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その先は朱か黒か……  作者: ぬい葉
一章:地獄へと
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第1話:平穏

 これはクロハという少女の救われないお話。




    ◇




 アズラ王国というアストラ大陸で最も広い国土を誇る国、その北東に位置するオダール伯爵領の端くれにある、森に囲まれた自然豊かな小さな村、ヴァエール。その村で毎日、クロハは両親や村の手伝いをしながら元気に過ごしていた。


「お父さん、お母さんおはよう!」

「ああ、クロハおはよう」

「起きたのね、おはよう」


 この日もクロハはいつも通りに起き、朝食を食べる。


「イリナ、俺は村の見回りに行ってくる」

「了解よ、気を付けてねアレクス」


 イリナはクロハの母、アレクスは父である。


 アレクスは茶髪で茶眼。冒険者であり体格がよく、ヴァエール村一強い者だ。


 イリナは薄紅色の髪をしており、その髪を肩まで伸ばしている、瞳の色は金色で、明るい性格をしていて村の人々から良く好かれている。

 クロハや村の人と一緒に農作物を育てており、一部を他の街などに出荷している。


「じゃあクロハ、身支度しましょうか。歯を磨いて顔も洗ったら寝癖を直しましょう」

「はーい!」


 朝食を食べ終わったクロハはイリナにそう言われ身支度を始めた。




「相変わらず触り心地の良い髪ね~」


 イリナはそう言いながらクロハの髪をとく。


 クロハは世界的にも珍しいといわれる漆黒の髪を背中まで伸ばしている。彼女の髪はサラサラとした髪質で、イリナはこの髪を気に入っていた。

 瞳の色も黒色なので、性格が暗そうに見えるが、本人は物凄く明るい性格をしており、その明るい性格のおかげかクロハは村の人達からもよく可愛がられていたりする。


「終わったわよ、さぁ畑に行きましょうか」

「うん!」


 イリナはクロハの髪を一つに結び、彼女に畑に行こうと告げる。それに対して彼女は喜んで返事をし、イリナに付いていった。



    ◇



「クロハちゃん、すまないが木の実を採ってきてくれないかい?」


 クロハはしばらく畑で水やりや雑草抜きなどをしていると、ある村の老人からそう頼まれた。


「分かりました! いつもの実で良いですか?」


 クロハは喜んで承諾し、そう言葉を返す。

 彼女はよく村の人の手伝いをしており、この老人からの木の実採取の頼みもよく受けている。


「ああ、いつもので頼むね」

「了解です!」

「毎度毎度、申し訳ないね」

「いえ、むしろ役に立てるなら嬉しいです!」

「しっかりしてて良い子だね、ありがとう」


 そんな会話をした後、彼女は木の実採取の準備のために一旦家に戻る。


「お母さん、村の人の頼みで木の実採ってくるねー!」

「分かったわ、あまり遠くへは行かないようにね~!」

「はーい! 行ってきます!」


 家のどこかにいるであろうイリナに大声でそう告げ、彼女からの許可を貰ったクロハは籠を持って老人の求める木の実が生っている場所へ向かう。



    ◇



「あ、そうだった、今年はあんまり出来てないんだった」


 彼女はいつも木の実を採っている場所に来た、しかし木には少ししか実が生っていない。

 そう、今年は不作なのだ。前回採りに行ったときにそのことを確認していたクロハだが、彼女はそれをすっかり忘れていた。


(少し遠くに行けばまだ採ってない実があるかな?……あまり遠くに行かないように、って言われたけどもう迷子にならないし、少しぐらい良いよね)


 そこでクロハはそう考え、村から少し離れたところまで採りに行くことにした。




「良かった、ちゃんとある」


 彼女の考えたとおり、村から少し離れたところにはまだ沢山の実が残っていた。


「うん、これぐらいでいいかな? そろそろ帰ろう」


 彼女はその場所で、持っている籠がいっぱいになるまで木の実を採り、帰ることにした。


 するとその時。


「ちょっといいかな?」


 そう、クロハに声を掛ける人物がいた。

 彼女は振り返る。

 するとそこにはそこそこの大きさのバックパックを背負っている、赤髪の若い男がいた。


「なにか用ですか?」


 男にそう問いかけるクロハ。


「ごめん、ちょっと困っててさ。ここら辺に村や集落はあるかな? あるなら是非案内して欲しいんだけど」


 男は困ったような笑顔を浮かべながら彼女にそう返す。


「村なら私の住んでいる村があります、私もこれから戻るところなので喜んで案内します!」


 男の言葉を聞いたクロハは迷い無く自身が住んでいる村、ヴァエール村に案内することにした。

 彼女は困っている者を放っておけない、という優しい性格であった。


 そのため、この過ちを犯してしまった。


「ありがとう、じゃあ頼むね。君名前は? 何歳? まだ幼く見えるけど」

「私はクロハ九歳です! おじさんは?」

「うっ、まだおじさんって歳じゃないんだけど……まあいいや、僕はオミナス、商人をやっている者だ」

「オミナスさん商人なんですね! だからそんなに大きい鞄を背負ってるんですね!」

「ああ、そうだとも」


 そうしてクロハはオミナスと名乗る男と雑談をしながら村へ向かって歩いていく。




「あ、村が見えてきましたよ、もう少しですね!」

「クロハちゃんは元気だね~、その真っ黒な髪も綺麗だし珍しい……そして何より容姿端麗……フフッ」

「ど、どうしたんですか急に」


 後半の言葉は聞き取れていなかったクロハだったが、オミナスの不気味な笑みに少し引いていた。


「おっとすまなかったね、変な笑いが出てしまった」

「いえ、笑い方は人それぞれなので!」

「クロハちゃんは優しいね」 


 そんな話をしながら二人は無事村に着く。

 村に着いてすぐにオミナスは村を回ると言い、どこかへ行った。


「~♪」


 そしてクロハは些細なことだが人助けができたと思い、上機嫌で老人に木の実を渡し、家へ戻る。


 彼女はその後も変わらない日常を過ごして一日を終えた。



 彼女はこの平穏な日常が明日も変わらず続くと信じて疑わなかった。

【あとがき】


『その先は朱か黒か……』

 読み方「そのさきはあかかくろか」


 これからは『朱黒』と略します。

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