第32話:魔物との戦闘
「ほう、予想よりも多いな」
しばらくクラゲーヌと魔の森方面へと向かって走っていたソラーヌは、視界に映った魔物たちの姿を見てそう呟く。
「これはあの時の大群に匹敵するな、いやそれ以上か? 陛下の所まで通さずにいけるか?」
「ひよるな、アズラ最強の騎士だろう?」
「……ふっ、ひよっているつもりなど無いがな」
二人はそう軽口を言い合い、装備している武器――ソラーヌは大槍、クラゲーヌは両刃の剣――を手元に構え、双方とも無属性魔法に属する身体強化魔法を自身に掛けたところで魔物の大群へと突っ込んでいく。
「ギャギャッ!」
「キャインッ!」
「様々な種族の魔物が群れをなしているな」
ソラーヌは手に持つ大槍を振り回して魔物を切り刻んでいきながら、そんなことを呟く。
ソラーヌ達が対峙している魔物の群れにはスライムやゴブリン、オークやオーガ、ウルフ型の魔物、ラビット型の魔物など、多種の魔物が入り乱れていた。
通常ならば群れにならないもの同士での群れ、ソラーヌはそこに異常性を感じていた。
「群れの後方から今も感じる、強大な何かが統率しているな……だがそいつを倒す前に、まずはお前達からだ『雷装』」
ソラーヌはそう言い、自身に雷を纏わせる。
「くっはっはっ、行くぞぉ!」
雷装。それはソラーヌが編み出した雷属性の魔法である。自身の肉体に雷を纏うことで、落雷の如く動き回ることができる。
「はっはっはっ!」
「はぁ、これだから戦闘狂は」
声を上げて物凄い速度で暴れ、魔物を散らすソラーヌを見て、クラゲーヌは呆れたようにそう呟く。
「雑魚処理では彼方が優勢だな」
攻撃手数と速度に関してはソラーヌが上であるが、クラゲーヌもそれに近しい速度で魔物を狩っており、一般騎士がこの光景を見てもその差は分からないであろう、それどころか攻撃すら見えないかもしれない。
つまり雑魚処理でソラーヌが優勢と言いつつも、クラゲーヌも変わらず化物なのである。
「チッ……数匹抜けているな、アイツらに任せるしかないか」
しかしそんな化物達を相手にしても、数の暴力というのは強力であり、数匹の魔物が彼らを抜けて行っていた。
それでもクラゲーヌはクロハたちに任せることにし、目の前の魔物達に集中する。
「『我が炎よ、燃え盛る球となり、敵を散らせ』」
炎属性中級魔法・フレイムボール。
クラゲーヌが放った巨大な炎の球体は、魔物へと直撃し、辺りに燃え広がる。
「おい! 森で火を使うな!」
「どうせ魔の森です! 消化なんてしなくて良いでしょう? それよりも今は殲滅する事が優先です!」
「……違いないか」
数匹、また数匹と魔物がサンクラット王国王都方面へと向かっていくが、二人は怪我もなく比較的順調に狩りを進めていた。
「や、やっとあの人達が見えた」
「母さんたち速すぎるんだよ」
少し遡り、ソラーヌたちが戦闘を始めた頃。
彼女たちを追っていたクロハとアンジェロは、やっと二人を視界に入れることができ、そう呟く。
「にしても、クラゲーヌって騎士あんなに強いんだな、母さんと一緒で攻撃がよく見えない」
「二人とも凄い」
ソラーヌとクラゲーヌの戦闘を見て、二人は感心していた。
「ッ……数匹こっち来てる」
「私達の出番だな!」
そんなクロハとアンジェロには、ソラーヌたち相手に抜けてきた数匹の魔物達が迫ってきていた。
それに気がついた二人は武器を構える。二人はソラーヌたちを追いかけている時に既に身体強化魔法を掛けていたため、準備万端である。
「行くぞ!」
「う、うん!」
アンジェロの掛け声と共に二人は魔物へと向かって駆ける。
「へへっ、魔物相手ならどうってことない!」
アンジェロは自身の持つ大斧で魔物を斬っていく。
「ッ……はぁ!」
クロハも慣れない魔物との戦闘に苦戦しながらも、的確に短剣で頭などの急所を刺し、魔物を殺していく。
魔物と言えど、初めて生物を殺したクロハは少々気分が悪くなっていたが、(これもリリア様を守るため)と思い、その気分を晴らすように次々と魔物を殺していく。そうして徐々に慣れてきたのか、彼女の魔物を殺す速度は段々と上がっていた。
「いいぞクロハ! 最高だ! ははっ!まだ来るぞ!」
そんなクロハを見て、戦闘狂であるアンジェロはそう高らかに笑いながら、次々と来る数匹の魔物達を散らしていく。
「……『闇よ、球となり、敵を撃て』」
魔物との戦闘で嬉しそうなアンジェロを尻目にクロハは詠唱し、闇属性初級魔法・ダークボールを放つ。これはクロハが暴走していた時に放っていた闇球である。
「ギャァッ」
被弾したゴブリンは、傷こそ浅いものの、痛みに耐えるように蹲っていた。
これは闇属性魔法の性質が関係している。闇属性魔法の攻撃は、他の属性と違い、内側からの攻撃が本領である。被弾した際、表面上の傷は浅いが、その際の痛みや、体内の損傷が闇属性は激しいのだ。
そのため傷が浅いように見えているゴブリンの体内は、今ではクロハの本気の魔法によって内臓がぐちゃぐちゃになっていることだろう。
「いいねぇ!なら私も!『雷よ、矢となり、敵を貫け』」
クロハの魔法に感化されたアンジェロもそうして雷属性初級魔法・サンダーアローを放つ。
「順調だな!」
「うん」
◇
「今のところこちらには来る気配がないね」
「心配ですわ」
「大丈夫よ、ここに魔物が来ないってことは、少なくとも皆が倒してくれていってことだから」
「しかし、こうしていると、不甲斐なさを感じるね……守られるだけでは駄目だ、これを機に、アズラに戻ったら私ももっと自分を鍛えることにしようか」
「なら私もそうしようかしら」
「僕もです」
「わたくしも……」
◇
「……お出ましか」
「でかいな……」
大量の魔物と戦闘を始めてしばらく、遂にソラーヌとクラゲーヌが予想していた、魔物を統率しているであろうものが、大量の魔物と共に森の奥から現れた。
「明らかな突然変異だな」
その魔物はオーガの突然変異であった。
元からの大きく強靭な肉体は更に大きくなり、通常の三倍程の大きさと測れる。
「グオオオォ!」
「なッ!」
「ッ!」
すると変異オーガの雄叫びと共に上空から火球が降り注ぐ。それを見たソラーヌとクラゲーヌの二人は、魔物との戦闘を止め、回避行動に出る。
「チッ、魔法が使えるのか」
クラゲーヌは魔法が使えるという事実に驚きながらもそう言って魔物を切り伏せながら変異オーガの元へと向かう。
「おい! あのオーガに構うのは良いがある程度魔物は減らせ! 後方の奴らの負担が大きくなるぞ!」
「わかっています!」
「グオオオォ!」
すると変異オーガはまたもや雄叫びを上げ、先程と同じ攻撃を仕掛ける。
「グオオオォ!」
「なにッ?」
火球を避ける二人に、炎の矢が飛来する。
「同時に二つの魔法か……」
「くくっ、こいつは楽しめそうだ」
ソラーヌは、変異オーガが二つの魔法を同時に扱ったことに、クラゲーヌは警戒を強め、ソラーヌは興奮していた。
「グゥオ!」
「速いな」
すると、そんなソラーヌに変異オーガが突進をする、それを間一髪で彼女は躱した。
もっとも、彼女にはまだまだ余裕があるようだが。
「グオッ!」
「ふっ」
続けざまに降りぬかれた変異オーガの回し蹴りを躱したところで、ソラーヌは変異オーガの腹に向かって大槍で突きを入れる。
「……あまり効いていないな」
しかし、彼女の突きは当たりはしたものの、変異オーガに効いた素振りは無かった。
「グオオ!」
「チッ」
そこへ変異オーガの拳が迫るが、ソラーヌは持ち前の俊敏さで、躱す。
「隙あり!」
そこで変異オーガの背後に移動していたクラゲーヌがその背に斬撃を繰り出す。
「グオオッ!」
彼の渾身の斬撃を食らった変異オーガは少しよろめく。
「ふっ、行くぞ!『ライトニングアロー!』」
そこへソラーヌの、詠唱短縮をした雷属性上級魔法・ライトニングアローが放たれた。
それは轟音を響かせながら一瞬で変異オーガへと迫る。魔法を見て、変異オーガは回避行動をとろうとするも遅く、ソラーヌの魔法は直撃した。
【あとがき】
忘れられそうですが、無属性魔法は魔力さえあれば誰でも扱える魔法です。ただ詠唱は必要ですが。
……無属性魔法とか実際使ってるのって2話だけだから私自身も忘れてました。




