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最終話 

続けてエピローグを投稿して完結です。

最後までお付き合いください!

リリアーベルを乗せた馬車はクラウン王国を出発し、魔王の国へと向かった。ちなみに魔王本人は仕事がある、と言うことで、あのパーティーの後に速やかに帰国している。

道中何事もなく、出てきた魔物もアイシャが音も無く退治し、一行は魔王城に無事、辿り着いた。


「すごい、これが魔王城…」


そびえ立つ塔に、白亜の建物。砂漠の中に突如現れたような荘厳な城に、ミナは言葉を失った。


「初めてです、こんな立派なお城…」


「私も初めて正面から入ったわ」


リリーは感慨深そうにお城を見上げていた。見慣れた城だったが、確かに、正面から正々堂々と入城するのは初めてだったりする。初めて魔王城に来た時は隠し通路から忍び込んだし、その後、お忍びで町に行く時なんかは裏口から出入りしていた。


「おかえり、リリー」


城に着いたリリーを、バシャールが笑顔で出迎えた。


「ただいま」


リリーも破顔し、彼の方に駆け寄った。まるで、長い時を経て再会したかのように、二人は抱き合った。ミナは思わずアイシャの方を振り向き、アイシャは静かに頷いた。


(リリアーベル様は本当に…。よかった)


二人から溢れる幸せな雰囲気を感じ取ったミナは、あとでモナに手紙を書こうとそっと決意した。そう、モナはやはり家族のことがあり、魔王城には来られなかったのだ。


「リリー、新しい部屋に案内するよ」


「新しい部屋?」


「うん」


バシャールは新しく妃になるリリーのために部屋を用意していた。高価な調度品の数々、天蓋つきの大きなベッドなどは以前与えられていた部屋とは大きく変わらなかったが、変わったことといえば、新たに衣装部屋が設けられていた。加えて、本棚が設置されていた。


「たくさん本があるわ。とても興味深いけど、読めるかしら…」


おそらく、古い言語で書かれているのだろう、見慣れない文字で書かれているタイトルが並んでいた。


「大丈夫、俺が教えるよ。でも、これはただの本棚じゃない」


「え?」


彼がとある本に触れると、扉がクルクルと回転し、別の部屋に繋がった。


「すごいわ…!どうなっているのかしら、これも魔法で?」


隠し扉に目を輝かせるリリー。


「違う、簡単な仕掛けだよ。リリーも使えるように」


「そう。でも、どこの部屋に繋がっているの?」


「俺の部屋」


「え」


リリーの顔が固まった。


「これでいつでも行き来できるね」


彼は満面の笑みでリリーの尻に触れ、彼女の耳が真っ赤に染まった。


---


「本当に、私でよかったの?」


夜も更けた頃。月明かりが部屋を照らす中、リリーはふと思いついたように聞いた。


「それはどういう意味?」


バシャールは眉を顰めた。


「前に言ってたじゃない、私たちは種族が違うから妊娠し辛いって。でもあなたは王なのだし、世継ぎが必要なはずよ。もしできなかったら…他の妃を迎えても、私は」

「リリー」


続く言葉を彼が巻き取った。


「前も言ったけど、俺はリリー以外を妃に迎えるつもりはない。それに、世継ぎだって必要ない。後継者は部下の中から優秀な者を選ぶ。人間の王国みたいに、必ずしも血縁にこだわっているわけではないからね。重要なのは、国を安定させることだから」


実際、バシャールは前の魔王と何ら血の繋がりはない。魔物が闊歩する世界で最も重視されるのは、血縁でも家柄でもなく、強さなのだ。


「そう。クラウン王国とは違うのね。私、この国のこと、もっとよく知りたいわ」


リリーはいつに無く真剣な眼差しで言葉を紡いだ。


「あなたの唯一の妃として、この国を支えたい」


バシャールは、感激したように目を瞬いた。


「リリー、手を貸して」


「ええ」


彼女が訳もわからず手を差し出し、その手を彼が包み込んだ、その瞬間。


2人は、広大な砂漠の、ど真ん中にいた。空には満天の星が輝いている。


「…え?」


リリーはその人形のように大きな瞳をパチクリさせ、驚いている。


「ど、どういうこと?私たち、さっきまでお城の中にいたのに」


「高度な移動魔法だよ。あまり距離が空いてると使えないけど、近くならいける。ここは、魔王城から少し離れた砂漠の中だよ」


「すごいわ、私、初めて来たわ」


延々に続く砂丘を眺めながら、彼女は興奮気味に答えた。


「砂漠は強い魔物がいるから普段は危ないけど…今は結界を張ってるから大丈夫」


「そうなのね」


実際、結界の外では魔物が闊歩している。厳しい気候に、強い魔物。住むには厳しすぎる環境に定住している人はいないが、たまに迷宮を探索しに冒険者がやってくることもある。


「とても綺麗ね」


満点の星空を眺めながらうっとりとリリーは呟いた。砂の中を少しづつ歩いていく。ひんやりとした砂の感覚を素足で味わうように。


「この国には、綺麗な場所がもっとたくさんある」


「連れて行ってくれるの?」


リリーが彼の方を振り返って聞いた。


「もちろん。これからはどこへ行ってもリリーを連れて行く。ずっと一緒だよ」


「ええ、側に居させて」


「もう、逃さないからね」


彼がボソッと呟いた言葉に、リリーは笑って返した。


「私は逃げないわ」


「本当?」


彼が訝しげに眉を顰めた。


「ええ」


「俺、割とトラウマなんだけど。魔物倒し終わって、リリーと会うために早く城に帰ったのに、リリーいないどころかアイシャもいない。置き手紙もなし。どこに行ったのかもわからない」


リリーは気まずそうに目を伏せた。


「ごめんなさい。その、あまり説明する余裕がなくて…そうね、手紙を書いておくべきだったわ。次は…」


「次!?」


彼は軽く激昂した。


「次なんてないから」


そう呟く彼の瞳は暗く、光がなかった。


「大丈夫よ、もう勝手にいなくなったりなんかしないわ」


「本当に?」


「本当よ」


彼はまだ疑っているかのような目でリリーを見ている。


「もし、またリリーがいなくなったら、今度はどうなるかわからない。俺にはリリーが必要、リリーがいない人生なんて考えられない」


「私もバシャールが必要よ。あなたこそ、将来私に飽きたり、処刑したり、捨てたりしない?」


「しょ、処刑!?」


リリーから出たあまりに衝撃的な言葉に彼は反応した。


「ええ。過去にそういう王様がいたのよ。妃に飽きて、新しく若い妃を迎えるために処刑してしまったの」


「人間の王国はなんて野蛮なんだ…」


魔王すら驚く事実だった。


「俺はリリーが好きだ。飽きたりなんてしないし、この先、何があっても絶対リリーを守る」


彼はしっかりと、リリーの目を見て宣言した。


「だから、これからもずっと、一緒にいて欲しい」


「もちろんよ」


優しく微笑んだリリーを、彼は思わず抱きしめた。彼女もそれに答えるように抱きしめ返し、どちらからともなく、二人は唇を重ね合わせた。


「愛してるわ、バシャール」


リリアーベルの、心からの愛がこもった言葉は、月光に照らされた砂漠の中の、果てしない地平線へ消えていった。

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