第30話:冒険者
「ここが冒険者ギルド本部なのですね!」
「大きい……」
「だろ?」
クロハたちはいつもと違う、動きやすい格好をして、目の前にそびえ立つ冒険者ギルド本部を見てそう感嘆の声を漏らしていた。
なぜ、彼女たちは冒険者ギルドへ来ているのか。
事の発端は今朝にあった。
「お前たちはまだ冒険者をしたことがないと聞いた、どうだ? 親交を深める一環として、冒険者体験をしてみないか?」
それはソラーヌから提案であった。
元々、両国の親交を深めるために、という目的でクロハたちはサンクラット王国へと向かっていた為、それに対して何かしらのイベントを用意しなければと思っていたソラーヌは、クロハたちが冒険者を体験したことがないと聞いて、冒険者体験という、貴族がましてや王族が一番行わなそうなものを催しとして提案していた。
ただ、ソラーヌがこの提案をしていたのには、納得する理由、もとい納得させられる理由があった。それはソラーヌ自身が戦闘を好む戦闘狂であることだ。彼女、そしてその娘までが戦闘狂であり、一般の王族としては非常識でズレているのだ。そのため提案を聞いたハンズらは、苦笑いしながらも『まあソラーヌだもんね』と思って特に気にしていなかった。
「冒険者体験! 是非ともやりたいですわ!」
「僕も、ちょうど興味を持っていたので是非とも体験してみたいです」
「私も、冒険者が気になっていました」
「そうか、それは良かった!」
冒険者体験の話に、思ったよりも食いついたクロハ、リリア、アサークの三人を見て、そう上機嫌になるソラーヌ。
「うん、良いんじゃないか? 私たちは何回か冒険者の経験はしたことがあるけど、自衛のための訓練として、参加してみようか」
「そうね、久々に動いてみましょうか」
「お前たちもやるか、もちろん歓迎だぞ、では早速冒険者ギルド本部へと向かうか」
「楽しみですわ!」
そうして現在に至ったというわけである。
「ごきげんよう、諸君」
ソラーヌはギルドの扉を開き、そう告げて中へ入っていく。
それを見たクロハたちは、彼女に続いてギルド室内へと入る。
「そう怖がる必要は無い、ただこの者たちは隣国の王室だ、くれぐれも無礼の無いようにな」
突如現れた自国の王に、ギルド内は騒然とする、隣国の王であるハンズたちも訪れたのだから尚更である。
「失礼する、この者たちに簡単に冒険者ギルドについての説明をしてくれ」
ソラーヌは受付まで進むと、ちょうどその場に居た若い女性の受付にそう告げた。
「は、はは、はいぃ」
「母さん、受付の者も畏怖している、やはりここは私たちで説明することにしないか?」
受付の女性が冷や汗を垂らし、物凄く緊張しているということを感じ取った、クロハたちと同伴していた、赤髪で男性のような短い髪型をした蒼眼の――ちょうどリリアと同じ歳の――少女、ソラーヌの娘、アンジェロがそうソラーヌに対して言う。
「そ、そうか……すまなかった、そうだなこちらで説明しよう」
ソラーヌも受付の様子を見て自身が恐れられていると思い、そのことに少々寂しさを感じながらも、アンジェロの言葉に頷き、クロハ達の方へと振り返る。
「では、そうだな、ここでは邪魔になる。一先ず隅に行くか」
冒険者についての説明をすると言うソラーヌに連れられ、クロハたちはギルドの隅まで移動する。
「お前たちはもう知っているな?」
「ああ、知らないのは子供たちだけだ、説明を頼んだよ」
「任せろ」
そうして、ソラーヌはクロハたちへ冒険者の説明を始める。
冒険者ギルドとは、サンクラット王国が発祥である組合だ。主に冒険者という、何でも屋のような存在の登録、依頼などの管理をしている。
冒険者ギルドは本部と支部に分かれており、本部は現在クロハたちの居るサンクラット王国王都内に、支部は各国の首都に配置されている。このように、今では様々な国に冒険者が広まっている。
冒険者には魔物の掃討や薬草採取、幅広い分野での依頼ができる。依頼は、ギルド内の掲示板に紙で貼られており、依頼を受ける際はそこから受けるものを選んで取り、受付に持っていくと受けることができる。
「ただ依頼を受けて達成して報酬を貰う、それだけじゃなく、他にも魔物の素材などを換金することもできるぞ」
依頼を受けなくとも、薬草や魔物の素材などを換金する場所もあり、そこで換金をして生計を立てている者も大勢いる。
「ここまでで何か質問は?」
「無いです」
「大丈夫ですわ」
「うん」
「うむ、次はランクについてだ」
冒険者にはランクというものが存在し、冒険者活動の成績によって上がっていく。
ランクは、下からE、D、C、B、A、S、とあり、ランクをC以上に上げるには昇格試験というものを受けなければならないなどあるが、そこは割愛しよう。
クロハたちは勿論、初めてなのでEからである。
「まあ、こんな感じだ、ではさっそく依頼を選びに……おっと忘れるところだったな、まずは冒険者登録をしなければならない。登録しに行くぞ」
危うく忘れるところだった冒険者の登録。ソラーヌは直前で思い出し、クロハたちの登録手続きの為、登録窓口へと向かう。
「お前らはギルドカード持っているか?」
「うん、何かあったときの為にといつも持っているよ」
「私もよ」
「そうか、なら良い」
登録した際に貰えるギルドカードは身分証にもなり、本人確認などで役に立つこともある、そのためハンズたちは王族ではあるが、常時肌身離さず持ち歩いている。
「失礼するぞ、この者達の登録をしたい、頼んだ」
「ソラーヌ様……! 分かりました、お任せ下さい」
登録窓口の受付とソラーヌは顔見知りのようであり、その受付は彼女を見ても全く怖がる素振りを見せず、登録の準備を始める。
「先程の方は怖がっていましたのに、あの方は怖がらないのですね?」
「母さんが戦場で激しく暴れるから『女王陛下の気分を害すると問答無用で首を取りに来る』みたいなデタラメな噂話が広まって、酷く恐れられているんだ」
「ただ、ソラーヌと関わりを持つ人達は彼女の本質の、優しさに気がついているから、あの人みたいに怖がることは無いんだ」
「わ、私は、別に優しさなど無い……」
「もう、照れちゃってぇ」
「照れてなどいない……!」
「お待たせしました、よろしいでしょうか?」
「……あ、ああ、すまんな、進めてくれ」
ハンズ達の言葉に照れるソラーヌであったが、受付の者の言葉で我に返り、進めるよう促す。
「はい、それではこれから冒険者登録をいたします。冒険者登録といっても簡単です。まずこの登録用紙にお名前、その他の個人情報を書いていただきます。その後、こちらの水晶に手を触れていただきます。完了次第、こちらでギルドカードの作成をいたしますので、数分お時間を頂くことになりますがよろしいでしょうか?」
「問題ない」
「かしこまりました、ではそれぞれ登録用紙に必要事項のご記入をお願いします」
「分かりました」
「はい、問題ありませんね。では続いて順番にこの水晶に手で触れて下さい」
必要事項を記入し終えたクロハたちは、今度は水晶に手で触れていく。
「はい、これにて登録は完了となります。少々お待ちください」
登録に必要な手続きを終えたクロハたちにそう告げて、受付は奥の部屋へと消えていった。
「思ったよりも簡単でしたわね」
「うん、必要項目も少なかったしね」
「お待たせいたしました、こちらがギルドカードになります。紛失した際はまたご登録が必要になりますのでご注意下さい」
「ありがとうございます」
「良き冒険者ライフを」
「無事に登録できたようで何よりだ、では早速依頼を選んでみろ。ちなみにランクD以下は自分のランクより上の依頼は受けられないから良く見るんだぞ」
「急ですわね」
「大抵のことは説明し終えたからな、さあ選べ」
「分かりました」
登録を終えたクロハたちは、ソラーヌから依頼を選ぶよう言われ、掲示板の前まで行き、貼られている依頼を見る。
「これは薬草採取ですわね、こっちは落とし物……」
「これは『畑を荒らす魔物の退治』あ、でもランクD以上だね」
「……どれも見たけどあまり良いのは無いですね」
「そうですわね、なら薬草採取にしましょう、どうです?」
「うん、良いんじゃない?」
「良いと思います」
「決まりですわね」
少々悩みながらも、クロハ達が決めたのは一番最初に見た薬草採取の依頼であった。
彼女たちはその紙を受付まで持っていくと、ちょっとした手続きを行い、無事に依頼を受けることができた。
「ふむ、薬草採取依頼か、良いだろう。この薬草ならこの国内の森でも採れる、良い場所を知っている、付いてくると良い」
「初めての依頼、行きますわよ!」
「おー!」
「お、おー!」
そうして一同は薬草採取のため、ソラーヌについていく。




