第15話:王都
ここからしばらくクロハに安寧が訪れます。
「これは、我々の手に負えないな……」
ロナール伯爵領領主、シャンラズ・ロナールは、騎士団が持ち帰った資料を見てそう呟いていた。
◇
時は遡り、騎士団による研究所の調査が一通り終わった頃。
「一通り見たが……」
「流石に酷いですね」
騎士団員の間には重苦しい空気が漂っていた。
「これ、俺達の領ではもはや手が追えないか?」
「……一先ずこの資料を持ち帰って領主のシャンラズ様に伺ってみると良い、場合によっては王都で保護する可能性があるだろう、俺も同行する」
苦慮しているアバートを見かねたクラゲーヌがそう告げる。
「そうですね、ありがとうございます……では皆! 領都へ戻るぞ!」
クラゲーヌの言葉を受けて一先ずは領都に戻ることにしたアバートは、騎士団へそう告げる。
◇
そうして領都ロナールに戻ったアバートとクラゲーヌは、領主であるシャンラズが居るロナール邸宅へと行き、彼に研究所の資料を渡していた。
シャンラズは、アバートと一緒にクラゲーヌが自身の部屋へと入ってきていたことに驚いていたが、クラゲーヌがロナール領の付近にある魔の森へ来て、ロナールへ訪れていたことを事前に知っていたため、そういうこともあるか、と考え驚きをすぐに収めていた。
「超再生、精神保護、闇魔法、それに加えて非人道的過ぎる研究……」
資料を見ながら、そう呟くシャンラズ。
「……すまないが今の私ではこの少女にどう対応したら良いのか分からない。クラゲーヌ殿、王都にて預かって欲しい、送り届けて頂けぬか? 馬車は手配する」
シャンラズは、資料を一通り見てしばらく思案していたが、やがて顔を上げ、最終的にクラゲーヌへそう告げた。
「分かりました、お任せください」
クラゲーヌ始めから分かっていたかのようにそう答える。
「感謝する、国王への伝達はこちらで済ませておく、明日の内に出発することは可能であるか?」
「はい、問題ありません」
「では明日頼みましたぞ……本日はお疲れでしょう、客室を貸しますので是非今日はそちらで泊まって行ってください」
「ありがとうございます」
「では、この者を客室へ案内してください」
話し合いの末、クラゲーヌは邸宅の客室で泊まることとなり、シャンラズは隣に控えていた執事に客室へ案内するように伝えた。
「では本日は解散としよう、アバート、クラゲーヌ殿、ご苦労であった」
◇
「ではクラゲーヌ殿、頼みましたぞ」
「ええ、お任せください」
翌日、クラゲーヌはそう言って未だ目覚めないクロハを抱えて馬車へ乗る。
現在のクロハは、服を薄い青色のワンピースへ着せ変えられていた。これは訓練場の救護室に寝かせられていたクロハから悪臭が放たれていたのを放って置けなかった女医が、念入りに体を拭き、服を着せ変えた結果である。
「うむ、これは王都で保護せねばな」
そんなクロハを見たクラゲーヌはそう呟いた。
実は彼は子供好きである、特にロリが。隠れロリコン。
「ではまた会いましょう」
クラゲーヌはシャンラズらにそう言い、クロハとその世話係を乗せた馬車を動かして、王都へ向かって進み出した。
◇
「無事到着か」
その後、何事もなく進み、無事にクロハは王都へ送られた。
王都アズラは、アズラ王国中心部に位置する巨大な首都である。王都の周囲は巨大な外壁で囲われており、そう簡単には不法侵入ができない造りになっている。
「シンラーン殿はこれからどうするのですか?」
クラゲーヌはクロハの世話係として派遣されていたメイド服を着た、金色の短髪に蒼眼の女性、シンラーンにそう問う。
「私は、この子が目覚める瞬間を見たいですが、少し滞在したらロナールへ戻るつもりです」
シンラーンは彼の問いにそう答える。
彼女はクロハの世話をしている内に、クロハに対して情が湧き、帰ることを名残惜しく思っていた。
そしてクロハは未だに目覚めていなかった。
「そうですか、では滞在中にこの子が目覚めたら真っ先に知らせるとします」
「ありがとうございます、もし滞在中でなくても手紙を送っていただけると嬉しいです」
「了解です、では私はこれで」
そう言ってクラゲーヌはクロハを横抱きに抱えて、王城へと足を運ぶ。
「お、お疲れ様です!」
「お勤めご苦労」
城の門兵にそう会釈を交わし城へ入っていくクラゲーヌ。
普通門兵は城に入る者の身元確認などを行うが、クラゲーヌは有名で王の友人ということもあり、基本顔パスで良いのである。
彼はそのまま王の書斎を目指してしばらく城内を歩く。
――コンコンッ
「ただいま戻りました、クラゲーヌです」
書斎に付いた彼はノックしてそう告げる。
「入って」
「失礼します」
国王、ハンズからの許可を確認した彼はそう言って片手でクロハを抱え直し、扉を開けて部屋へ入る。
「……その子が例の」
「ええ、とりあえずこの子をどこかに寝かせて良いですか?」
話すにしてもまずはクロハをどこかに寝かせたいと考えたクラゲーヌはハンズへそう言う。
「そうだな、客室へ寝かせよう、話もそこで」
その言葉を聞いたハンズはそう言って椅子から立つ。
「わかりました」
クラゲーヌはそう返し、客室へと向かうハンズの後を追っていく。
「魔の森はどうだった?」
「陛下のおっしゃった通り、数多くの魔物が蔓延っていました」
「やっぱりか、ここ最近外交やら自国のことで多忙だったからな、いつも以上に魔物が生まれていただろう」
魔の森には様々な魔物が生息しており、その数も多い。
魔物は魔力が長期間溜まった場所に生まれる。魔の森は、魔力が溜まりやすく魔物が生まれやすい場所、とされており、そこで生まれる魔物はどれも強力な個体ばかりである。そのため騎士団は毎度苦戦を強いられている。
魔物が増え過ぎた場合、森の食料が無くなり、飢えた魔物達が食べ物を求めて王国へと迫る。そのためハンズは定期的に魔の森に生息している魔物を王国付近だけでも、と減らすようにしていた。しかし、ここしばらくはそれがなかなかできなかった。というのも、近頃は他国との関係向上やヴァエール村の襲撃などの対応をしており、騎士団や各領も襲撃の知らせを受けて警備の強化や周囲の調査などに人員を割き戦力が少なかったためだ。
その結果、ハンズはアズラの騎士最強であるクラゲーヌに単独で魔物の掃討を依頼したというわけである。
ハンズは後々一人で行かせたことを不安に思っていたが、結果はこの通り五体満足であったので安堵していた。
「ここで良いな……では話を聞こう、少しはロナールからの伝達で聞いているが、あまり詳しくは聞いていないからな」
「私も完全に知った訳ではないのですけどね」
「私よりは知ってるだろ」
「それはそうですがね……では私の知る限りで話しますね」
空いている客室へ入った二人は、その部屋の寝台にクロハを寝かせて、話を始める。話の内容は勿論、クロハのことについてだ。
【あとがき】
今回の話ちょっとつまらなかったかもしれませんが許してください。
黒葉
「やっと私は解放されたんだね」
ぬい葉
「やっぱ読者の皆様にも休憩は必要だろうから良かったよ」
ここから暫くはクロハに平穏が訪れます、この小説を読む皆さんにとっては少々退屈になってしまうかもしれませんが、どうかこの作品を読んでくれたらな、と思います。
あと8月中に完結、という目標を立てていたんですが達成できるか微妙になってきました。(;^∀^)
ぬい葉
「君の話、思ったよりも長いね」
黒葉
「誰も好きでこんな人生歩んでない」
色々と至らぬ点もあるかと思いますが、これからも朱黒をよろしくお願いします!