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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
一章:地獄へと
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第12話:研究と転機

「――!!」

「ふむ、管が中々通りませんね、超再生の弊害がここで出ましたか……もっと大きく切り開くしかないですね」

「博士、捕獲していたフォレストウルフを連れてきました」

「そこに置いておいてください……まずはこの娘の体液を入れてみましょうか」


「ふむ、特に変化は無さそうですね、次は再生中の体液などにしてみましょう」


 翌日からクロハは様々な実験に使用されていた。


「――ッ!!」


 クロハは体中に管を挿し込まれ、体内の様々な体液を吸い取られていく、その吸い取られたものは、研究員によって様々な動物や魔物に注入されていく。

 体内から自分のものが次々と吸い取られていく、痛みと不快感と恐怖、気が狂いそうになるも、天賦によって精神が落ち着き冷静になる。


(もういっそ、狂わせて……)


 もはや彼女は狂えないことに苦痛を感じていた。


「おお、フォレストウルフの傷が少し再生している! こんなにも早く結果が出るとは……しかし、再生力は遥かに低い。もっと何かあるはずです」


 そうして研究は進んでいく。




    ◇




「近頃、ディプロの外れにある一件の白い建物、その付近から強烈な異臭がする、と騎士団へ多数の問い合わせがきています」

「ほう」


 ブロンドの髪、葵色の瞳をしたロナール伯爵領の領主、シャンラズ・ロナールに、青髪、蒼眼のアズラ王国ロナール領の騎士団長、アバートはそう報告をしていた。


「具体的にどのような臭いか分かるか?」

「薬品のような臭いが混じったなにかだと」

「……なるほど、詳しく調べておいてくれ」

「はっ!」


 一連の報告をしたアバートはシャンラズの言葉を受け、異臭の解決へと動き出した。



    ◇



(いつ、終わる……? はやく、終わって)


(はやく)


 あれから数日、クロハは毎日研究に使われていた。


 研究は徐々に進展していっており、日に日に研究時間が長引いていく。

 あれからも、クロハの体の部位を他の生物へ取り付けたり、再生能力獲得のために、魔物をクロハへ襲わせて、しばらく食させたりと非人道的な行いを続けていた。ちなみにクロハを生で食べさせることで簡単に魔物に―彼女ほどのではないが―再生能力を与えることができると気づいた研究員らは、次々と魔物に彼女を食させ、しばらく彼女の餌食地獄が続いていた。


 そしてそれからも非人道的実験が続く。


(はやく……おわって)


 狂うことができず、いつまでも正気。しかし精神保護は強制的に落ち着かせるものであり負の感情を消すものではない。それゆえ、クロハの負の感情は表面上消えたように見えているだけであり、現在も内部で積もり続けている。


(あ、あ、あ)


 天賦によって溜まっていた負の感情が少量だが溢れ出し、精神の許容範囲を超える。精神保護が追いつかない。


(あ、が、はっ)


 更にクロハの()()の罅が広がる。


(あ……あ)


 それをきっかけとし、次々と狂った感情が溢れ、抑えが効かない。


 ついに()()が壊れる、といった瞬間。


「博士! アズラの騎士団が訪ねてきました!」

「騎士団だと?」


 ある研究員からの言葉で博士は驚きのあまり、実験を中止する。


(あ……)


 実験が終わったことでクロハの負の感情は微量ながら収まった。その結果精神保護が再発動し、クロハの精神は冷静さを取り戻す。


(む、り……)


 しかし今までのものとは比べ物にならないほどの精神の落差により、クロハは気を失う。



    ◇



「博士! アズラの騎士団が訪ねてきました!」

「騎士団だと?」


 博士は研究員の言葉に驚き、思わず実験を中止する。


「騎士団、まさかバレたのですか? いやそんなはずは……まあいい、私が行きましょう、念のためその娘を持って逃げれるように準備をしておいてください」


 博士は研究員達にそう告げて服を着替え、一階への階段を上がっていく。




「あなたはこの家の主でないと?」

「は、はい」

「では主はどこへ?」


 一階へ上った博士は、家の入り口からそのような話し声を聞いた。


(面倒ですね)


 彼はそう思いながらも、話し声の方へ行く。


「私がこの家の主ですよ」

「は、博士……!」


 博士が出てきたことで、それまで騎士団の対応をしていた研究員が彼をそう呼ぶ。


「博士……そうですか、最近ここらで薬品のようなものが混じった異臭がすると通報がありましてね、よろしければ中を調べさせていただけませんか?」


 騎士団の一人が代表して博士にそう告げる。


(これは、やってしまいましたかね……)


 博士はそう思いながらも口を開く。


「私は医療に携わる者でですね、当然薬品の臭いはしてしまうでしょう、危険な薬品は取り扱ってありませんので、どうぞお帰りください」

「それを信用しろと?」

「と言われましても、こちらも貴重な薬品を関係者以外に見せたくは無いのです。付け狙われると困るのでねぇ」

「我々は騎士団だぞ」

「そう言われましても……」

「でないと力ずくで確認させて貰うぞ」

「……分かりました、どうぞ」


 話し合いで解決したいと思っていた博士だったが、騎士が中々引き下がらないため観念し、中へ入ることを許可した。


「感謝する」


 騎士団の者は警戒しつつも、博士の建物へ入る。



    ◇



「……これは酷い臭いだな」


 家に入るや否や、先ほど博士とやり取りをした者、ロナール領騎士団長のアバートはそう思った。


(明らかに普通じゃない)


 彼はそう思いながらも顔に出さないよう、屋内の調査を続ける。




「ふむ、この薬品も治療薬と同じものか」


 しばらく騎士団は建物内の調査を続けていたが、禁止されている薬品などは見つからずいたって普通であった。そのことにアバートは驚いていた。


「そろそろ良いでしょう、私も暇じゃないのです」


 いつまでも調査するアバート達に痺れを切らした博士はそう言う。


「すみません、この臭いがどこから出ているのかを確かめないといけなくてですね」

「それは単純にここにある薬品の臭いが混ざったものなのではないのですかね? それに周辺の臭いはここからの臭いとは限らないでしょう」

「いえ、ここからの臭いです」

「そのような証拠は?」


 しばらくそう口論する二人。


「博士殿ぉ! あの小娘を使えば新たな検証ができるかもしれませんぞ!」


 しかしそんな時、隠し扉からそう言って一人の研究者が現れた。


「……」


 アバートは隠し扉に目をやる。その時彼の目に地下への階段が映った。


「貴方なに余計なことをしているんですか!」


 博士はそう言って研究者に怒鳴り散らかす。


「ほう、地下室か……では地下へ案内して貰おうか」


 アバートはその様子を見て、不敵に笑い、博士へそう告げる。


「嫌だと言ったらどうです?」

「力ずくだな」

「……」


 アバートは勝ち誇った顔を、博士は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「チッ!」


 博士は諦め、地下へと走っていく。


「待て!」


 それを見て、アバート率いる騎士団は彼を追いかける。


「皆さん、キメラを放ってください! 小娘を連れて逃げますよ!」


 階段を降り、研究員にそう告げる博士。


 キメラ。

 博士は作った複合生命体にそう名付けた。キメラは様々な生き物が融合しており、様々な能力を兼ね備えている。個体によって姿形が異なり、様々な生き物の部位が組み合わさっているため、その姿はほとんどが醜悪で異質さを醸し出している。


「わ、わかりました……!」


 研究員らは博士の言葉を受けて、次々とキメラが漬かっている培養液のガラスを破壊していく。


「皆さん裏通路へ! あの小娘を死守してください!」

「っ、なんだこの強烈な臭いは……!」


 博士と研究員は次々と地下部屋の奥へと逃げていく。

 騎士団は追いかけて地下へ行くも、薬品と血生臭さが混じった異臭に思わず足を止める。騎士団の中にはあまりの異臭に気絶する者すらいた。


「待て! っ……なんだこいつら」


 アバートは博士を追いかけようとしたところをキメラの攻撃によって阻まれることとなる。彼はキメラの醜悪な姿に驚きながらも冷静に剣を抜いて、キメラの攻撃を受け止める。


「邪魔、だ!」


 剣でキメラを弾き、横凪に切り裂く。


「ギュエェェ!」


 そんな耳障りな鳴き声と共に、キメラは崩れ落ちる。


「お前ら気絶しているやつを起こせ、それと数人は応援を呼んでこい、急ぎだ!」

「は、はっ!」

「団長! 後ろ!」

「ッ……!」


 団員の言葉によって、アバートは咄嗟に振り返る。するとそこには先程斬り伏せたはずのキメラが立っており、アバートに嚙みつこうと迫っていた。


「こいつ、さっき斬ったはず……」


 アバートは驚きながらもキメラの首を刎ねることに成功する。


「息絶えた、のか?」


 首を刎ねたキメラが動かなくなったことを確認したアバートは周囲を確認する。


「団長! こいつら斬っても斬っても体が再生していきます!」


 周囲では、騎士団員がキメラに苦戦していた。


「再生……だからあいつは俺の後ろに立っていたわけか、だが奴は首を刎ねた直後に動かなくなった……なるほど恐らく弱点は首か。皆、聞け! この化け物どもは身体を再生させる! 首を刎ねろ! 恐らくそれで息絶える!」


 アバートはしばらく思案した後、キメラの弱点を見つけ出し、それを団員らへ告げる。


「ほ、本当だ……」

「俺はやつらを追う! ここは任せた!」


 弱点見つけたことで騎士団は善戦し始める。それを見たアバートはこの場を団員へ任せ、博士らが逃げた方へ走り出す。

【あとがき】


 クロハが居たら食料問題はどうにかなりそうですね。

 あ、でもクロハも空腹を感じてお腹をすかせるから、クロハ用の食料は必要かな。


 黒葉

「うわぁ」

 ぬい葉

「あ、いや。再生する時に血液とか栄養もその部位に一緒に作られるから、多分クロハ用の食料はいらないね」


 もしそうじゃなくてもクロハに自分の体を食べさせれば良いというね、隷属の首輪があれば拒否っても無理矢理に食べさせることできるし、超再生の天賦に制限や消費するものは無いから永久期間の完成だね。


 黒葉

「うわぁ」

 ぬい葉

「ちなみに君はどうなのかな?」

 黒葉

「え、私?……え、いやちょっ、こっちにこないで!ぎゃあああ!」


 っと、茶番は置いといて。

 この話のクロハのところちょっとグロいですね、大丈夫かな?


 まあ大丈夫でしょう、今回のあとがきはクロハの超再生で食料事情に革命が起きたという話でした。


 黒葉

「いかれてやがります」

 ぬい葉

「これも必要な犠牲なんだ」


 なんか私がヤバイやつみたいになってますね。ソンナコトナイヨ。悪いのは世界。


 黒葉

「その世界を作っているのがあなたじゃないの?」

 ぬい葉

「はて? な、何のことやら……」

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