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98話 剣聖グレン

 

 最強の武術は何か?


 それは剣術である、と過去の強者たちは断言していた。

 かつて世界は剣士一強の時代であった。


 確かに魔法使いが操る魔法は万能であり、強力な破壊力を持っている。

 しかし魔法には詠唱、触媒、魔法陣を描き、印を結ばなければならなかった。

 その長い手順の間に剣士は魔法の使い手を瞬殺できる。

 対人戦最強の武術がまさに剣術であった。

 その剣撃は何人もの英雄を生み出した。

 この時代であっても剣術が最もポピュラーな武術であり、腕に覚えのあるものは好んで剣を振るう。


 しかし剣士一強の時代は砂上の楼閣であった。


 剣士の時代を壊した存在がいた。

 創世の賢者カイン、現代そして歴代最強の英雄であるミュラーの二人である。


 カインは現代において魔術という、無詠唱魔法による体術を生み出し、発展させた。

 そしてその魔術を持って最強の英雄となったミュラーは剣を捨てた。


 膨大な(タオ)を圧縮させた肉体の前ではどんな大業物の剣も刃が欠ける。

 その精錬された(タオ)の斬撃はどんな剣の太刀筋よりも鋭利であった。

 剣も所詮は自然界の鉱物を用いて、武器にしたものだ。

 耐久面、切れ味にも限界がある。

 まして魔術は剣士の間合いを殺し、零距離から魔法が放てる。


 この時代の英雄の領域に近い達人なら皆が知っている。


 魔術こそ最強の武術であると。


 剣士の時代は終わりを告げたと。


 しかし力の求道の領域に辿りついていない者は知らない。

 魔術の存在を。


 未だに世界の至るところで剣術の流派があり、その道場の元で剣を振っている者が後を絶たないのが現実だ。

 そもそも男子は剣に浪漫を感じる生き物なのである。

 それは仕方のないことであり、真実を知らない者にとっては残酷な現実だ。

 剣聖グレンも剣の輝く刃に魅了され、幼くして剣術を磨き上げていた。


 彼は若くして大陸北部で剣聖の称号を得た。

 しかし若かりしグレンは自身の剣術は未熟であり、世界にはまだ自分より上の剣の猛者がひしめいていることを自覚していた。

 だから剣の鍛錬を続けた。

 自分の剣技を昇華し、強者と渡り合うために。

 グレンの若かりし頃は眩しい栄光で輝いていた。

 その剣を振るって、数多の活躍劇を繰り広げていた。

 頼りのがいのある仲間と共に巨大な肉食動物、竜とも渡り合った。

 彼は常に前衛でその剣を振るった。

 時には凄腕の傭兵やハンターとも命のやり取りをした。

 そして数々の剣の猛者を屠った。

 しかし彼は驕らなかった。

 もっと強さの高みへと自分の剣技を磨き続けた。


 そんな剣聖グレンには三度の挫折がある。


 一度目の挫折は賢者カインと出会ったこと。

 そしてなすすべなく敗北したこと。

 強さを求める余りに、逸脱者と出会ってしまったことだ。

 グレンにとって最大のショックはカインが武器を持たず、体術のみで自身を子供のように扱ったこと。

 賢者は魔術の使い手でありながら、魔法を使用せず、手加減して自分を負かしたことが屈辱であった。

 グレンは生かされるぐらいなら、剣で己が身を屠って欲しかった。


 剣聖グレンの二度目の挫折は統一戦争であった。

 極大魔法が飛び交う戦場、見たこともない肉食獣、ベヒーモスやミノタウロスの群れの前に剣は無力であった。

 戦場の仲間は皆長い槍を構えて、弓矢を放って命を散らしていた。

 戦場で無骨にも剣を振るったのは自分だけのような気がした。

 辛く苦しい戦争を終わらせたのは魔術を自在に操る英雄達であった。

 彼らは天空から極大魔法を放ち、戦争の形態を変えてしまった。

 力の極みの前に剣は無力ではないかと実感してしまった。



 剣聖グレンの三度目の挫折は彼の誇りと信念、生き様を否定した。


 戦後に世界の各地を武者修行し、世界中の剣技を学んだ。

 その旅では自分より上の剣豪に出会ったこともあるが、彼は嬉しかった。

 世界の剣の達人に出会い、自分の知らない剣術を学び、それを自分の技へと昇華させた。

 何より世界は剣術こそ至高の存在だと再確認できた。 

 この時、剣聖グレンの齢は50を過ぎていた。

 しかし剣技で自分は高みへと行けると実感できた。

 しかしそれは幻であった。


 いざ故郷の道場へと戻ると、グレンは愕然とするような光景を目にすることになった。

 門弟達は付与魔法で刻まれた剣をどう扱うかに試行錯誤し、その技を磨き、それを我が流派に組み込もうとしていたのだ。

 魔法剣がグレンの知らない間に剣士達の間て流行ってしまったのだ。

 それは大事にしていた青き清流に肥溜めの汚物ぶち込まれる行為であった。

 そおなものは純粋な剣術では無かった。


 グレンは自身の剣技に魔法という不純物が混ざってしまうことを激しく激昂し、憤慨した。


 そして極めつけは愛する愛弟子であり、愛しの孫娘の免許皆伝の日である。

 これで剣聖の称号を娘に渡し、隠遁生活をどう暮らすか思考をめぐらししていた時であった。

 免許皆伝と共に代々伝わる名剣を娘に授ける瞬間、愛する娘の顔が一瞬曇った。

 理由を恐る恐る尋ねてみると、驚愕の言葉が娘の口から出た。


「その剣に魔法は付与されてませんよね? それで強くなれるんですか?」


 残酷な言の葉に、剣聖グレンの誇りはガラガラと音を立てて崩れた。

 何より辛かったのはその返答に何も言い返せない事実であった。

 最初の挫折から知っていたことなのだ。

 魔術の使い手を前に剣術家は無力。

 知っていたことだが、ずっとそれまで目を背けてきたのだ。

 そしてその事実を決して口外してはならない現実を。


 剣の道に進む者の殆どが学がない。

 今更、強くなるためには魔法を覚えよ、など口が裂けても言え無かった。

 町の原っぱで無邪気にチャンバラをしている子供達に、早く家に帰って魔導書でも読めと説教しろというのか。


 断じて否である。


 剣士こそ力を求める者の浪漫であり、華である。 

 剣士とは憧れの存在であるべきなのだ。


 剣聖グレンは立ち上がり、剣術こそ最強の武技であることを証明しなくてはならなかった。

 剣士の時代を再び再興させるべし。

 少年達は無邪気にチャンバラに興じるべきなのだ。

  

 グレンは次に当たる対戦相手の赤髪の少年の試合を見た。

 卓越した(タオ)操作による体術で赤竜を瞬殺していた。

 しかし剣聖グレンの目は誤魔化せなかった。

 あの赤髪の少年、魔力を体内に宿し、それを攻撃の瞬間に解き放っていた。


 紛うことなき魔術の使い手だ。

 ……因縁の魔術士だ。

 許さん……!

 あの赤髪の小僧に我が剣技の全てを叩き込み、切り刻んで、その胴体を輪切りにしてくれるわ!。


 剣聖グレンは殺意に燃えていた。

 その瞳に映るシウランの姿を忌々しく睨み、情動に任せて握った右拳は血が滲んでいた。

 グレンはまるで我が子の仇を見るような眼光でシウランの笑顔をじっと見ていた。


 積年の恨み、今ここに晴らすべし!

 魔術の使い手は皆殺しにしてくれる!!


 その殺意をシウランはまだ知らなかった。


 またシウランは知らないところから恨みを買っていたのだ。


作者のことに興味があれば、短編の、

時間返せ!

読んでみて下さい。

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