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86話 シウランの過去④

 

 夜の空に輝く三日月は明るかった。

 月光の光の線が黒く染まった海面を照らす。

 シウランもそんな夜月のように明るかく壮絶な過去を語る。

 おかわりのウドンをすすりながら、昔の武勇伝を懐かしむように話す姿に皆が戦慄していた。

 

 何故、コイツはこんな過酷な過去を笑いながらはなせるんだ!?


 思わず耳を塞ぎたくなるようなシウランの過去だが、続きが気になるように話してくるのが口惜しい。

 ライエル達は固唾を飲んで、シウランの思い出話しに耳を傾けてしまう。

 そんな皆の様子も知ったこともなくシウランはウドンをすすりながら壮絶な過去を語りだす。





 フェイのクソ野朗の強さはケタ違いだった。


 え?

 今の俺なら勝てるだろって?


 冗談言うなよ。

 いくら俺でも片手でティラノサウルスをぶん回すことはできねーよ。

 それにフェイの野朗は無詠唱で山が吹っ飛ぶような極大魔法も使えるし、何より(タオ)の操作技術が神業だ。

 あんまり速くて、視力に自信がある俺でも目で追えねー。

 アイツが言うには鼓膜に(タオ)を集中させて、身体の筋肉が動く音で動けとか意味わかんねーことほざいてたな。

 そうそうアイツが口酸っぱく言ってあのが、

「肉食獣だろうが、人間だろうが、狙うのは首だ。どんな技でも首を狙え。脊椎動物の致命的弱点を突け。大抵の生命体は首さえ吹っ飛べばくたばる」

 そう言って、振り回してたティラノサウルスの頭が目にも止まらない速さで空高く飛んで行ったよ。


 いや、獣とかならともかく、人間相手にそんなことできねーよ。

 一年前、14歳になってたけど、その頃には人間の常識やモラルは身についてたぜ。

 まぁ一般常識や倫理観を学べば学ぶほど、フェイのクソ野朗がどれだけヤバイ奴か身に染みて理解できた。


 ガキの頃、大人なら皆、マンモスぐらいなんか片手で退治できると思ってたぜ。


 俺?

 マンモスぐらいなら楽勝さ。

 流石にブラキオサウルス相手ならルァが手伝ってくれねーと手こずるな。


 とにかくフェイはイカレてるぐらい強いバケモンだった。

 このまま運命を受け入れてたら、来年にはアウストラロピテクスと交配されるハメになる。

 だから俺とルァは奴を退治する手段を考え抜いた。


 考えてもみろ。

 片手でティラノサウルス瞬殺するような奴だぞ。

 寝込み襲うのも、風呂場で寛いでる所を狙っても返り討ちにされるのは目に見えてる。

 奴が毒に耐性持ってるのは日頃から、ルァが致死量の毒を奴の好きな酒に盛ってるから判明してたさ。

 八方塞がりだった。

 だが、俺達に天啓が舞い降りたんだ。


 毒が駄目なら良薬なら効くんじゃねーのか!?

 そして人間が一番無防備になる状態も思いついたんだ!


 え?

 何をやったかだって?


 ルァが薬の研究を重ねて、超強力な下痢止めを開発したんだよ。

 バカでかい首長竜で試しに実験したら即死したぞ。

 何て名前だったっけかな?

 アルゼンチノサウルス?

 そうそうそんな名前だった。

 倒れて地面でビクビクしながら息絶えるソイツを見て俺達は確信した。

 これならフェイのクソ野朗にも効く!

 そう確信して二人で抱きしめ合ったよ。



 決行の夜、師匠は留守だった。

 ルァがフェイの野朗に酌しながら例の薬を盛ってる最中、俺は道場中の厠を破壊しまくってた。

 ルァの奴は念の為に(タオ)を練れなくなる毒も入れてたな。

 けど、おかしいんだ。

 バカデカい首長竜が即死したのに、フェイの野朗にはなかなか薬の効果が出なかったんだ。

 やっぱり駄目かと、諦めかけた時、神が降臨した。


 フェイの野朗が腹を抱えて、ぶっ壊した厠に駆け込んだんだ。

 アイツ、顔が真っ青だったな。

 隙だらけだったぜ。

 必死になって厠を探してたぞ。

 俺は迷うことなく、奴の背後から頚椎めがけて胴回し蹴りを叩き込んだぜ。


 一か八かだったな。

 やっぱり避けられかもしれねーし、頑丈なあの野朗の身体だ。

 いくら生命の急所でも効果がないことを想定して、動こうとしたさ。

 けどよ、効いたんだよ。

 アイツ、蹌踉めきやがった。

 俺の青い瞳は輝いたぜ。


 ケダモノの種ツケの運命から切り開く活路を、積年の恨みを、自由への切符が、今目の前に舞い降りたんだ。


 俺はすかさず師匠直伝の奥義『雷輪』を繰り出した。

 どんな技かだって?

 前にヤッた海賊にお見舞いさせたやつさ。

 身体の回転を利用した、喰らった相手が倒れることを許さない秘技でよ、師匠が言うには、

「お前の身体能力と(タオ)技術を最大限に利用した大技だ。殺してもいい相手以外には絶対に使うな。いいな、絶対だぞ」

 って、念を押されてたな。


 フカシだろ。

 フェイのクソ野朗は生き延びてたし。

 あ、悪い、オチ言っちまったな。


 まぁ俺は止まらない連撃を繰り出し続けた。

 最初は夢中だった。

 がむしゃらに身体を回転させて、無我夢中で突きや蹴りを放ちまくった。

 けどよ、だんだん怖くなってきたんだ。

 アイツ、亀のように身体をガードしながら耐え切ってやがる。

 ルァの薬の効果で確かに(タオ)は練れてねーのは、手ごたえでわかってたんだ。

 俺の技も確かに効いてる。

 けどよ、なかなか倒れてくれねーんだ。

 まるで石像のように固まって、俺の技を耐え抜きやがる。

 そして野獣のような眼光で俺を睨みつけてやがった。


 信じられるか!?

 生身の肉体で岩すら粉々にする(タオ)の宿った打撃をガードしてやがんだ!

 俺の必殺の連撃を受け続けてるのにだぞ!?


 あの時、俺は理解したぜ。


 コイツ、俺の体力が尽きるのを待ってるのか!?


 俺は早くくたばれと祈りながら、必死になって技を繰り出し続けた。

 一時間ぐらい経ったのかなぁ。

 俺の息もキツくなって、心臓の音がバクンバクンしてきた。

 けどよ、アイツ、なかなか倒れてくれねーんだよ。

 フェイの野朗の視線が怒りから殺意に変化したのがわかったさ。

 俺が限界を迎えた時、確実に人生が終わるって実感したぜ。

 だがな、フェイの野朗はやっぱりいつもの余裕はなかったな。

 あの小賢しいクソ野郎にいつもの冴えは無かったぜ。


 腹痛の原因は誰のせいだ?

 (タオ)が練れないのは何故だ?

 この状況でいつも俺の隣にいる存在を忘れてやがった。

 ルァをよ。


 俺達はこうなることも想定してた。

 だから敢えてルァには隠れてもらった。

 アイツが完璧に俺しか眼中にない状態、最高の隙だらけのタイミングを狙ってた。

 ルァはやってくれたぜ。

 フェイの背後から、隙だらけの股間に猛烈な蹴りを炸裂させてくれた。

 奴は反射的にガードを下ろした。

 そしてガラ空きの下顎を俺は確かに蹴り砕いた。

 あのクソ野朗が致命傷を負ったのは手ごたえで理解できたぜ。

 このまま倒れるのもわかってた。

 けどよ、俺は怖かった。

 奴が再び立ち上がるかもしれないって恐怖で一杯だった。

 だから渾身の連撃技『雷輪』を打ち続けた。

 体力と精神の限界の先まで放ち続けたんだ。


 どれぐらい経ったのかなぁ?

 お、ルァ覚えてるのか、二時間半だって?

 頑張ったな!


 だけどよ、アイツ生きてたんだよ。

 ルァが倒れ伏してたあの野朗の心臓の音を確かめてたら、まだ動いてるのがわかって、二人で震え上がったぜ。


 ヤベェ、早く逃げないと、とっ捕まる!

 絶対殺される!


 すぐに俺とルァは禁室に逃げこんだ。

 そして急いで転移魔法陣の中に飛び込んだんだ。

 それで俺とルァは仙霊山からバックれて、ルシア帝国のニュークの街に転移したんだ。

 自由を手にした実感っていうよりも、復讐される恐怖で一杯だった。

 郷の追手が怖かったからな。

 念入りに転移魔法陣が刻んである祠は粉々に破壊して、ルァの水魔法で更地にしてやった。


 え?

 なんで死にかけのフェイにとどめをささなかっただって?

 いや、人殺しはできねーよ、流石に。

 え?

 殺すつもりだったんだろ?

 あー、確かにぶち殺すつもりだったけど、なんでだろうなー?

 そういう難しいことわかんねーや。

 まぁ、あのフェイのクソ野郎を半殺しに出来て、俺のウサは晴れたぜ!


 ん?

 どうした、ルァ?

 ほらハッパ吸えって、顔が真っ青だぞ。

 リラックスだ、リラックス。

 ここは遠い海の上だ。


 もう奴は来ねぇ。


 あ、デーヴァ。

 デザートにリンゴ食いてぇ。

 持ってきてくれ。

 あ、皮剝かなくていいからな。

 そのままかじるからよ。

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