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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
二章:鎮静
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第24話:お披露目パーティー

「これじゃリリア様を守れません……」


 数日経ち、ついにお披露目パーティー当日となった。


「かわいい!! とても似合っていますわ!」

「服だけでここまで輝くとは……」

「あ、あの……」


 リリアは何やら感激しており、カーラは先程から同じ言葉を繰り返すばかりであった。


 その理由はクロハにあった。

 お披露目パーティにリリアが参加となれば、もちろん護衛であるクロハも参加である。しかし大勢の貴族が参加する場所で一人だけ地味な服というわけにも行かず、急遽彼女用のドレスを製作した。

 クロハのイメージに合わせた黒色がメインのドレスであり、黒ということで少々華やかさが物足りなく見えるが、落ち着きのある雰囲気を醸し出し、それが見事にクロハとマッチし、彼女の可憐さを増すことになり二人からはとても好評であった。


 護衛としてドレスはどうなのかと思われるが、クロハは短剣を扱えるようになっており、スカートの内側に短剣を隠し装備している。この短剣でリリアを守れるかは、クロハの実力次第である。


「っと、そうでした……お嬢様、そろそろ時間です、馬車を用意しているのでそちらにお乗りください。クロハも、乗りますよ」


 カーラは思考から覚め、思い出したかのように二人へそう告げる。


「分かりましたわ!」

「……分かりました」


 護衛なのにドレスな事に未だに複雑な気持ちを抱きつつも、カーラの言葉を聞いたクロハはそうしぶしぶ頷き、二人と馬車のある場所まで行く。


「楽しみですわ!」

「……うん」

「しっかり座っておいてくださいね」


 三人は馬車に乗り込み、そうして宮殿まで向かっていった。



    ◇



「賑やか……」

「緊張してきましたわ」


 宮殿に着いたが、外からでも聞こえるほどの話し声や音楽に、二人はそう呟く。


「両陛下が扉前でお待ちです、行きましょう」

「分かりましたわ」

「はい」


 カーラの言葉によって馬車から降り、ハンズとリコットが居るという宮殿の大扉前まで歩いていく。


「おお、二人とも、似合っているよ」

「まあ、なんてかわいらしい」


 扉前にはハンズとリコットが複数の騎士とおり、リリアとクロハを見てそう声を掛ける。


「ありがとうございますわ」

「あ、ありがとうございます……」


 クロハとリリアは少々照れながらも二人の言葉にそう返す。


「さて、じゃあ揃ったことだし、リリアは私たちの少し後ろを歩いてきて、クロハは護衛騎士の列に入って、丁度リリアの横の辺りだね」

「分かりましたわ」

「はい」


 ハンズの言葉にそう返事をし、二人は言われた通りの位置に着く。


「さあ、行こうか、皆あまり気を張り過ぎないようにね」


 ハンズは最後にそう告げて最後、前を向く。


「両陛下、及び王女殿下のご入場です!」


 その声と同時に扉が開く。宮殿に流れる音楽も威厳を感じられるものとなり、その場の全員の雰囲気が変わる。


 話し合っていた者たちはそこで黙り、その場にいた者たちは皆頭を下げ始める。


「……」


 しばらくの間、音楽と足音だけが辺りに響く。



 そうしてハンズ、リコット、リリアはそれぞれ舞台上にある豪華な椅子へと座った。


「皆、顔を上げよ」


 ハンズがそう告げたことによって、その場の者は全員顔を上げる。


「……」


 王族の近くで立っているクロハに奇異の視線が複数送られる。

 それもそのはず、クロハは立派なドレスを着ており、更に幼い、そのことからその場の者は彼女を護衛だとはとても思えなかった。しかしその他の護衛と一緒に立っているため、彼らは内心少し困惑していた。


「此度は多忙なる中、この広間に参集せしことに深く感謝を申し上げる」


 いつもと様子の違うハンズはそのまま数分のスピーチをする。



「さて、私からの言葉は以上である。次は来賓の紹介と行こう」


 スピーチが一区切り着いたところで、ハンズはそう告げ、更に言葉を続ける。


「今宵、素晴らしい来賓に来て貰った。我が盟友国の王、ソラーヌ・サンクラット女王である!」


 その言葉と同時に、思色の髪と瞳を兼ね備え、つり目が印象に残るような、赤がメインの豪華なドレスを着た女性。アズラの盟友国、サンクラット王国の女王であるソラーヌ・サンクラットが部屋へ入室する。

 サンクラット王国は女王制であり、王位は女性が継ぐという決まりがある。そのため彼女はこの世界では珍しい女王である。


「ソラーヌ・サンクラットだ。この素敵なパーティーに参加できたことを大変嬉しく思う、今夜は楽しませて貰うぞ!」


 彼女は舞台上に立ち、短くそう告げると来賓用の席へと戻っていった。


「では堅苦しい話はここまでとしよう、各自自由にしてよい、今夜は大いに盛り上がろうぞ!」


 そうしてハンズがそう告げると辺りは騒がしくなり、それぞれ、顔見知りの貴族と談笑したり、子供同士で交流したりなどをし始めた。


「久しいな、ハンズ、リコット」


 すると先程舞台上で短く発言したソラーヌが、ハンズ達の元を訪れた。


「久しぶりだね、ソラーヌ」

「一年ぶりですけどね」

「リコット、一年は長いぞ。で、そちらのお嬢さんは娘か……ん? お前達、二人も娘が居たか?」


 ソラーヌはリリアの方を見たが、その横に居るクロハを見て、怪訝そうにしながらそう言う。


「ああ。黒髪の子は娘の護衛だよ」

「ほう、その年で護衛か」

「初めまして、わたくしはリリア・アズラと申しますわ」

「クロハです、リリア様の護衛です」

「ふむ、礼儀がなっているな」


 しっかり挨拶をしたことにより、ソラーヌからの第一印象は好印象であった。


「うちの子も紹介したいな、どうだ? 今度こちらに来ないか? 最近交流する機が無かったからな」


 ソラーヌはリリアとクロハを見て、そうハンズへ告げる。


「そうだね、来てもらってばかりじゃ駄目だね、考えておくよ」

「お前達の子供も連れてくてくれると助かるが」

「……善処する」


 軽く言うソラーヌだが、アズラとサンクラットを行き来するには魔の森を抜けなければならない、そのため危険の伴う魔の森に、子供を連れていくということをハンズは可能なら止めたいと思っていた。実際両者とも危険を思って子供は連れていったことがない。


「まあ、無理なら良いのだがね、実際私も連れてきていないんだから」


 そう言って彼女は苦笑する。 


「いや、考えとくさ、国の将来も考えるとそろそろ会わせておくべきだね」

「そうか、すまんな」

「はいはい、あなた達、他にも積もる話はあるでしょう? 国絡みの話は良いから、もっと楽しく行きましょう」


 国の話し合いしかしない二人にリコットはそう言って話題を変えようとする。


「そうだね」

「そうだな、では私の娘の話でもするか」

「リリア達も好きに行動して良いのよ?」

「分かりましたわ、クロハ向こうに行きましょう!」

「うん」


 そうしてハンズ、リコット、ソラーヌは三人で雑談。リリアとクロハは宮殿内を歩き回ることにした。



    ◇



 歩き回ったり、バイキングにて食事をしているところで、リリアも様々な貴族から話しかけられた。軽く挨拶を交わす程度の者も居れば、いきなり婚姻の話を持ちかける者もいた。

 クロハはずっとリリアと行動しているため、護衛だと知らない者から妬みなどの負の感情を向けられるなどをしていたが精神的苦痛に慣れていた彼女はそれに全く動じた様子を見せず、それどころかリリアに対するものだと勘違いすることもあり、殺意の籠った瞳で睨み返すことなどしていた。



 そうして無事に時間は進み、何事もなく終わる……と思われていたその時。


「そいつを捕らえろ!」


 突如その声が辺りに響き渡った。


「何かあったのでしょうか?」


 そう不思議に思い、声の方へ歩みを進めようとするリリア。


「待って……」

「死ね!」

「っ……!」


 クロハはそんな彼女を止めようとした、しかしその時人込みから短剣を持った黒服の男が現れ、リリアへと迫る。


「ん!」

「ぐっ……痛っぇなぁ、なんだぁ?ガキが」


 黒服の男を確認したクロハは即座にその男の横腹へ蹴りを入れ、その足を止めさせる。


「な、こ、こいつ今王女殿下を刺そうと……」

「武器を持っているわ!誰か!」

「警備隊は何をしている!」

「あの子すごいわね……」


 その様子を確認した人々がそう騒ぎ、辺りは騒々しくなる。


「く、クロハ……」

「大丈夫……」


 クロハはリリアへそう言って短剣を取り出して、その男と対峙する。


「陛下を狙った奴も居たらしいぞ」

「複数人?」

「お、俺は殺されたくないぞ!」


 クロハと黒服の男を中心に、人々が離れていく。


「ケケッ、あっちもこっちも失敗か……ならここらでずらかるとしよう」


 黒服の男はそう言ってその場から逃走し始める。


「……」


 クロハはその様子を見て、リリアに何かあった時の為に追いかけることはせず、その場に留まる。


「大丈夫か!」

「あ、ボロノさん、大丈夫です」


 すると金髪を一つ結びにした、前回リリアの部屋への襲撃の際に助けに来た騎士、ボロノが現れ、それを見たクロハの緊張は少し解け、無意識に強張らせていた体の力を抜いた。



    ◇



「皆、済まないが緊急事態が発生した、此度はこれにて解散とする。くれぐれも帰路気を付けるよう」


 お披露目パーティーはそうして、緊急事態により予定よりも早く終わりを告げることとなった。

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