第21話:魔法と勉強
「ほほう、この子が……うむ、良いじゃろう、儂が直々に魔法を教えてやる」
そう言うのは、白髪、蒼眼の白い髭を長く伸ばした年老いた男性、ラードル。
彼はクロハの魔法を鍛えるためにハンズが呼んだ魔導師だ。
「助かります、ラードル先生」
ラードルの言葉を聞き、そう言うハンズ。
ハンズはラードルに魔法を教えて貰っていた時期があり、そのため彼は未だにラードルを先生と慕っている。
「なんじゃ、これぐらい大したことないわい」
「よろしくお願いします」
「しっかりしてるのう」
ラードルはクロハの様子を見てそう呟く。
「……ではさっそく魔法について教えるわい、庭で良いかの?」
「良いですよ、行ってらっしゃいクロハ」
ラードルは城の庭で魔法の講義をして良いかハンズに聞く。
ハンズはそれに対して許可を出し、クロハに行ってらっしゃいと告げて見送る。
「じゃあ行くかの、付いてくるのじゃ」
「はい」
◇
「まず、お主の適性属性は闇じゃな」
「はい」
クロハはラードルの問いに端的に答える。
「うむ、こう、何というか儂って凄いじゃろ? だけどそんな儂でも光と闇属性は扱えんのじゃ、疑似的なものは使えるがの」
「やっぱり、すごい人なんですね」
「何じゃ、儂のことを知らないのか、これでも有名だと思っておったのだがのう……では儂のことを少し説明しよう」
そうしてラードルは少し怠そうにしながら自身の説明を始めた。
ラードルは世界最強の魔導師と呼ばれている者であり、光と闇以外の全ての属性の魔法が扱える。更に独自に魔術の研究もしており、魔術に関しては常に研究の最先端を行っていると言ってもいいだろう。
「よく分からないですけど、すごいんですね」
「まだ魔法の知識も無い者に言っても儂の偉大さは分からんか」
彼はクロハの反応にそう言って嘆息を漏らす。
「まあ良いじゃろう、話が大幅に逸れたのう、まあ要するに儂では闇属性の魔法は教えられないということじゃ」
「すごい人なのに?」
「煩いわい、魔法の適性など生まれつきなのじゃ、それに疑似的なものは魔術でできるわい」
「その、魔術と魔法の違いは何ですか?」
「おお、そうじゃった。儂としたことが忘れておったわい」
そうしてラードルは魔法と魔術の違いをクロハに説明する。
改めて魔法と魔術の説明を簡単にしよう。
基本的に、魔法は人間に元々備わっているもの、魔術は後に人間が開発したもの、というような認識であり、どちらとも自身の体内にある魔力を消費して扱うことができる。
魔法は属性が八属性あり、扱うにはそれぞれ適性が必要である。適性関係無く使える身体強化などの魔法は無属性と呼ばれている。
更に魔法には詠唱が必要であり、イメージが重要とされている。
対する魔術は、詠唱が必要なく、代わりに魔法陣を描くことが必要である。魔法陣には無限の可能性があると言われており、近年特に研究が進められている。事実、魔術によって魔法の模倣どころかそれ以上の事を行うことができる。
更に魔法陣を物に埋め込むことで、その魔力を通して気軽に誰でも魔術の効果を発動させることができる、魔道具と呼ばれる物も作れ、汎用性にも優れている。しかし魔法陣作成の難易度が高いことが魔術の難点である。
「理解したかの?」
「うぅ、はい」
ラードルの言葉にそう返すクロハであったが魔法と魔術の説明で彼女の頭は既に一杯一杯であった。
「ほっほっほ、何、今日で一気に覚えなくて良いわい、さて一休みしたら基本的な魔法の発動方法を教えるわい」
「は、はい」
◇
「まず魔法は体内の魔力を感知するところから始まる、これができないとイメージが固められず魔法を発動できない、ということでまずは魔力を感知してみるのじゃ」
「えっと、どうやって……?」
「それは人それぞれじゃから何とも言えんのう」
「えー……」
あまり詳しく教えてくれないラードルにクロハは(この人大丈夫かな……?)と思っていた。
「冗談じゃ、人それぞれなのは本当じゃが」
ラードルはそう言って魔力の感知方法を説明を始める。
「まず一つ、目を瞑り集中し、自身の体内に意識を向け、魔力の流れを感知する方法、二つ目は感情的になることで魔法を暴発させ、その際の魔力の感覚を掴む。大まかに言うとこの二つじゃな」
「……どちらが良いですか?」
「基本前者の方が良いわい、後者は魔法の詠唱短縮や無詠唱などの才能がある者しかできない上に魔法の暴発という危険が伴うからのう……そういえばお主、一度魔法を使って暴れたとハンズからの報告があったのう、その時の感覚は覚えておらんのか?」
「覚えてません」
「ふむ、その様子じゃと詠唱も知らんようじゃし、詠唱短縮などの才能はあると思うのだがのう……まあ良いわい、まずは最初言ったことをやってみるのじゃ」
「はい、やってみます」
ラードル説明を聞いたクロハは、言われた通りに目を閉じて集中し、自身の体内に意識を向ける。
「……」
「……」
「……」
「……」
「だめ、です」
「ふむ、魔力感知の才能は無いのかもしれんな」
「そんな……」
「落ち込むでない、すぐにできない者もこの世にはいっぱい居るわい」
ラードルは落ち込むクロハへ励ましとしてそう言ったが。
(しかし、一度魔法を使っておいて、すぐに魔力感知ができないとなると、やはりそちらの才能は無いと言わざるを得んのう)
実際はそう思っていた。
「まあ、地道にやって行くしかないのう」
「がんばります」
◇
「あ、クロハ、やっと見つけました」
「あ、カーラさん、こんにちは、何か用ですか?」
あの後、魔法の練習を終えたクロハは、自室へ戻っている最中にカーラに話しかけられそう答える。
「そういえばあなたって、この世界についてどれぐらいまで理解してるのかと思ってね、どう? あなたもお嬢様と一緒に勉強しないかしら」
「えっと……え、遠慮します」
「さぁさぁ、では行きましょう」
カーラはクロハの断りの言葉を聞いたはずであるが、クロハを連れていこうとする。
「え、えと」
そんな彼女の様子に困惑するクロハ。
「行・き・ま・す・よ」
「……はい」
どうやらクロハに拒否権は無いようである。
「全く、王族の護衛なんですから、知識、特に貴族のことに関しては深く学ぶ必要がありますよ」
そう、クロハは王族の護衛のため、これから様々な貴族と関わることになる。そのため、知識が無いと恥をかき他の貴族に無礼を働いてしまうかもしれない。そう考えたカーラは、今日こうしてクロハを勉学へと誘ったのである。
「さ、お嬢様が待っています、行きますよ」
「……はい」
勉強、となるとあまり乗り気ではないクロハであった。