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第8話 お忍びデート

(どうしよう…)


リリーは、困り果てていた。ジークの手紙の返事を書いたはいいものの、それを持っていく手段が思い浮かばなかった。またこっそり町に繰り出すのも、彼にバレたらキツいお仕置きが待っている、と思うと実行に移すことができない。


(もう仕方ない、こうなったら正面からいくしかないわ)


手紙を握りしめ、決意を露わにしたリリーは、魔王のいる執務室へと向かった。


「どうしたの?リリーの方から来るなんて珍しいね」


彼は、驚きつつも嬉しそうな様子でリリーを出迎えた。


「ええ、少しお願いしたいことがあって…」


「おねだり?もしかして…欲しくなっちゃったの?」


彼の言葉にリリーは頬を染め、慌てて否定した。


「ち、違うわ!まだ真昼間なのに…」


「何が、とは言ってないのに、リリーは何を想像してるの?リリーは本当にいやらしい子だね」


彼は意地悪な顔でリリーを責め立てた。彼女はあまりの恥ずかしさに俯いてしまった。


「おいで、リリー」


彼は促されるままに近くに来たリリーを抱き上げると、まるでぬいぐるみか何かのように膝の上に乗せた。


「で、お願いってなに?」


「…ま、まって、恥ずかしいわ、もし誰かに見られたら…」


リリーは熟れたリンゴのように顔を真っ赤に染め、彼の腕から抜け出そうとしている。


「大丈夫だから大人しくして、リリー」


「ぅう…でも…」


「本当に誰か呼んじゃうよ?」


今にも呼び鈴を鳴らしそうな彼の様子を見て、リリーはついにおとなしくなった。


「…あのね、私、また外に出たいの。この間、美味しそうなお菓子が売ってるお店見つけたし、最近、お城に引きこもってばかりだから…」


「わかった」


「あ、でも、あなたは忙しそうだし、私一人で…」


「ちょっと待っててね、リリー」


彼はおもむろに机の上にある書類を手に取り、睨みつけると、何やら箱のような物に手を伸ばし、喋りかけた。


「…もしもし?今日の会議は中止だ。…理由?急用ができた。…じゃあ、よろしくね」


「今の、なに?誰かと喋ってた…それとも、ひとりごとかしら」


リリーは彼の取った一連の行動を目を丸くしてみていた。


「違う、ひとりごとじゃない。これはね、マグテレフォンっていう魔道具で、遠くにいる人と会話ができるんだよ」


「へえ、すごいわ!」


リリーはキラキラした瞳でマグテレフォンなる魔道具を見つめていた。彼はそんな彼女を再び抱き抱えると、何やら不埒な動きを始めた。お腹に回していた手は徐々に上の方にいき、服の上から形を確かめるようにリリーの慎ましい胸に触れ…


「ちょっと、どこ触ってるのよ!」


思わず手を払い除けたリリー。


「あとで城の外に連れて行ってあげるからさ、その前にちょっとリリーを味見させて」


「私は食べ物じゃないわ!」


しばらくキーキー騒いでいたリリーだったが、無事美味しく頂かれてしまった。


---


「可愛いよ、リリー」


桃色のワンピースを着た町娘風のリリーの姿を見た彼は、思わず見惚れていた。


「…そう?ありがとう」


リリーもどこか恥ずかしそうに、でも嬉しそうな様子だ。彼はそんなリリーに近付くと、彼女の髪の毛に触れた。途端、輝くばかりの金糸の髪はあっという間に暗い焦げ茶色の髪に変化した。


「え!?髪の毛の色が…!どうなってるの!?」


自身の頭髪に起きた変化に驚き、ペタペタと触るリリー。


「髪の毛の色を変える魔法。実際は、違う色に見せかけるだけだから本当に色が変わってるわけじゃないし、そんなに長く持たない」


「へぇ、そうなのね。便利な魔法ね」


「うん。リリーの髪の色はとても綺麗だけど、この国だと少し目立つから」


「それもそうね」


「あと、これ」


彼は薄い桃色のスカーフを手に取ると、リリーの頭にゆるく巻き付けた。


こうして、二人は城下に降り立ち、お忍びデートが始まった。


(どうしよう…何とか隙をついてこの手紙を出さないと)


リリーはジーク宛の手紙を服の中に隠し持ち、頭の中で作戦を練っていた。しかし、有効な手段は思い浮かばない。


「リリー、ここはね、古くからやっているお店が並ぶ…」


彼はこの都市について色々とリリーにレクチャーしているが、当の本人は上の空だった。


(…はぁ、どうしよう。…すんすん、何やらいい匂いが漂ってくるわ)


キョロキョロと辺りを見回すリリー。すると、いかにも美味しそうなお菓子を売っているお店があるではないか。彼女の視線は釘付けになった。


「どうしたの、リリー?」


「ねぇ、あそこ、美味しそうなお菓子が売ってるわ」


「ああ、あれはクナーファっていうチーズでできた…ケーキみたいな甘いお菓子だよ」


気付くと、リリーは吸い寄せられるようにその店に寄っていた。


「いいよ、買ってあげる」


「本当!?ありがとう〜!」


嬉しそうに彼に飛びつくリリー。彼も口角をあげ、まるで猫におやつをあげる飼い主のような表情をしていた。


(はっ!まだ問題は解決してないのに…って、あれ、投函箱じゃないかしら?)


ふと周囲を見渡したリリーは、偶然にも投函箱を見つけることができた!しかし、隣には魔王様がいるため、下手に身動きが取れない。


(どうすれば…あ、今のうちに!)


結局、彼が会計して目を離している隙にその場を離れ、素早くポストに投函した。


「あれ、リリー、どこに行ってたの?」


「え?あ、ああ、ちょっと、珍しい虫を見つけて…追いかけてたら…」


「リリーは虫苦手じゃなかった?」


「あ、そ、そうだけど…」


「ふーん。まあいいや」


明らかに怪しい様子のリリーだったが、彼は華麗にスルーした。


「あ、あそこにキラキラした石が売ってるわ!」


「どれ?」


まるで話題を誤魔化すかのように、リリーは咄嗟に見つけたアクセサリーを売ってる露店に目をつけた。


「すごい、色々な色の石があるわ」


そこには、緑や青、赤やピンクなど、色とりどりの石がついたアクセサリーが並べられていた。


「これはね、魔石のアクセサリーだよ」


「魔石?あの魔物から取れるやつ?」


「そうだよ。魔石に魔力を込めると、色々な使い方ができる。例えば…位置情報を追跡したり」


「すごいわ、便利なのね」


「リリーにも買ってあげるよ」


「え、いいの!?」


一瞬不穏な笑みを浮かべた彼は、数ある宝飾品の中からリリーの瞳と同じ色のピアスをプレゼントした。一体、何を企んでいるのか…


「ありがとう、とても綺麗ね。一生大事にするわ」


幸せそうな表情をしているリリーの耳には、彼につけてもらったピアスが輝いていた。


それから、二人は最近流行っているという庶民の食べ物を食べたり、人気のスイーツを食べたりして町を大いに楽しんだ。


「ねぇ、ずっと気になってたんだけど…あの高い建物って、なに?」


リリーは、町の中心部にそびえ立つ塔のような立派な建物を指し示した。


「あれは見張り台だよ。その昔、まだこの国が内戦状態だった時に、敵の侵入を確認するために使われてた建物なんだ。今は平和な世の中になったから観光名所と化してるけど」


「じゃあ、入れるの?」


「うん」


リリーの強い要望で二人は塔に登ることにした。かなり急な階段だったため、最上階に着いた時には息切れしていたが、そこから見える絶景に疲れなど吹き飛んでしまった。ちなみに彼は息一つ乱していなかったが。


「すごいわ、町全体がよく見えるのね」


眼下には家や建物が立ち並び、遠くの方にはうっすら海が見える。反対側には果てしない砂漠が広がっている。


「昔は、ここから敵が来ないか監視していたのね。でも今は、そんな面影も感じさせないくらいにとても平和ね」


実際、見張り台付近は緊張した様子もなく、観光客らしき人の姿がちらほらと見える。


「そうだね。昔は…前の魔王が勇者に倒されてからは、ひどい状態だった。統制する者もなく、違う種族…時には同じ種族でさえ争って、町は破壊されて、多くの者が路頭に迷った」


「そう。…勇者が魔王を倒した後、魔王側の国がどうなるかなんて考えたこともなかったわ…」


「まあ、普通勝つ方は負けた側がどうなるかなんて考えないよ」


リリーは、何て言ったらいいのかわからなかった。魔王は、悪。魔王を倒す勇者は、正義。そんな価値観が、揺らぎつつあった。


「それで、その後、どうなったの?あなたが魔王になったのよね?」


「結果的には。俺は魔王になりたくてなったわけじゃない。ただ、力があったから振るった結果、そうなった。それでこの国を平和にできるならと、受け入れた。それだけだよ」


「魔王が平和主義者なんて、信じられないわ…」


だが、彼の目は確かに、平和な町の方に向いていた。


「争いはもう十分。実際、ここ数十年間は大きな争いもなく、安定してる」


「そうなのね。平和になってよかったわ」


「あ、でも、そうでもないかな。ついこの間も襲撃されたばかりだし」


「え、そうなの!?」


衝撃の事実に動揺が走ったリリーだったが、彼の方は深刻そうな様子もなく、なぜかずっとリリーの方を見つめていた。


「うん。王国から来たという金髪の天使…みたいな可愛い勇者に襲われてね」


咄嗟に目線を逸らすリリー。


「あまりに可愛いから、そのまま城に閉じ込めちゃったけど」


可愛いを連呼され、彼女は熟れたりんごのようにほおを染めた。


「ねぇ、私、いつ王国に帰れるの?」


きっと、何気なく聞いたのだろう。しかし、彼の顔からは表情が抜け落ちた。


「どうしてそんなことを聞くの?リリーは、王国に帰りたいの?…今の暮らしに何か不満が?」


「違うわ…ただ、少し、恋しくなったの」


そう語る彼女の目は、砂漠の遥か向こうにある王国の方を向いていた。


「リリー…ごめんね。王国に、帰すことは…帰って、ほしくない。そんなに王国を愛してるなら、王国を滅ぼす。帰る場所が無くなれば、もう帰りたいなんて言わないでずっと一緒にいてくれるよね?」


彼の目からはハイライトが消え、仄暗い雰囲気が漂っていた。


「まって、もう、王国に帰るなんて言わないから…ずっと一緒にいるから、そんなことやめてちょうだい」


「ふふ、冗談だよリリー。リリーが悲しむことはしないよ。でも、ずっと一緒にいてくれるなんて、嬉しい」


慌てふためくリリーに対し、彼の方は軽く笑った。しかし、目は全く笑っていなかった。


「あなたが望むなら…でも、どうして?どうして、そこまで私に執着するの?…女なら他にもたくさんいるわ」


ずっと引っかかっていたこと。ただの人間の小娘に過ぎないリリーをなぜ、彼は手放したがらないのか。リリーは、ついに聞いてしまった。


「リリーが、必要だから。他の女なんていらない」


「それは、私と…寝たい、から?」


彼女は悲しそうに眉を落とした。


「違う!それは違うよ、リリー。俺は…リリーが、好きだから」


彼は今までにないほど真剣な眼差しだった。


「…え?」


「リリー、愛してる」


彼は桜色をしたリリーの唇に、そっと自身の唇を重ねた。ただ触れるだけの口付け。しかし、リリーは今までにないほど胸が高鳴るのを感じた。


そこからどうやって塔をおり、城に帰ってきたのか、リリーは全く記憶になかった。ただ、彼の言葉がずっと頭の中に残り、それに振り回されることとなった。

これも成人用を…ry


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