クロハの成長と次の目的地
ロナール領への視察から数ヵ月後。
「はあ!」
「っ……ま、参った」
クロハはその言葉を聞き、木製の短剣をボロノの首から離す。
「すごいなクロハ、短期間でこんなに強くなるとは」
「ありがとうございます、ですが実践では多分まだまだです」
クロハとボロノは模擬戦をしていた。
結果はクロハの勝利。ボロノはたった数ヶ月で自分よりも強くなったクロハに悔しさも感じていたが、それよりも彼女が強くなったことを称賛する。
「やるなクロハ、これでここに居る騎士は俺以外は全員制覇だな……次は俺とやるか?」
すると模擬戦を見ていたクラゲーヌがそう言って近づいてきた。
そう、クロハは今回のボロノとの模擬戦に勝利したことで、王都内の騎士団全員――クラゲーヌを除いてであるが――から白星をあげていた。
「是非お願いします!」
彼の言葉を聞いたクロハは嬉しそうにそう答える。彼女は憧れていたクラゲーヌと模擬戦ができることがとても嬉しいようだ。
「休憩は必要か?」
「いえ、いつでも行けます」
「そうか、では始めようか。君の武器は短剣だな」
「はい」
「では同じく短剣で行こう」
クロハの構える武器は短剣である。彼女も始めは騎士の扱う剣を使おうとしていたが、背が低すぎ合わないと感じ止め、自身に合う武器を探した結果短剣が合うと思い、今ではそれが彼女の主要武器となっている。
「いつでも掛かってきて良いぞ」
両者共に準備が整ったところで、クラゲーヌがクロハヘ向けてそう告げる。
「では、行きます」
彼の言葉を聞いたクロハは、そう言ってクラゲーヌに仕掛けに行く。
「ふっ!」
「甘い」
クロハは時折フェイントも混ぜながら攻めていくが、クラゲーヌはそれをいとも容易く対処していく。
「そうだな、そろそろ終わりだ」
クラゲーヌはしばらく防御に回っていたが、そう言うと今度は自ら攻撃を仕掛けていく。
「ッ……捌き、きれ、ない」
急な彼の攻撃を何とか捌いていたクロハであったが、どんどん上がっていく彼の攻撃速度に、限界が近づいていた。
「終わりだ」
「……ま、参りました」
結果押し切られ、彼女の首元には木製の短剣が押し当てられていた。
「そうだな、ちゃんと鍛えられていることが分かった。ただ、あまりにも経験が少なすぎる、急速な成長故の弊害だな、それに動きがまだまだ単調で分かりやすい」
クラゲーヌは勝敗がつくや否や、クロハへ良い点と悪い点を告げる。
「ありがとうございます。えっと、それを改善する方法は何かありますか?」
クロハは忖度無しに伝えてくれることを嬉しく思いながら、彼にそう改善方法を聞く。
「こればかりは経験の問題だからな、とにかく実戦経験を積むことが大切だとしか言えんな。ああ、あとは俺に勝ちたいと思うのならもっと体を鍛えることだ、何事も基盤が大切だからな」
クロハの問いにクラゲーヌはそう答える。
「ありがとうございます、頑張ります」
「おう、だが程々に休息も取れよ」
「……はい」
◇
「ま、魔法が、できました!」
そう言ってラードルに、自身の掌に生まれた黒い球体を見せるクロハ。
あの模擬戦から数週間後、彼女は遂に魔法を自らの意思で発動することに成功していた。
「ほっほっほっ、遂にやったか……長かったのう」
魔法を発動するのに数か月と長い期間、クロハの才能の無さに思わずうんざりしてしまうこともあったラードルであったが、彼女が魔法を発動したのを見て、師匠としても一個人としても彼はとても嬉しく思っていた。
「クロハ! 良くやりましたわ!」
リリアも、それを見てそう告げる。
彼女も魔法の学習としてラードルの指導を受けることとなり、現在クロハと一緒に魔法の特訓をしていた。
「発動できたのなら次のステップに行こうかの」
「はい!」
「クロハ、ファイトですわ!」
◇
「最近は落ち着いているし、サンクラット王国へ行こうかと思うんだ、どうかな?」
ある日、ハンズはリコット、アサーク、リリア、クロハを集めて突然そう告げた。
(私は何でここに居るんだろう……)
王族の中に一人、ただの護衛が混じっていることに違和感を覚え、そう思うクロハ。
「そうねぇ、最近特に変なことが起きていないのは少し妙だと思うけど、良いんじゃないかしら。落ち着いている今に行くべきだと私は思うわ」
「わたくしもそう思いますわ!」
「僕も良いと思います」
もはやクロハが居ることが当たり前かのような様子で話をする四人。
「わ、私もそう思います」
クロハも三人に続いてそう言う。
「うん、じゃあ決まりだね。今回は皆で行くし、道中危険だからちゃんと装備や持ち物を整えて行く。だから行くのは五日後にしようか」
それぞれの返事を聞いたハンズはその場の全員にそう告げる。
「了解よ」
「分かりましたわ」
「分かりました」
「了解です」
こうして、クロハの二回目の遠出はサンクラット王国となり、五日後に行くことが決まった。