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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
二章:鎮静
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第23話:予定

「クロハ、一緒に城下町へ行きましょう!」


 あれから数日後、クロハは城の通路でばったり会ったリリアからそう誘われていた。


「お嬢様、それは危険です」


 リリアの城に行きたいという言葉を聞いたカーラは透かさずそう告げる。


「うん、危険だと思います」


 クロハもカーラの意見に賛成であった。


「そんなッ! クロハまで……」

「リリア様、私はまだ強くないので、何かあった時守れないです」


 あれからクロハは凄まじい早さで強くなっていた、しかしまだまだ訓練兵と同等かそれ以下程度の実力しかなかった。そんな実力で城下町に行き、リリアを守れる自身がクロハには無かった。


「む~」

「リリア様、私、すぐにもっと強くなるのでそれまでもう少し待ってて欲しいです」

「あ、いや、大丈夫ですわ、わたくしも我儘が過ぎましたわね、だからそこまで気を張らないでくださいまし!」

「いえ、私も行きたいので、頑張ります! ということで今から訓練します」

「い、いつでも待てますわ、だから気長にですわ!」


 リリアの言葉も虚しく、クロハは妙にやる気に満ち溢れた様子で訓練へと行ってしまった。


「やって、しまいましたわ……」

「まあ、いずれにせよ早く強くなって貰わないと困るところはあるので良いかと」


 自分自身に落胆しているリリアにそう言って励まそうとするカーラ。


「カーラも見たでしょ? あの子の訓練、あんなの、死んでしまいますわ……」


 リリアとカーラはクロハがいつも死にそうになるまで訓練をしていることを知っていた。

 そのためリリアはクロハを訓練に行かせたことを後悔していた。


「そうは言いますが、あれはクロハの意思と覚悟でやっていることです、それを無下にするのも違うと思いませんか?」

「でも今回はわたくしが我儘を言ったから鍛練に行っちゃったじゃない」

「それはまあ……その通りですが」

「ほら!」

「ですが先程も言ったように、早く強くなって貰わないと困るのです、専属護衛になると言った日から彼女もお嬢様も覚悟はしていたでしょう」

「それは、分かっていましたわ、けど……」


 リリアとしてはクロハに傷付いて欲しくなかった、クロハが専属護衛となると宣言した際、彼女は嬉しさの半面クロハが傷付くことの不安も感じていた。しかしクロハの意見を尊重し、彼女もその時に覚悟を決めた。

 そうしてクロハは無事リリアの護衛となったわけなのだが。


「やっぱり、クロハとあんなことやこんなことをして楽しく過ごしたかったですわ! 今すぐにでも……」

「お嬢様」


 少々暴走気味のリリアにそう声を掛けるカーラ。


「……冗談ですわ。分かっていますの、わたくしはあの子の覚悟を無下にはしません、ずっと見守っていますわ!」

「先程のは冗談に聞こえなかったのですが、良いでしょう」


 カーラはなんとかリリアの暴走が収まりそう言って安堵する。


(にしても、お嬢様は何故こんな人になってしまったのか……)


「一目惚れしたからですわ!」

「え、なんですか? 心を読んでるんですか? ちょっとキモいですよ」

「貴女わたくしの侍女ですわよね……?」

「すみません、思わず」


 王族の娘にキモいと言うなど普通は首が飛ぶ事案なのだが。そのことに両者とも気にした素振りは見せず、いつも通りである。長年の絆という奴だろう。


「そんなになんですか?」

「えぇ!そんなにですわ! あの子を見た瞬間、私の心は射貫かれましたの!」

「まあ、確かに容姿は整っていますが……というかお嬢様は同性愛者なんですか?」

「うーん、分かりませんわ! けど可愛いものは好きですわ!」

「そうですか、どちらでも良いですけど……いや王族なので駄目なんでしょうけど。それよりもお嬢様、そろそろアルジャリン宮殿でのお披露目会です、今年は参加ですので改めて礼儀作法の練習やドレスの寸法をしましょう」

「あー、そういえばそんなのありましたわね」


 アズラ王国では毎年春頃になると、アルジャリン宮殿という大規模な舞踏会を行うために建てられた建物で、その年に十歳になる貴族子女の初めての社交界として、お披露目パーティーを行う。

 その際アズラ王国の各領から、主役である十歳になる貴族の子供とその親、更に他にも様々な貴族や、場合によっては同盟国からの来賓もあるほどに大きな催しである。

 今年は王女であるリリアが参加するため、王子であるアサークが参加した昨年のパーティーと同様に注目されている。サンクラット王国の国王は昨年、来賓として参加し、今年も参加の意を示している。


 リリアはそのことをすっかり忘れていたようだ。


「そういえばって……はぁ」


 そんなリリアに呆れるカーラ。


「もっと、王女としての自覚を持ってください」

「む……分かっていますわ」

「本当に分かっているんですかねぇ……さ、折角ですからこの際に寸法しますよ」

「はぁ、分かりましたわ……」


 そうして不服そうなリリアとそれに呆れるカーラは、ドレスの寸法を始めるため、リリアの部屋へと向かう。



    ◇



「なるほど」


 書斎にて、ハンズはそう言葉を溢していた。

 彼の視線の先には一通の手紙。


「『他国が関わっている可能性は考えられない』か」


 手紙の内容はクロハが捕らわれていた研究所についてだった。ロナール伯爵領からの手紙だ。


「うん、一度王族全員で視察も兼ねて今回の礼にロナールへ訪問するのもありか、アサークもリリアも王族として成長するだろう。あ、でも近々お披露目パーティーがあったか……ならその後か」


 ハンズは手紙の内容を見てロナール領への訪問を考え始め、そう呟く。


「……ただ、リリアが行くとなるとクロハも付いてくるか」


 しかし、視察へリリアが行くとなるとその護衛であるクロハも付いてくることになる、と考えたハンズはそこで思い止まる。


(あの子に嫌なことを思い出させてしまうか?)


 ロナール領はクロハの居た研究所があった場所である。それ故ハンズはそう考える。


「まあ、聞いてみようか」


 何事も本人の意思を確認せねば、と思ったハンズはそうしてクロハにその話を伝えた。


「行きます」


 結果クロハは即答。

 彼女もシンラーンからの手紙の件でロナール領へ行く機会を探しており、タイミングが良かったのだ。

 そうしてお披露目パーティーの後日に、クロハ達はロナール伯爵領へと向かうことが決まった。


「というか、王族全員で行くとなると彼方あちらは大変か?……まあそこは頑張って貰おう、久々の視察、まるで旅行みたいで楽しみだ」


 クロハが部屋から去った後、ハンズはそう一人、子供のように胸を弾ませていた。

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