に創られており、毎年、その一年で十三歳になる子供が、アズラ王国各地から集まってきている。
貴族だけでなく、平民も入学できるため、学院の生徒数は物凄く多い。
そしてハンズからの話は、その学院に入学しないかと言う話であった。
「リリアは入学しないといけないから、その護衛としてできれば入学して欲しい、丁度同い年だしね」
ハンズがクロハにそう頼むのには理由があった。
「最近、皆狙われる頻度が多くなってきている、この際言っちゃうけど、刺客の全てがラストリア帝国からだ」
この二年間、ハンズたちは様々な刺客から襲撃を受けていた。そしてその中で捕らえることができた刺客からの情報で、ほとんどの刺客はラストリア帝国から送られてきたものだと判明していた。
「ソラーヌたちが帝国と戦争を始めたのは知っているだろう? 私たちも、このままま帝国を放っておく訳にはいかないからね、ソラーヌの支援に、あわよくばこちらから攻めにいくことも視野に入れている」
一年以上、ソラーヌはラストリア帝国に、帝国が誘拐した者たちの解放を対話にて試みていたが、その努力も虚しく、いつまで経っても帝国はそれに答えなかった。
それにソラーヌは痺れを切らし数ヵ月前、ついに帝国へと宣戦布告した。そして、そこから戦争は現在も続いている。
アズラ王国は現在、サンクラット王国に対して物資支援などを行っている状態である。
「帝国からの刺客が学院生活中に送られて来るかもしれない、だから頼む」
そう言って、クロハに頭を下げるハンズ。
「勿論です、私はリリア様の護衛です。むしろ私からお願いしたいくらいです」
クロハは勿論、了承する。
彼女もリリアと学院生活を送りたかったため、内心物凄く喜んでいた。
「ありがとう、後はこちらで入学手続きをしておくよ」
「はい、お願いします」
そうして現在に至るわけである。
クロハたちはこの日、無事に入学式を終わらせ、翌日から学院に通うこととなっていた。
「今日はお祝いね」
入学式祝いとして出された食事は、いつもよりも少し豪華なものへとなっていた。
「ケーキもありますわね!」
「王都でも有名なケーキ屋が特別に作った一品だそうだ」
「おいしそう……」
「早速食べさせて頂こうか」
「そうね」
「「「「「いただきます」」」」」
クロハ、リリア、アサーク、ハンズ、リコットの五人はそう言って、食事を始めた。
◇
翌日から、クロハとリリアの二人は学院に通っていた。
「同じクラスですわね!」
ハンズの計らいによって二人は同じクラスになっていた。
「選択科目はどうしましょうか?」
「私はリリア様と同じものを取ります」
「いえ、クロハも好きに選んでくれて良いのですわよ?」
「私は護衛なので」
護衛としての役割を果たすため、選択科目では、リリアの選ぶ科目をクロハも取っていく。
「ぐぅ、自衛の為、戦闘学を取りましたが、わたくし、体力作りでへばってしまいますわ」
戦闘学でリリアが苦労したり。
「ラードル先生のお陰で魔法は簡単ですわね!」
ラードルを師匠に持つクロハとリリアが魔法学で少し注目を浴びたり。
「あ、お兄様!」
「あ、リリア」
昼休みにアサークにあったり。
「この子がアサークの妹か……俺はヒートン・アルファドだ、よろしくな」
アサークと同伴している、彼の同学年の友達、兼学院内の護衛のヒートン・アルファドとも雑談を交わしたりなどして、二人は充実した日々を過ごしていく。
ヒートン・アルファド。
丹色の髪と瞳を持つ、少年である。
アズラ王国最東端に位置する、アルファド侯爵領領主の息子である。
アサークの入学の際、ハンズは一番信頼できる貴族として、アルファド侯爵親子にアサークの学院内での護衛を依頼した。
勿論アルファド親子は了承し、そうしてヒートンはアサークの学院内での護衛となっていたのである。
そうして、二人は友達も作りながら、楽しく一年を過ごした。
◇
「ぐっ」
「大人しくして」
しかし時には、アズラとラストリアの双方に走る緊迫感の中で、帝国側に寝返る貴族もおり、その子供が学院でリリアを暗殺しようと襲ってくる、なんていうこともあった。
現状、クロハはリリアを外敵から守ることができていたが、数が増えると守りきれるかどうか、と不安になっていた。
◇
「……ラストリア帝国がこちらに宣戦布告をしてきた」
クロハたちの入学から一年と半年程が経った頃、ついにラストリア帝国は、アズラ王国へと宣戦布告をした。
「……戦争になる」
本格的に帝国がアズラ王国を潰しに掛かってくる、戦争になる。
「大丈夫、ソラーヌたちと協力すれば何とかなるさ……ただこんなことなら対話は早いうちにやめた方が良かったね」
サンクラット王国は、およそ三年近く経った現在も帝国との戦争を続けていた。
しかし、現在サンクラット王国は帝国に押され気味であった。故に始め、ソラーヌと同様に帝国との対話を試みていたハンズは、もっと早く対話を諦め、こちらから戦争へと動くべきだった、と後悔していた。
ハンズは平和的に物事を解決したい優しい性格であるが故に、そのような判断をしていたのだろう、しかし国王としてはその判断が間違いであったようだ。
「大丈夫、君たちはそのまま学院生活を送って貰って構わない、これは私たち大人の事情だ。王族とはいえ、子供の大切な学校生活を奪うなんてことを私はしたくない」
そうしてハンズのその思いの下、クロハたちは引き続き学院に通うことになったが、アズラ王国とラストリア帝国は本格的に衝突を始めた。
◇
「どうして戦争は起きてしまうのでしょうか……」
「わからない」
クロハとリリアは、二人で学院内の庭を歩いて、そんな話をする。
「今もこうしているうちに、騎士の方々が傷ついている」
「……」
「わたくしは、なにもできない」
「それは、私も同じ……」
二人の間の空気が重くなる。
「どうか、無事に事が収まりますように……」
リリアはそう願う。
しかしその願いは…………。




