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第14話 密談

その彫刻のような端正な顔立ち、小国だとしても皇太子という地位の高さから密かに注目され、新聞などにも取り上げられている、ルースカー王国のイワン王子だが、彼は今、険しい表情で宮殿の廊下を歩いている。目的は、王様への謁見だ。少し前に突然クラウン王国へやってきて、どういう手段を使ったのか、あっという間に王様に気に入られ、晩餐会にも何度も招待されている。おかげで、今までは取るに足らない小国だと思われていたルースカー王国にまで視線が注がれ、注目を浴びている。実際、全く無名の王国だったにも関わらず、ここ数年、急に目覚ましい経済発展を遂げており、諸外国からも密かに熱視線を浴びていた。しかし、必ずしも好意的に思われているわけでもなく、いきなり台頭してきた王国、そして、二者のあまりの蜜月ぶりに眉を顰める者もいた。一体、何が目的なのか。探ろうとした者もいたが、はっきりとした答えはついに得られなかった。しかし、どうやら近いうちに戦争が起きるらしい、という噂と関連がありそうなことはわかった。


「陛下、突然の謁見をお許しください」


「おお、イワンか。よいよい、気にするな。お前も一杯どうだ?」


王様はまだ日が明るいにも関わらず酒瓶を手にしている。


「では、ありがたくいただきます」


王様に勧められるがままに酒瓶を煽るイワン。


「で、何かあったのか?」


「リリアーベル様が、お戻りになりました」


「…は?」


機嫌が良さそうに酒瓶を持っていた王様だったが、イワンの言葉に一瞬、石像のように動きを止めた。


「あり得ぬ。あれは、魔王討伐に失敗して捕虜になったのではないのか」


「それが、どういうわけだか魔王城を脱出したらしく、つい先ほど宮殿でお見かけいたしました」


「はぁ!?それは本当にリリアーベルだったのか!?」


「はい、間違いありません。最後にお会いしたのは私がクラウン王国に留学していた…4年ほど前ですが、見間違えるはずがありません。ますます美しくなっておいでで…」


「そんなことはどうでもよい!あいつが無事に帰ってきたとなっては魔王軍と事を構える大義名分が無くなってしまったではないか!」


王様は苛立ちを隠そうともせず、酒瓶を握る手に力を込めた。


「いいえ、ご心配には及びません。開戦の口実は…どうとでもなりましょう」


「あれ自身はどうなる!?魔王に殺されることを期待して勇者に仕立て上げたというのに…!ノコノコと戻ってきやがって!下手にあいつを担ぎ出す輩とかが現れでもしたら…!」


イワンは王様のあまりのいいように僅かに眉を顰めた。


「…確かに、その可能性がないとは言い切れません」


「一体、どうすれば…!」


「烏滸がましい申し出かもしれませんが…一つ、案がございます」


「なんだ、申してみよ」


王様は不機嫌そうな表情から一変、期待するような眼差しを彼に向けた。


「姫様と縁組を結びたいと存じます」


「ほう?」


少し予想外だったのか、王様は僅かに目を見開いて驚きを露わにしたが、好意的な反応を示した。恐る恐る彼の様子を窺っていたイワンも、彼の反応に安心したように言葉を続けた。


「ぜひ、リリアーベル様を我がルースカー帝国の皇太子妃にお迎えしたい。そうすれば、クラウン王国と我が王国の同盟もより強固なものとなりましょう」


「…悪くない。なにより、邪魔なあれをようやく合法的に国外に追い出せる」


王様は悪い笑みを浮かべた。


「前向きに検討しよう」


---


「く、苦しいわ…」


リリアーベルはミナによってギチギチにコルセットを締め上げられ、苦悶の表情を浮かべていた。モナは気の毒そうに、アイシャは面白いものを見ているかのように眺めていた。


「リリアーベル様、もうしばらくの我慢です」


リリーは王様に謁見するため、久々に正装しているのだ。普段は簡素なドレスやワンピースを身につけている彼女にとって、正装ほど着慣れないものはない。重厚感のあるドレスに、キツく締め上げられるコルセット。


「それにしても、実用性のカケラもない衣装ですね。動きにくそう」


苦しそうなリリーを横目にアイシャが口を挟んだ。


「それはそうよ、そもそも動く必要なんてないのだから。本来はね」


「そうですね」


ようやくコルセットを締め終わり、人形のように着飾られていくリリアーベル。胸にリボンが着いた、深い青色のドレスを身に纏った彼女は普段と少し違い、エレガントな雰囲気を醸し出している。


「お綺麗ですね、リリアーベル様。魔王様がお贈りになられた衣装もお似合いでしたが、今日の装いもとても素敵です」


アイシャは感嘆したように呟いた。


「ありがとう、アイシャ」


一方、モナは何とも言えぬ違和感を覚えた。


(魔王がリリアーベル様に衣装を…?)


客人として扱われた、というような事は言っていたが…そこで、突然モナの女の勘が働いた。よく見ると、リリーの耳には見慣れない飾りがついている。


「リリアーベル様、お飾りはどれに致しましょう。お耳の飾りと同じ色の首飾りを用意致しましょうか」


「ええ、そうしてちょうだい」


「かしこまりました。…それにしても、綺麗な宝石ですね。一体、どなたから…?」


モナはリリーの耳飾りを見ながら言った。


「え、えっと、これは彼に…魔王様に貰ったのよ」


これには流石にミナも驚きの表情を浮かべた。


「そうですか。大切にされているのですね」


「ええ…」


無意識に飾りに触れながらほんのりと頬を染めて答えたリリーに、モナは思わずのたうち回りたくなった。


(宝石を贈るなんて、一体どんな関係だったの…?)


だが、それを聞くような野暮なことはしなかった。


(こんなに可愛らしい…だけでなく、中身も素敵な方だもん。魔王が夢中になるのも当然)


モナの頭の中ではすっかり魔王がリリーの虜になっていた。まあ、現実もそう変わらないのだが、彼女にそれを知る術はない。


人形のように飾り付けられ、全ての支度を終えたリリーは、硬い表情を崩さずに王様への謁見に向かった。


「アイシャさんって、魔王に仕えてたんだよね?」


主を見送った次の瞬間、モナによるアイシャへの質問タイムが始まった。


「はい」


「でも今はリリアーベル様にお仕えしてる。本当はどっちに忠誠を誓ってるの?」


「それは…」


アイシャは非常に答え辛そうにした。


「じゃあ、質問を変えるけど、もし魔王にリリアーベル様を殺せって命令されたらどうする?」


モナは、かつてないほど意地の悪い質問をした。流石にミナも顔を引き攣らせた。


「モナ、アイシャさん困ってるよ。魔王の手下を信用できない気持ちは分かるけど…リリアーベル様は彼女を信用してる」


「私は最初、確かに魔王様にお仕えしていました。でも、リリアーベル様がいらしてから彼女に仕えるよう命ぜられ、今も誠心誠意お仕えしています。私は、リリアーベル様の味方です。魔王様がそんな命令をするなんてあり得ないことですが、リリアーベル様を害することなど絶対にしません」


「あり得ないこと…ではないと思う。そもそも、リリアーベル様は勇者として魔王を倒しに行った。なのに、客人扱いされて、さらに衣装も宝石も贈られるなんておかしい」


「…確かに」


ミナも納得したように頷いた。


「「二人は一体どんな関係なの?」」


同じ疑問を抱いた、ミナとモナの声が重なった。


「それは…お二人にしか分かりません」


アイシャは言葉を濁し、ミナとモナは顔を見合わせた。はっきりと言葉にこそしていないが、二人がただならぬ関係であることは察したのだ。

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