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99話 ルァVS剣聖グレン①

 

 ベンガル首都の中心にあるホテル、そこのレストランで剣聖グレンはディナーを済ませた。


 窓から外を眺めると、夜の空が暗く染まり、星の光どころか、月明かりさえなかった。

 暗い雲が夜空を覆っているのだろう。

 不穏な夜空からは今にも雨粒が落ちそうな気配がした。

 湿った空気が漂う。


 強い雨が降りそうだ。

 この国は赤道に近い。

 激しい通り雨が降るのだろう。

 確か雨天の場合は試合は延期になると聞いたな。


 明日の武道会のことに思考を巡らせ、夕食を食べ終えたグレンはレストランを後にし、泊まっている部屋へと向かう。


 高級ホテルのはずだが、廊下が狭い。

 勿論とっている部屋も高級ホテルの割には狭く、居心地の良いものとはいえなかった。

 気をつけて歩かねば、すれ違う他の客に接触してしまいそうだ。


 高い宿泊費を取らせて、なんだこのホテルは。

 大国ベンガルも所詮は大陸中央の低文化か、西大陸はもっと先進的だったぞ。

 我がいた北大陸と大差ないではないか。


 そう心の中でグレンは悪態をついた。

 すると通りの向こうから若いウェイトレスがルームサービスカートを運んでやってきた。

 グレンはそれを避けるように狭い通路を抜けようとする。


 会釈するウェイトレスとすれ違う瞬間、それは起こった。


 剣聖グレンには違和感があった。

 すれ違い様に感じたウェイトレスの視線。

 それは自身の顔でも、通りの向こうでもない。

 自分の脇腹、いや脇の下にある胸囲であった。


 咄嗟にウェイトレスの腕を掴むと、脇の皮膚と肉を浅く貫かれた痛みが走る。


 グレンの上着の下に鎖帷子を仕込んでいなかったら、もっと深く、臓器まで届いていただろう。

 青髪のウェイトレスは鋭利な長い鉄針をその手で掴んでいた。

 ウェイトレスはそのまま身を翻し、身体を回転させ、反対の手でもう一つの鉄針をグレンに向ける。


 今度は首を狙っていた。

 すかさずグレンはその攻撃を回避するため、彼女の胴体を蹴り飛ばした。

 そして、瞬時にバックステップし、ウェイトレスとの距離を空ける。

 そしてグレンは先程の奇襲と、刺客の姿を観察する。


 今のは大陸東部に伝わる暗殺術。

 隠し剣。

 それにこの女性ウェイトレス、歳こそ若いが、色白の肌に長い青髪。

 この国の者ではない。

 このホテルの従業員ではないな。

 自分を狙う者の心当たりは少なくないが、今この瞬間に仕掛けに掛かると思い当たる人物は他にはいない。


 グレンは重たい口を開く。

「明日戦う赤髪の小僧が雇い主か、殺し屋め……。なんと卑怯な真似をしてくれる……」

 ウェイトレスは頭に覆った三角巾を取り、艶のある鮮やかな青い長髪を靡かせ、忌々しそうな目でゲドを見据えている。

 海のような青い目でゲドを睨んでいる少女の正体はルァであった。

「今日の貴方の試合を見て思ったわ。シウランが無傷で勝てる相手じゃない。残念だけど、ここで腕の一本でもへし折らせて貰うわ」

「小娘……。腕の一本だと? 先の技は隠し剣、鬼の牙であろう。心臓を狙っておいてよくほざく……」

「愛しの人の為なら手段は選ばないわ。それより剣聖さん。上手く間合いをとったつもりでしょうけど。こんなところで得意の剣術は見れるのかしら?」

 通路の壁をコンコンと叩く、ルァの挑発にグレンは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 確かにこの狭い通路で剣を自在に操るのは困難だ。

 剣先が壁にぶつかってしまうためだ。

 使用する剣技にも制限がかけられてしまう。


 この小娘、そこまで計算に入れて奇襲を仕掛けてきたのか。

 なんと姑息な真似をする小娘なのだ。

 卑怯者め!


 しかし、狼狽えることなく、グレンは腰を大きく落として、剣を抜き、片手で剣を持ち、大きく引く。

 そして冷静にルァを見定め、剣身を真っ直ぐに構える。

 突きの構えだ。

 レイピアの剣術のように剣先を前に出すのでなく、後ろに引き、突進力で相手を貫く。

 最小限の剣戟で相手を仕留める。


 剣聖グレンはこういう状況でも戦える剣技を待ち合わせていた。

 対するルァは既に魔法の印を結んでいる。

 いつでも対峙する両者が火花を散らす状態であった。


 戦いの合図は稲光りとともに訪れた猛烈なスコールで始まった。


 もしルァと対峙する相手がシウランなら、間合いをとるという、迂闊な行為は取らなかったであろう。

 ルァの戦い方を知っているシウランであれば、一気に距離を詰め、近接戦を仕掛ける。

 いくらルァが無詠唱で魔法を行使する魔術の使い手とはいえ、流石に掌印を結ばなければ魔法は発動できない。


 グレンが距離をとったのは先の奇襲により、ルァを暗殺術の使い手と誤解していたこと。

 剣士の間合いを取れば遅れは取らないという自負。

 しかしそれはルァの術中だった。

 もし奇襲が失敗したなら、必ずグレンは距離を取る。

 剣士から零距離での剣戟は来ない。

 だから、ルァは悠然と掌印を結んだ。

 グレンが足を踏み込み、水平にした剣身で右片手一本突きを繰り出そうとした瞬間、それは起こった。


 グレンの踏み込んだ脚が前に動かない。

 突き出そうした腕が途中で動き制される。


 異変に気付いたグレン。

 まるで鎖にでも縛られたかのように、身体の自由が奪われてしまったことを察知した。

 ルァが発動させたのは水の結界。

 それは無数の水糸でいつの間にかグレンの四肢を縛り上げていた。


 さらにルァは印を結び、二本の指で空を切る。

 刹那、水の斬撃がグレンに迫る。

 一連の現象を見てグレンは悟った。


 この小娘は魔術士……!


 水の刃が自身に襲い掛かってきても、グレンは危機感よりも凄まじい憎悪と因縁の魔術士を屠る機会に感謝の感情で溢れていた。


 因縁の魔術士……!


 今ここで忌々しい過去と決別する時!



 剣に生き、剣に生涯を捧げた剣聖グレン。


 老いてなお剣技の求道を目指す剣の達人を前に、ルァは不敵な笑みを浮かべていた。


 剣の達人と魔術の達人の勝負はすでに始まっていた。

 

 グレンとルァ、最後に立っているのは誰か。

 

 

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