85話 シウランの過去③
三日月が昇り、闇夜に月光の儚い光がシャイン号を照らす。
壮絶なシウランの幼少期のエピソードに皆が絶句していた。
唖然とする周囲もそっちのけでシウランは構わずウドンをおかわりして、すすりながら話を続けた。
何?
武神の元で英才教育受けて、なんで魔法が使えねーんだって?
前に言ったろ、週に一回、里の奴らが常識教えに来てたって。
俺はその時間を有意義に睡眠に当てたぜ。
フェイのクソ野朗もいねぇし、俺がどれだけサボっても里の村の奴らは叱ったりしなかったからな。
むしろ修行で疲れ果ててる俺に布団まで敷いてくれたぜ。
俺は村人の同情につけ込んで、寝まくってやった。
まぁ、ルァは昔から童話とか眠たくなる話が好きだったから、妙に熱心だったな。
俺と違って読み書きとか覚えて、よく本なんか読んでたぞ。
道場の倉庫にある魔導書とかよく読み漁ってたな。
ルァはすげーよ。
何せ独学で魔法術式覚えてたんだからな。
何?
直接指導されたりしなかったのかって?
勿論あったぜ。
最初は自分の先天魔法系統を見極めるんだよ。
12歳の頃だ。
師匠が直々に指南してくれたぜ。
ガラスみてぇな魔法瓶に気を魔力に変換して、それを見極めたぜ。
俺はガラス瓶の中に電流を流して、吹っ飛ばした。
ルァはガラス瓶の中が水で溢れてたな。
俺もルァも落ち込んだよな。
フェイのクソ野朗を火ダルマにするつもりだったのに、しょべぇ自分の魔法系統に。
水や電気なんかじゃあのバケモンみてぇなフェイに敵わないからな。
んで、実践で魔法詠唱しろとか言われたんだけど、生憎俺は魔導書なんて一切読んでなかった。
できるわけがねぇ。
どうやらフェイの野郎、しごくのに夢中でうっかり魔法修練させるの忘れてたらしい。
その事実を知ったブチ切れた師匠は俺達の教育係だったフェイを絶叫しながらボコボコにしてたな。
せっかくの特異点がどうのとか叫んでたな。
とりあえず馬乗りになって師匠に殴られまくってるフェイの歪んでいく顔は最高だったぜ。
勿論、その後フェイのクソ野朗にぶちのめされたけどな。
そういや、師匠が不思議そうな顔してたな。
「読み書きできないのに、どうやって魔力を練った?」
って。
俺は正直に答えた。
「なんかルァが魔法使ってる所見てたら、自然とできた」
ってな。
そしたら、また顔を真っ赤にした師匠がフェイをボコボコにしてたな。
「才能の塊に何て真似してんだ、馬鹿野朗!」
ってフェイの顔面が歪むくらい殴りまくってたな。
全く最高に笑えたぜ。
その後、フェイや師匠に何度も読み書きを教わろうがさっぱり駄目だった。
手遅れと判断した師匠はえらく落胆してたぜ。
だいたいその頃から、師匠が熱心に魔術の指導してくれたな。
ルァには魔法術式を、俺には魔力操作を叩き込んだ。
ルァは無詠唱までできるようになったんだからすげーよな。
なんだ、ルァ?
どうして残念そうな顔で俺を見つめる?
何?
その年頃だと、女の子は大変だったろう?
あー辛かったぜ。
フェイのクソ野朗、どんなに腹が痛い時でも、股から血が溢れてる時でも、容赦なく稽古でシゴキしてくれたからな。
泣きながら、休ませてくれって叫んでも、
「気合いで治せ! 稽古で身体が温まったら、痛みも忘れる! ゾーンの世界に入れ!」
とか無茶抜かしやがってたな。
まぁその歳ぐらいになると門下生でも半分くらいは返り討ちにしてやるぐらいまで育ったからな。
ただ風呂に入る時間と、着替えの場所は変えられた。
俺はあんまり気にしてなかったけど、ルァは嬉し泣きしてたな。
そうそう、酷ぇ話があるんだよ。
13歳ぐらいの頃かなぁ。
俺とルァが女らしい身体つきになったら、フェイの見る目が少し妙だったんだ。
他の門下生のような下心あるような視線じゃねぇ。
何か企んでるような、神妙な目線だったんだ。
不安は的中した。
ある日競馬が趣味のフェイのクソ野朗が馬の血統表を真剣に見つめてぼやいてたんだ、
「インブリードでいくか? いやニックスも捨て難い。スピード×スピードが理想的だな。奇跡の配合理論を生み出すための素材が必要だ!」
なんのことやらさっぱりだった。
けど翌日、あのイカれ野朗が何を連れてきたと思う?
「シウラン、ルァ。将来お前達の花婿さんになるアウストラロピテクス君だ。俺様の理論上、最強の生命体が生まれるはずだ。お前らが成人した15の時に祝言してもらう」
信じられるか!?
あのクソ野朗、俺達の結婚相手を、毛むくじゃらのゴリラにしやがったんだぞ。
ルァなんて、ショックで泡吹いて倒れたぞ!?
このままじゃ、マジでケダモノに種ツケされちまう。
俺とルァはこの理不尽な運命に逆らう為に、あのクソ野朗をブチ殺すことを固く誓ったぜ。
幸い、外の世界へ抜け出す手段は見つけてたんだ。
あのクソ野朗、師匠が留守の週末に、いつも香水と酒臭い酔っぱらった姿で道場の禁室を出入りしてたんだよ。
俺とルァは命がけで身を隠して、その跡を追った。
そしたら、フェイの禁室の奥に転移の魔法陣が仕掛けられてた。
勿論、その場で飛び込みたかったさ。
だがよ、その部屋、フェイのクソ野朗の私室の隣なんだ。
下手に転移の魔法陣に入ったら、すぐに追っ手が来る。
あのバケモンの手にかかれば、簡単にとっ捕まるのは目に見えてた。
だから俺とルァは必死に稽古に励み、身体を鍛えた。
技を磨いた。
そしてあのクソ野朗を退治するためのありとあらゆる手段を考え抜いた。
今でもゾッとするぜ。
もしあのままだったら、ケダモノと交配実験されてたかもな。
おい、ルァ。
もう震えなくていいんだ。
安心しろ。
ここは海の上だ。
奴は来ない。
ハッパ吸ってリラックスしろ。
深く深呼吸するんだ。
あ、ライエル。
ウドンおかわりだ。




