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92話 波乗りシウラン

 

 ベンガル艦隊は明日の艦隊式を控え、夜間航行の演習中であった。


 演習帰りの夜間の不意を海賊船に狙われた。

 予想を超える炎の強襲に乗組員を狼狽え、海軍部隊としての秩序が取り乱されていた。

 不運は重なる。

 たまたまこの船のオーナーでもあるベンガル王朝第一王女が海賊達の手に渡ってしまった。

 人質を取られた海軍将兵は海賊相手に手も足も出なかった。

 それをいいことに、艦隊は次々に海賊達に蹂躙されてしまう。

 海賊に人質に取られた姫は絶望と嫌悪感を隠さずにはいられなかった。


 この蛮族ども!

 私の大事な船になんてことを!

 汚い、下賤な奴ららしいわね。

 汚いといえば、さっきから私を後ろから片手で羽交い締めにしてる海賊。

 とても臭いわ。

 なんだかおしっこの臭いがしてくる。

 その脂ぎった毛むくじゃらで不潔な太い腕で私の身体を絞めないで。

 気持ち悪いわ。

 お願いだから、これ以上密接しないで。

 ジョリジョリの汚らしい顎髭が頬に当たるのよ。

 うう、口臭が下々のトイレのような悪臭を放ってくるわ。

 気持ち悪い体液が私のドレスに侵食していく。

 きっと湯浴みも歯磨きもしてきてない人生送ってるのよ。

 ううぅ、この部細工、私の高貴な肌に舌を這わせてくるわ。

 気色悪い、気色悪いわ。


「いやぁ、お姫様の味は最高だな! コイツは戦利品として貰っていくぜ!」


 お願いだから、いっそ私ごとこの部細工な海賊を斬って!

 何やってるの!?

 武を重んじるベンガル将兵でしょ!

 いいからやりなさいよ!

 もう私は汚れてしまったわ!

 

 ベンガル将校が狼狽えるところ、海賊達から叫び声が上がる。

「大津波だ! このままじゃ船に襲ってくる! 全員、何かにしがみつけ! 揺れに備えろ!」

 ベンガルの姫がその言葉を聞いて見上げると、突如船に向かって、艦隊を覆うような津波が出現していた。

 あまりの壮大な光景に呆然としてしまう。

 しかし身体の自由は奪われたままだ。

 波が船に叩きつけられる。

 その刹那、二人の影が波に素早く乗っていた。

 シウラン達だ。


 シウランは巧みに波を自由自在に乗り、目の前にいた海賊を身軽な身体捌きで料理する。

 不意打ちに側頭部へ回し蹴りを叩き込み、よろめいたところを見逃さず、容赦なく股間に下段蹴り上げを炸裂させる。

 ノックアウトされた海賊を放置し、囚われの姫を救い上げた。

 ルァは自身が起こした津波を自在に操り、空高く舞った波を海賊達だけにピンポイントで叩きつける。

 そして燃え盛る艦艇の炎を津波で鎮火させた。

 波に乗りながらシウランは姫を抱き上げ、安否を確認する。

「怪我はねーか。お嬢さんよ。海賊どもめ、いい気味だ。海水の味を堪能しやがれ」

 宙を華麗に舞い、空からシウランが海軍の艦艇の甲板に着地すると、姫は海軍将兵に保護された。

 ベンガルの姫君はシウランの救出劇に心をときめかせていた。

 しかし、姫のハートを奪ったシウランは身構える。

「燕の海賊がこれで退散ってわけじゃねーだろ。出てこいよ。大将さんよ」


 シウランの言葉に、それまで影に潜んでいた男が姿を現す。

「やれやれ、私の出番が来るとは……。噂の燕の海賊も大したことないものだね」

 出てきたのは長い大剣、柄は剣身の真ん中に有り、上下に両刃備えた変わった武器を持った男だった。

 シウランは男の立ち振る舞いに脅威に感じなかったが、海軍将校が思わず叫ぶ。

「あいつは傭兵殺しのシグ! 双剣のシグだ! 燕の海賊の奴ら、なんて奴を雇ってやがる!」

 シグと呼ばれた男は縦横無尽にその双剣を降り捌き、挨拶する。

「先に名を呼ばれてしまったな。双剣のシグだ。先日のボンベイの闇オークションでは派手に暴れさせてもらったよ。小娘、今なら見逃してやる。私を前に生きて帰った者はいない」

 シウランが首を傾げる。

「嘘つけ、こないだのオークションにお前みたいな妙な武器持った奴なんていなかったぞ!」

 男が双剣をピタリと止める。

「小娘、念の為に聞く。名を名乗れ」

「シウランだ」

 その名と、シウランの赤い髪を見て男は戦慄する。

「ま、まさかダキアの悪夢の張本人、紅い閃光!? 海賊キラーのシウラン!!?」


 狼狽する男の無防備な背中を、ルァは水弾で吹き飛ばす。

 高圧の水の塊に背中を叩きつけられたシグは勢いのままシウランの前へと突き出される。

 シウランは蹴りの嵐を炸裂させ、シグの代名詞とも言える双剣を粉々に砕き、ついでにシグの全身の骨を粉砕する。

 そして渾身の力を込めて正拳突きを繰り出し、シグは船から放り出され、海中へと沈んでいった。

 すでに海賊船は大波の前に海中に沈んでいっている。

 海面の大渦の中へシグや他の海賊達は飲まれていった。

 それを見たシウランが肩を竦ませ、バツの悪そうに赤い髪の後ろを掻く。

「おいおいルァ。俺達有名人になっちまったな」

 ルァは優雅にハッパを吸いながら答える。

「複数形使わないでくれる? 悪名が轟いてるのは貴方なのよ。海賊殺しのシウランさん」

「やめろ、気にしてんだからよ……」

 


 悪態をつきあう二人に、ベンガルの姫が駆け寄る。

「先ほどはありがとうございました。我が身を救出し、我がベンガル艦隊の危機を救って頂き誠にありがとうございました!」

 シウランは照れ臭そうに、手を振る。

「礼なんていらねぇよ。燕の海賊は俺達の敵だ。大したこっちゃないぜ」

 すると姫が突然シウランを抱き締め、懇願の眼差しを向ける。

「貴方の腕を見込んで、是非お願いしたいことがあります! どうか私の貞操を守って下さい! 我が国の武闘会に参加してもらいたいのです!」


 姫の言葉を聞き、シウランとルァは顔を見合わせる。


 そして二人は深く嘆息して、痛感した。


 また厄介ごとがきたか……。

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