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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
二章:鎮静
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第26話:ロナール伯爵領(2)

「そうか、楽しく暮らせているのなら良かった」

「はい、おかげさまで……それとシンラーンという人に会いたいんですが……」


 客間にて、そう言葉を交わすクロハとシャンラズ。

 クロハ達はあの後、客間へと通され、シャンラズと雑談をしていた。その際、クロハはロナールへ訪れた理由の一つである、シンラーンに会うことはできないかと彼へ聞く。


「シンラーンって、クロハが王都に来るときに世話をして貰ったっていう人ですわね」

「うん」

「ああ、彼女には今私の部屋の掃除を頼んでいる最中なんだ、だけど君が来たことは教えているから終わったらすぐにこちらに来るはず――」


 ――コンコンッ


「シンラーンです、入ってもよろしいでしょうか?」


 クロハ達がシンラーンについての会話をしていると、その時ノック音が響き渡り、その声がする。その言葉の主は先程話していたシンラーンであった。


「ほら、噂をすれば……入ってくれ」

「失礼します」


 シャンラズは彼女の入室を許可し、その言葉を聞いた彼女はそう言って部屋へ入ってくる。


「本当に起きてる……黒髪ちゃん、元気そうで何よりです」


 シンラーンはクロハを見てそう言葉を溢し、クロハの元へ寄る。


「えっと、あなたがシンラーンさん?」

「えぇ……こう見ると小さくてかわいいですね……グヘヘ」

「ええ! かわいいでしょう! でもわたくしのですわ!」


 この世界はロリコンしか居ないようだ。


「あはは、えっと色々私の世話をしてくれたと聞きました、ありがとうございました」

「あら、良いのですよ、まだまだ幼いんですから、どんどん人を頼ってくださいね。私はいつでも大歓迎です!」


 そんなこんなでその日はこれまでの事や、リコットは研究所についての事、など様々な会話をして終わりを告げた。



    ◇



「黒髪ちゃ……クロハちゃん一緒に買い出しに行きませんか?」


 翌日、リコットはシャンラズと真剣な話があると言い彼の書斎に行き、リリアとアサークは勉強と言って本を読んでいた。

 それによりやることが特に無かったクロハは、邸宅を徘徊してところをシンラーンから声を掛けられ、そう誘われていた。


「なんで私なんですか?」


 クロハはなぜ自分が誘われたのか気になり、そう聞く。


「いえ、お暇そうだったので……それと思ったよりも私はクロハちゃんに惹かれているみたいです、あなたと居ると落ち着くというか、そういうオーラでも出ているんでしょうかね? だから気づいた時には誘っていた、というのもあります」


 彼女の問いにそう答えるシンラーン。


「……そう、かもですね……分かりました、私も行きます」


 似たようなことを言っていた人物を思い出し、クロハは一瞬ほんの少し顔を曇らせた後、そう言ってシンラーンに着いていくことにした。


「クロハ、あなたわたくしの護衛ですわよ! 勝手に行かないでくださいまし!」


 しかし、いつからか二人の会話を盗み聞きしていたリリアがそう言って現れる。


「ご、ごめんなさい」

「ということでわたくしも連れていくのですわ!」


 そうして狙っていたかのように自分も連れていけと告げる。


「いえ、それは危ないと思いますよ」

「うん、ごめんなさいまだリリア様をしっかり守れる自身がないです……あと勉強はどうしたんですか?」


 シンラーンもクロハも、そう言って止めようとする。


「むぅ、私も守られるだけではないですわ! それにクロハは以前私を守ったでしょう? なので大丈夫ですわ、さあ行きますわよ! 勉強はもう終わりましたわ!」


 リリアはまたもや制止する声にうんざりし、少しばかり腹を立てた様子でそう告げる。


「……はい」


 クロハはリリアが光魔法を使えることや、以前リリアを守れたことを思い出し。そうしぶしぶ頷いた。


「あの、暴君過ぎません?」


 そんな様子のリリアを見てそう呟くシンラーン。


「そんなことはないです優しいです」

「そうは見えないけどね」


 そんな会話をしながら、三人は領都の繁華街へと向かった。



    ◇



「まあ! 随分と賑やかですわね!」

「うん、すごい」


 繁華街に着くや否や、クロハとリリアはその光景に目を輝かせていた。

 二人ともこのように人が多い街にはあまり行ったことが無いのだ。


「あ、そういえば何を買いに行くんですか?」

「主に食材です」

「食材ですのね! 地域によって採れる物も違うと聞きましたわ、ここにはどんな食材があるのか非常に楽しみですわ!」

「そうですね、ロナールでは特にヤーヌという果物が有名です……ちょうどあのお店に売っているので買っていきましょうか」


 ヤーヌとは、ロナールの特産品の果物である。

 赤と橙の色が綺麗に半々の割合で分かれているのが大きな特徴である。甘さの中にほのかに酸味が混じっており、暑い季節に特に人気が出る果物だ。


「わたくし、これを見たことありますわ!」

「ヤーヌは特に有名ですからね」

「私は見たことないです」


 クロハの地元であるヴァエールは、ほとんどが自給自足であり、他の地域の食べ物は滅多に食べることが無かった、そのためクロハは初めてヤーヌという果物を目にした。


「あら、そうなのですか?」

「はい、私の育った場所は、自分たちで食料を作ってたから……あまり他の地域のものは食べたことが無いです」

「そういえば、聞いていませんでしたわ、クロハの地元はどこなのです?」

「……ヴァエールです」

「……」


 まんまと地雷を踏むリリア。

 彼女もヴァエール村の件は聞いておりそれゆえ『やってしまいましたわ』と思っていた。


「え、えーと……ごめんなさい」

「全然大丈夫です」


 リリアの謝罪にクロハは何でもないように返す。


「ヴァエール、聞いたことが無いですね」

「シンラーン、無駄な詮索は止しましょうですわ、さぁ早く買って次の所へ行きますわ!」


 リリアは、シンラーンの疑問に端的にそう返し、少し焦ったようにそう告げる。


「は、はい」


 リリアの言葉を受けて、何かあるのだろうと考えたシンラーンは、言われた通りそれ以上の詮索を止め、ヤーヌを複数個買う。


「さぁ、お次はどちらに行くのです?」

「次は、あちらのお店へ……」


 そうしてその後は何事も無く買い物が進んでいき。


「以上ですね、帰りますか?」

「そうですわね、帰りましょう。とても楽しかったですわ!」

「うん」


 買い出しを終わらせた三人は、邸宅へと帰った。



    ◇



「聞いていたよりも酷いわね……これで全部なのかしら」


 リコットは資料を見てそう呟く。


「はい、隅々まで調査しましたので、恐らく残っている資料はこれで全てだと思われます」


 書斎にて、シャンラズとリコットの二人は相まみえていた。

 リコットの言う真剣な話とは研究所のことを真面目に話すことであった、というのは建前、彼女は研究所の後始末について、それと改めてきちんと礼を告げることを一番の目的としていた。


「確かに他国が干渉しているようなものは書かれていないわね、予定通りこのまま後始末を進めてもらっていいわ」

「疑いは晴れましたか?」

「初めから疑っていないわ、まず貴方が関わっていたとしたらこの研究所を捜査させた意図が全く見えないもの、それに貴方は貴族の中でも優しい性格をしていると私は知っているわ」

「ありがとうございます、真剣な話と言うので、ってきり疑われているかと思いました」


 シャンラズはリコットに研究所の件に関わっていると疑われていると思っていたが、その心配が杞憂に終わったことに安堵していた。事実、シャンラズは事件の調査と終息に懸命に取り組んでおり、全くの無関係者であった。


「改めて、深く感謝を申し上げます」

「いえ、こちらこそであります」


 お互いに礼を言い、広げた資料を片付け始める。

 クロハの件、主に研究所の事件はこうして静かに終息を迎えていった。



    ◇



「クロハちゃん、リリア様、もうお別れなんて寂しいです、残っていきませんか?」

「楽しかったですわ、ですが残ることはできませんわ」

「せめてクロハちゃんだけでもどうですか?」

「ごめんなさい、私もリリア様に付いていくので無理です」


 数日後、ロナール領で数日間滞在したクロハ達は、王都へ帰ることとなっていた。


「えっと、あの……改めて研究所のこと、ありがとうございました」

「ああ、良いんだよ。元気でね」


 クロハにも研究所の件の終息は伝えており。救出と事件の後処理の事について、改めてシャンラズにお礼を言っていた。


「アバートさんも、ありがとうございました」

「騎士として当然のことをしたまでだ、気にするな。そうだ、クラゲーヌさんによろしく伝えておいてくれ」

「はい」


 この数日の間で、クロハはアバートとも顔を合わせており、彼も見送りに来ていた。


「また会いに来てくださいね、いつでも待ってますよ」

「はい、また来ます」


 シンラーンも見送りに来ており、先程からクロハ達と別れるのを名残惜しそうにしている。


「では失礼するわ」

「えぇ、是非またいらしてください」


 そうしてクロハ達はロナールの者達に見送られながら出発し、王都へと向かっていった。


「楽しかったですわね!」

「うん」

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