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第15話 イワン皇太子との縁組

「お久しぶりでございます、陛下」


謁見の間にて、正装したリリアーベルは王様と対峙していた。


「うむ。長旅、ご苦労であったな」


彼は形式的に労いの言葉を述べた。


「して、魔王討伐の成果はどうであったか?報告せよ」


リリーは、魔王討伐に失敗したことを簡潔に述べた。王様はすでに結果を知っているため、驚きもせず、落胆もせず、どうでもよさそうに聞いていた。


「此度は残念であったな。だが、気にすることはない。また魔王を倒す機会は巡ってくるだろう」


「陛下、ご提案があります」


リリーは、覚悟を決めた瞳で真っ直ぐ王様を見つめ、訴えた。


「なんだ?」


「これからは、魔王を倒すのではなく…和平を結びましょう」


「和平、だと?」


「はい。私は魔王討伐に失敗し、本来なら処分されてもおかしくはない身でありましたが…客人として魔王城に受け入れられ、魔王様をはじめ他の魔族の方々とも交流し、言葉を交わしました。そこで、知ったのです、彼らも本当は争いなど望んでいないということを…。ですから、どうか、これからは争いではなく、和平を」


だが、リリーの必死の提案を王様は小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「ふん、魔族どもと言葉が通じるものか。お前は変な魔法で魔王に騙されているのではないか?」


「いいえ、私は魔法にかかってなど…」


「では、魔王の女にでもなったのか?」


「なっ…!」


リリーは憤慨し、ついに押し黙った。取りつく島がない、とはまさにこのことだった。


「だがまあ、平和を実現したい、というのは王女として立派な心がけだ。しかし、お前が和平を結ぶべきなのは魔王ではない、ルースカー王国のイワン皇太子だ」


「どういう、ことでしょうか?」


「適齢期などとっくに過ぎたお前だが、イワン皇太子はそれでもお前を妃に迎えてもいいと申し出てくれたのだ。ルースカー王国は大国ではないが、そう悪くはない。お前もようやく王女としての務めを果たすべき時が来た」


(イワンが、どうして…?)


リリーの顔色はどんどん悪くなっていった。


「い、今さら縁組など…。そもそも適齢期の王族はいないと聞いておりましたのに…」


「それはウソだ。今までお前に縁談がなかったのは、お前の父親が娘を手放すのを惜しがって全部断っていたからだ」


「え」


衝撃の事実が明かされた。


「病気で死ぬまでお前を側に置いておきたかったのだろう。他の娘たちは皆嫁に行ってしまったからな」


「そ、そんな…」


「だが、そんなお前もついに嫁ぐべき時が来たのだ。イワンとは知り合いなのだろう?」


「はい。数年前、彼が王国に来た時に知り合ってはいます…ですが、あまりにも急すぎて…」


「それならいいだろう。それとも、会った事もない倍以上は年の離れた王族の2番目の妃にでもなりたいか?」


「それはいやです…!」


「なら決まりだな」


王様は一方的に決めつけ、反論を許さなかった。リリーはかわいそうなくらい青ざめ、今にも気絶しそうだった。


それから、どのようにして自室のある離れに戻ったのか、リリーは全く覚えていなかった。


「は?リリアーベル様が他の男に嫁ぐ?」

「まさかイワン皇太子様のお妃に…!?」

「リリアーベル様に…縁談…!」


青ざめたリリーから事の端末を聞いた侍女たちの反応は三者三様だった。アイシャは信じられないようなものを見る目で、モナはこの世の終わりかというような表情だ。唯一ミナだけは好意的な反応だった。


「おめでとうございます、リリアーベル様。ルースカー王国は少し遠いですが…私はどこまでもお供します」


「ありがとう、ミナ」


「私は…」


「モナ、あんたは夫も子供もいるんだからこの国にいた方がいいよ。あとは私に任せて。私が、リリアーベル様のお世話をきちんとするから」


「そんな…!じゃあ私も、夫を残して子供と二人で行く…!」


モナは泣きそうな顔で抗議した。アイシャも何か言いたげな顔をしているが、口は固く結んだままだ。


「ミナ、まだ確定したわけじゃないのよ。モナも、私より伴侶を大切にしなさい。そもそも、私はこの縁談、お断りしようと思っているのよ」


リリーの言葉にモナとアイシャはあからさまにほっとした顔をした。


「どうしてですか?」


ミナはすかさず理由を聞いた。


「どうして…そうね、まだその気じゃないから…かしら」


リリーは少し考えながら答えた。


「左様でございますか。イワン皇太子様はお顔立ちもよく、素敵な方だと思っていましたが…リリアーベル様のお気持ちが何よりも大切です」


「…そうね、そして、彼の気持ちも大切よ。直接彼に会って、真意を問いただしたいわ」


リリーは勢いよく立ち上がり、


「…でもその前に、ドレスを脱ぎたいわ。…もう…限界」


「リリアーベル様!」


糸が切れた操り人形のように気絶した。


---


「…ベル、大丈夫?顔色が悪い」


「ええ、大丈夫よ。久々に着たコルセットが少しきつくてね…」


リリアーベルはイワンを呼び、茶会を開いていた。確かに、イワンの言う通り、リリアーベルの顔色はまだ優れない。


「君が心配だ。僕の妃になる人だからね」


イワンの発言に、リリーは顔をはっきりと曇らせた。


「その、話なのだけど…無かったことに、してくれないかしら」


「どうして?」


「私…あまりに急な話で、まだ心の準備ができていないもの」


「はは、そんなに心配する必要はないよ。ベルは立派な王女だ。ルースカー王国の皇太子妃…ゆくゆくは王妃になるのに十分ふさわしい。確かに、ルースカー王国はクラウン王国のような大国ではない。それに、冬も厳しい。でも…小さな国だからこそ、しきたりに囚われない。そうだね、コルセットなんかもつける必要はない。好きな衣装を着ればいい。きっとベルが着る衣装に、皆が合わせる。それに…美味しい料理もたくさんある」


「それは魅力的ね」


リリーはイワンの最後の言葉にのみ反応した。しかし、イワンのアプローチを受けてなお、リリーの顔色が晴れることはなかった。


「でも…イワンの、気持ちはどうなの?」


「僕の気持ち?」


「ええ。この縁談の話、王様が勝手に決めたのでしょう?断り辛いのは分かるわ」


クラウン王国は、ルースカー王国より格上だ。王様から縁談を持ちかけられた場合、断ることはほぼ不可能だ。それこそ、宣戦布告とすら捕えられかけない。


「違うよ、ベル。僕が陛下に提案したんだ」


イワンの思いがけない返事に、リリーは驚いたように目を開いた。


「イワンの方から…?どうして?」


「ベル、初めて会った時から綺麗だと思っていたけど…最近また会って、ますます綺麗になった。美しい女性を妻に迎えたいと思うのは、そんなに悪いことかい?」


綺麗、と言われ、嬉しいはずなのに、思ったより胸が高ならないことにリリーは気付いた。イワンの表情は真剣そのものだ。しかし、その目はどこか冷静で、温度を感じなかった。燃えるように熱い心、高鳴る胸、リリーはすでに知っている感情だったが、それらを彼から感じることはなかった。可愛い、その言葉一つで不意に胸がときめくのは、やはり、彼しかいない。彼…と、意識を遠いところに追いやる前に、リリーは返事をした。


「ありがとう、イワン。でも…やっぱり、この話をお受けすることはできないわ」


「何か、理由が?」


「…ええ」


リリーは、返答に困った。まさか正直に他に好きな人がいる、と言うわけにはいかない。だが、彼を想ったまま、イワンに嫁ぐという選択肢もなかった。そもそも自分はなぜ、王国に戻ってきたのか。彼の元を離れてまで。それは、戦争を止め、平和を実現するためではなかったか。決して、イワンの妃になるためではない。リリーには何よりも優先すべきことがあるはずだ。


「私は…戦争を、止めたいの。だから今は、他のことなんて考えられないわ」


「…なるほど。それなら、いい考えがある」


イワンの言葉に、リリーは思わず期待を込めて顔を上げた。


「僕の方から王様に掛け合ってみよう。確かに、ベルが無事に帰ってきた今、あえて魔王軍と事を起こす必要は無くなった」


「…え?」


「未来のお妃様の憂いを取り除くのは夫の役目だ。ベル、何も心配することはないよ」


リリーは、断る選択肢などないのだと理解した。自分の言葉では、王様を動かすことはできなかった。しかし、王様と懇意にしているというイワンならば、状況を変えることができるかもしれない。本音は、嫁ぎたくない。しかし、平和を実現するためならば、必要なことなのではないか。


「わかったわ…」


リリーはこれ以上、反駁することはなかった。


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