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第17話 魔王との再会

アイシャが、突然、いなくなった。


「ミナ、モナ、何か聞いてない?」


焦燥感を浮かべたリリアーベルは、侍女たちに問うた。しかし、彼女たちは首を横に振った。


「ルーもいつの間にかいなくなっていたわ。何かあったのかしら…?心配だわ」


しかし、意外なところからアイシャの情報が入った。ジーク曰く、ある日突然リリアーベル様の護衛は任せた、と言われ、どういうことかと理由を問う間もなく走り去っていったらしい。


「そんな…もう、帰ったってことなのかしら?魔王城に」


「そうに違いありません、リリアーベル様。彼女はあくまで魔族であいつの…魔王の配下ですから」


ジークの言葉に、リリーは反論できなかった。アイシャはよく仕えてくれた。しかし、それもここ半年ほどの話だ。それよりもはるかに長い時間、彼女は魔王に仕えていた。


「ご安心ください、リリアーベル様。これからは…いや、これからも僕が護衛騎士としての役目を果たします」


「ジーク…ありがとう、心強いわ」


アイシャがいなくなった今、もはや戦力的に頼れるのはジークだけだった。


---


「おかしい、リリアーベル様が…大好きなスコーンを召し上がらないなんて…」


ミナはスコーンが入ったトレイを持ちながら部屋の外で呆然としていた。


「そういえばこの間もお夕食を残していらした気が…」


モナが心配そうに付け加えた。実際、ここ数日、リリアーベルの顔色は悪かった。さらに食欲もない。


「アイシャがいなくなってから…そうだよね?」


「うん」


モナの指摘にミナは同意した。彼女がいなくなってからリリアーベルは塞ぎ込むことが多くなり、部屋からも出てこなくなった。しかし婚約発表の準備は着々と進んでいる。衣装も完成し、あとはもう当日を迎えるのみだ。


リリアーベルのあまりに憔悴した様子に2人は心配を募らせた。しかし、実際何ができるでもなく、時は非情に過ぎていった。


夜、リリーはよく眠れず、自室の窓から外を眺めていた。


(結局、アイシャは戻って来ないし連絡すらもないままだわ…。私、明日にはもう…あの人の婚約者になるのね)


そう、明日にはもう、婚約発表を行う予定のパーティーを控えていた。春の訪れを感じる夜風を浴びながら、リリーはふと、窓の外で何かが動いているのを見た。


(もしかして、アイシャが…?いいえ、そんなわけないわ)


彼女は一瞬浮かんだ希望をすぐさま打ち消した。王宮に戻ってきてから今まで良いことなど一つもなかった。もちろん、ミナやモナ、ジークと再会できたのは嬉しかったが、状況は悪くなるばかりだった。一応、戦争を止めるという目的は果たしたかのように思えるが、代わりに望まない結婚を強いられ、さらにアイシャまでもがいなくなった。彼女は唯一魔王との繋がりがあった人物だ。彼女を失ったことにより、完全に魔王や魔王城とのコネクションが無くなってしまった。魔王城で過ごした日々のことを思い出し、リリーはチクリと胸が痛むのを感じた。今まで気が付かないようにしてきた、小さな穴が確かに存在することを感じた。でも、その穴は閉じなくてはいけない。どんどん広がる前に。

そろそろベッドに戻ろうかと、窓を閉め、部屋の中に視線を向けた瞬間。リリーは叫びそうになり、すんでのところで手を口に当てて飲み込んだ。


「バシャール…!どうして、ここに…?」


そこには、旅装束に身を包んだ、いるはずのない魔王がいた。


「リリーを迎えにきた」


まるで、囚われの姫を救いにきた王子様のようだ。まあ、王子ではなく、魔王なのだが。


「私を迎えに王国まで…?だめよ、危険すぎるわ、すぐに帰って」


リリーはチラチラと扉の方を気にしながら言った。


「せっかく来たのにもう帰れって」


「だって、もし誰かに見られたら…」


「何か問題でも?」


「問題大有りよ!宮殿に魔王が現れたなんて…パニックになるわ。それに…私の部屋に他の男がいることが問題なのよ」


「どういうこと?」


リリーは言いづらそうに、しかしはっきりと言った。


「私が…イワン皇太子の、婚約者だから」


「…は?」


一瞬、時が止まった。彼の顔から表情が抜け落ちた。


「リリー、問い詰めたいことがたくさんあるけど…とりあえず、一つだけ答えてくれる?どうして、城を抜け出した?それも俺がいない間に」


「それは…」


彼女は俯き、唇を結んだ。言葉を紡ごうとしているが、納得のいく言葉が思い浮かばず、口は閉じたままだ。


「答えたくないんだね。じゃあ、仕方ない。実力行使するしかないね」


「待って、ちが…」


「リリー、ベッドに上がってガウンを脱いで」


服従の呪文。咄嗟に、リリーは思い出した。魔力など感じる術はなかったが、何か抵抗できないものに引っ張られるように、彼女はよろよろとベッドの方に向かい、自らナイトガウンの紐を解いた。


「さっき誰かの婚約者になるって言ってたよね?なのに他の男の前で脱ごうとするなんて」


「あなたが魔法でそうさせたんでしょう」


リリーは彼を睨みつけた。


「前も言ったけど、この魔法は本人の意思に反して強要できない。つまり、リリーは嫌がってないってこと」


「ええ、そうよ。私が嫌なのはイワン王子との婚約だけ」


「じゃあ、どうして…?」


「どこから説明すればいいのかしら…」


リリーが城を抜け出して王国に戻り、イワン王子との婚約を結ばざるを得なくなった経緯。全てを説明するには、まずジークとこっそり文通していた事実から話さなければならない。しかし、そんなことを話したらきっと彼は…


「ジークとコソコソ連絡を取り合っていたことから?」


彼の鋭い指摘にリリーは動揺した。


「ど、どうしてそれを…!?」


「やっぱりね。確信は無かったけど、タイミング的にそうかなと思ってた。俺がいない間にアイシャと共に王国に帰った理由…それは、王国が何かきな臭い動きをしていたことと無関係じゃない、そうでしょ?」


「その通りよ。ジークを通じて王国が戦争を起こそうとしてるって知って、それで戦争を止めに帰ったの。アイシャには反対されたけど、私が無理を言って一緒に来てもらって…守ってくれたわ」


彼は急にキョロキョロと辺りを見回した。


「そういえば、アイシャは?」


リリーの顔が悲痛に染まった。


「彼女は…いなくなってしまったわ」


「…は?まあいい、アイシャのことは一旦置いといて、それからどうなった?」


「それから…王様に直訴しに行ったけど、まともに取り合ってもらえなかった。代わりに、イワン皇太子に嫁げって言われて、一度は断ったけど…彼が、戦争を止めるように王様に進言してくれたの。だから、もう…」


「つまり、戦争を止めるために他所の男に嫁ぐってこと?」


「否定はしないわ」


「バカバカしい。そもそも王様は確かリリーの叔父だよね?なんで姪より他所の国の皇太子の言うことを優先するんだ?」


「知らないわ。前も言ったけど、私はあの人にとって邪魔な存在なの。よそに嫁いで王国からいなくなった方が都合がいいのよ」


「胸糞悪い。それで、どうするの?」


「明日の晩餐会で婚約発表をする予定よ。そうなったらもう、後戻りはできないわ…」


痛いほどの沈黙が流れた。


「魔法を使って、何でも命令して。今なら何でも従うわ。明日にはもう、別の人の婚約者になるから…今日だけは」


リリーの瞳には確かに情熱の炎が浮かんでいた。


「それ、魔法を使う意味ないけど…いいんだね?好きにしちゃうよ?」


「ええ」


その言葉が合図となり、彼はリリーのはだけていたガウンを完全に剥ぎ取った。そこからは、城で過ごしていた時のように、肌を重ね合わせた。


「好きよ、バシャール。愛してるわ。…やっぱり、イワン王子になんて嫁ぎたくない」


「未だにその男に嫁ぐ気でいたの?」


「だって、そうしないと…戦争が」


「そんなの問題ない。魔王軍が本気を出せば王国なんて…」


「だめよ、そしたら王国が滅んでしまうわ。私にとっては王国も、あなたの国も、両方大切なのよ」


「リリー…」


コンコン。その時、ノックの音がリリーの居室に響き渡った。咄嗟に青ざめるリリー。


「まずいわ、きっとミナかジー…」

「リリアーベル様、アイシャです」


想像しなかった人物に、リリーは思わず口を手で覆った。


「アイシャ…!戻ってきてくれたのね!でもちょっと待って、今は…」


「問題ない、入れ」


慌てて服を探すリリーを尻目に、彼は勝手に入室許可を出した。


「失礼します。魔王様、なぜここに?」


シーツを体に巻きつけたリリーを見てもアイシャは顔色一つ変えず、当然の疑問を口にした。なぜなら、そこにはいるはずのない彼女の上司がいたのだから。


「アイシャこそどこへ行ってた?」


彼女は分厚いコートに身を包んでおり、毛皮の帽子を被っていた。


「少しルースカー王国へ」


「え、ルースカー王国!?」


リリーが声を上げた。


「はい。少し気になる情報を手に入れたので調査しに行っていました」


「アイシャ、俺はお前にリリアーベルを守るようにと命令したはずだが、その調査とやらはそれよりも大事なことだったのか?」


「イワン皇太子と、彼が必死に隠していたルースカー王国に関するとある情報を仕入れました。それだけの価値はあるかと。それに、リリアーベル様の護衛に関してはジークに一任しています。実力だけは確かですから」


「それで、どんな情報なの?そもそもどうしていきなり…?」


リリアーベルの疑問も尤もだ。突然いなくなったかと思えば、いきなり帰ってきてルースカー王国に行っていたと言う。一体、どんな経緯で行くことになったのか。


「リリアーベル様の元を去ったあの日、宮殿の中で突然魔力を感じました」


もちろん、それは異常事態だ。人間の王国の宮殿で彼女以外に誰が魔力を使うのか。すぐさま宮殿を調査した結果、アイシャはすでに宮殿内に忍び込んでいた魔族を発見した。魔王の部下である女幹部が仕込んでいたスパイだ。そこから彼女がすでに掴んでいた情報を聞き出していくうちに、とある衝撃の事実が発覚する。そもそも、戦争の話を持ちかけたのはイワン王子からだった、と。


「そんな…!ありえないわ」


リリアーベルは思わず息を呑んだ。戦争を止めるも何も、そもそも彼が戦争を仕掛けた張本人なのか。


「ある日突然クラウン王国にやってきたイワン皇太子は、どういう手段を使ったのか王様に取り入り、戦争を持ちかけた。ところが、リリアーベル様が王国に戻ってきた途端、彼女との縁談を望み、打って変わって今度は戦争も取りやめるように働きかけた。正直、イワン皇太子の一連の動きの意味も目的もわかりません。ですが、このままだとリリアーベル様が意に沿わない婚約を強制されてしまう。だから、イワン皇太子の目的、そして弱みを握るためにルースカー王国まで行って探ってきました」


「そうだったのね…私はてっきり、城に帰ってしまったのかと思ったわ」


リリーの指摘にアイシャは申し訳なさそうな表情をした。


「いきなり旅立ってしまい、すみません。リリアーベル様の婚約まであまり時間がなかったので」


「いいのよ、気にしてないわ。それで、ルースカー王国はどうだったの?何を発見したの?」


「ルースカー王国は凍えるように寒く…薄着で行ったことを後悔しました。ルーも寒そうにして…」


「おい、天気の話はどうでもいいから簡潔に話して」


アイシャの苦労話を魔王が遮った。


「ちょっと、いいじゃない。私はアイシャの話、聞きたいわ」


リリーが彼を咎めた。


「いえ、魔王様の言う通りです。あまり時間がない、簡潔に話します。ルースカー王国の宮殿に忍び込んだ私は、そこでイワン皇太子の…第三王子から皇太子に成り上がった秘密を知りました」


部屋の中に僅かな緊張感が走った。


「第一王子は事故死、そして第二王子は病気の療養を理由に北の離宮に送られ、そこで命を落としています。死因は公式発表によると持病の悪化、だそうです」


「怪しいな」


彼が眉を顰めた。


「はい、なので宮殿中は王子たちの死因に関する噂話で持ちきりで…第二王子が病気がちだったのは事実だそうですが、命に関わるほどの病気かというとそうでもなく…第一、第二王子ともにイワン王子に暗殺されたのではないかと」


「恐ろしいわ…」


「ですがあくまで噂で、事実かどうかはわかりません。最も重要なのはルースカー王国で最近発掘された資源です」


「資源?」


「なんでも貴重な石が見つかったとか」


リリーは思わずイワンから貰ったダイヤモンドのネックレスに目を向けた。


「つまり、そういうことなのね…」


「ですが、彼は資源に関する情報をなぜか徹底的に隠していました。私もその情報に辿り着くまで随分苦労しました」


「そりゃあ、資源を巡った争いになるのを回避したかったんだろうな。もし俺の領土で資源が見つかってもそうするよ」


「なるほど…」


「つまり、資源の存在を表に出されると困るってわけね」


「だと思うよ」


「じゃあ、脅せば…」


リリアーベルらしくない発言にアイシャが動揺した。


「リリアーベル様、そんな…」

「いや、それでナントカ王子の方は対処できても王様の方はどうにもならない。そもそも資源の情報だって確証があるわけではないし、何か別の理由で隠しているのかもしれない」


彼は冷静に意見を述べた。


「確かにそうね…。でも、それじゃあどうしたら…?」


彼は改めてリリーの方に向き直った。


「リリーは明日、予定通り晩餐会に出席すればいい。あとは任せて」


「一体、何を…?」


「大丈夫。リリー、俺を信じて」


彼の真剣な眼差しにリリーは一瞬たじろいだ。でも、そこに疑う余地はなかった。リリーはただ、彼を信じることにした。


「ええ。あなたを信じるわ」


そこからどちらともなく唇を交わした。


「…んん、待って、まだアイシャがいるわ、それに…時間だってそんなにないわ」


「リリー、もう一回シたいってこと?」


「な、ち、違うわ…!」


「本当に…?」


アイシャは完全に空気と化して2人のやりとりを聞いていた。


(私のことはお構いなく…それにしても、魔王様からのお咎めがなくてよかった…さて、帰ってきたばかりだし、早速ルーに餌をやらないと)

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