第18話:王族
「ここはお庭よ」
「ねぇ、このお花素敵でしょう?」
「ここは、厨房よ」
「ここは図書館よ」
「ここは……」
クロハはリリアに連れられて、城内を歩き回っていた。
「さあ、次は……」
(まだ続くの?)
まだ続くと思い、ほんの少し絶望するクロハ。しかし、彼女は城なんて関わることの無いものだと思っていたため、実は心の底ではその新鮮な体験を楽しんでいた。
「お嬢様……やっと見つけました」
そんな時、二人の元にカーラがやってきた。どうやら二人を探し回っていたようである。
「カーラ、どうしたの?」
「どうって! もう日が傾いていますよ? そろそろ自室に戻りましょう」
「わっ、本当ですわ!?」
そう、リリアは気付いていなかったが、もう日が暮れ掛かっていた。
「分かったわ……そうでした、クロハはどうするの?」
「お二人が帰ってきたら呼んでくれ、と陛下が仰られていたのですが……陛下もまさかこんなに長く待つとは思わなかったでしょうね」
「ぐっ、わ、悪かったです、わね!」
「分かってくだされば良いのです、さあ、陛下がお待ちです、書斎へ行きましょう」
「分かりましたわ。さ、行きましょうかクロハ」
「……うん」
そうして三人はハンズのいる書斎へ向かった。
――コンコンッ
「お嬢様を連れて参りました」
「入って」
軽い口調でのハンズからの返事を聞き、カーラは(この方は威厳がないですね)などと思いながら扉を開ける。
「座って座って」
「陛下、そのような口調、威厳が無いですのでお止めください」
「身内の間くらい良いじゃないか、それにその少女もこちらの方が怖くないだろう」
「まあ確かにそうですが、というか私は身内ではないのですが」
「リリアの専属侍女なんて身内みたいなものだよ」
「それは暴論です」
「まあ良いからさ、座って」
「クロハ座りましょう」
「……うん」
ハンズに言われ、リリアとクロハの二人は客用に置いてある椅子へ座る。
「君は座らないのかい?」
「私は侍女ですので」
ハンズの言葉をそう断るカーラ。
「つれないなぁ」
そんなカーラの様子を見て、ハンズは残念そうにそう呟く。
「良いですから、本題に」
「そうだね……ん、でクロハといったかい? これまで色々と辛い経験をしてきただろう、知らなかったとはいえ、早いところ解放することができず本当に申し訳なかった。
ハンズはそう言ってクロハに頭を下げる。
「……」
対するクロハは突然国の王に頭を下げられ、少々困惑していた。
「お詫びと言っては何だが、そんな君には選択肢がある」
ハンズはそう言って指を一本立てる。
「一つはここで働く、侍女とかだね。リリアも君のことが好きなようだし、私としても、見捨てるということはできないからね。この選択肢が一つ目」
そう言って少し間を置いた後、彼は指をもう一本立てて話を続ける。
「そして二つ目は孤児院に入ること。比較的豊かな良い孤児院を紹介する、ただ豊と言っても孤児院だからね、贅沢はできないと思っておくことだね」
そう言ってクロハの様子を伺いながら彼はもう一つの選択肢を提示する。
「あとは……あまりしたくはないけど、一人で生きていく、一人で生きた方が気が楽だったりするならこの選択肢もある、だけどおすすめはしない、アズラは他の国と比べて治安は良いほうだけど、悪い輩もいるからね、それにお金を稼ぐのも子供では難しいところがある」
「……」
「今思い付く限りだとこの三つかな? 他にも聞きたいことがあったら聞いてくれ」
「……」
「クロハ、どうするのです?」
ずっと黙ったままのクロハを見かねて声を掛けるリリア。
「……今日中には決められないだろう、数日時間を上げるからよく考えておいで、その間は今の部屋を使って過ごして良いからさ」
微笑み掛けながらクロハへそう告げるハンズ。
「……うん」
「うん、じゃあその間は君も城で過ごすことになるから自己紹介をしないとね。カーラ、リコットとアサークを呼んできて」
「かしこまりました」
ハンズの言葉にそう返し、カーラは部屋から出ていく。
◇
「あら、可愛い子ね」
「この子が父上が言っていた?」
しばらくして、カーラはとある少年と女性を連れてきた。
「ああそうだ、過去に色々あり、少しの間ここで過ごすことになったクロハだ仲良くしてくれ……さて、二人を呼んだのは自己紹介をしようと思ってでな、さっそく私から自己紹介するとしよう」
そう言ってハンズはクロハと向き合う。
「ハンズ・アズラだ、これでもアズラ王国の十六代目国王をしている、よろしく」
ハンズは、全体的に白髪で所々橙色の髪をしており、瞳の色は黄色。ほっそりとした体型で、まだ若々しい、ように見える。実際の年齢は30を越えている。
「リコット・アズラよ、この人の妻よ、よろしくお願いするわ」
ハンズの妻であるリコットは、薄めた茶色のようなミディアムヘアであり、瞳の色は青色。こちらもスタイルはよく、化粧の影響もあって、ハンズよりも若々しく見える。年齢はハンズと同じである。
「えっと、アサーク・アズラだよ。よろしくね」
アサークはハンズとリコットの息子である。
全体的に茶髪で所々に白髪が見え、瞳の色は青色。歳はリリアの一つ上であり11歳。
「最後にわたくしですわね! もう知っているかもしれませんがわたくしはリリア・アズラと言いますのよ! よろしくお願いしますわ!」
リリアはハンズと同じ髪色のセミロングヘア。瞳の色は左右で違い、右目が黄色、左目が青色をしている。クロハと同い年であるがリリアの方が数ヶ月だけ生まれが早い、そのためクロハの年齢を知っても彼女のクロハの扱いは今と変わらないだろう。
「カーラもこの機に自己紹介したらどうだい?」
「そうですね」
ハンズはカーラにも自己紹介をするよう促し、それを聞いた彼女は折角なのでと思い、クロハと向き合って自己紹介を始める。
「カーラ・モドエナです。リリアお嬢様の専属侍女をさせて頂いております、どうぞよろしくお願いします」
カーラは茶髪でストレートな短髪、そして瞳の色が瑠璃色である。
「……皆さん、よろしく、おねがい、します」
一斉に自己紹介されたため、クロハは緊張しながらそう返す。
「はっはっはっ、そんな緊張するほどでもないよ、そうだ、お腹空いていないかい? ちょうど私達も食べる頃合いだから一緒に食べよう、どうだ?」
(そういえば……お腹空いた)
ハンズの言葉を聞いたクロハは久しく忘れていた空腹を思い出した。数日も何も食べていなかったため、強烈な空腹が彼女を襲う。
「一緒に食べましょう?」
そんな様子を見たリリアがそう声を掛ける。
「うん、食べ、たい」
「よし、じゃあみんなで食べようか、ダイニングルームへ行こう」
そうしてハンズ、リコット、アサーク、リリア、クロハ、カーラの六人はダイニングルームへと向かった。
(あれ? というかわたくし、数日何も食べていない子を長時間連れまわしていたのですか?)
そんなことを思い、軽く自分に絶望するリリアであった。