84話 シウランの過去②
静まり返ったシャイン号の船室。
イズモやライエルを始め、皆がシウランの昔話に固唾を飲む。
険しい顔をしながら、シウランの戦災孤児で虐待を受けていた悲惨な幼少期に耳を傾けながら、疑問に思う。
こいつはなんでこんな重い過去をこんな気楽に懐かしそうに話してるんだ!?
隣のルァはトラウマがフラッシュバックしたせいか、カタカタと肩を震わせて、顔が青ざめてるぞ……。
そんな皆の不可解な視線には構わず、シウランはウドンをおかわりしながら陽気に話を続ける。
フェイのクソ野朗は姑息な奴だった。
初めて習った技が複体修術って回復術式だった。
アイツが気持ち悪いぐらい手取り足取り、丁寧にあの秘術を教えてくれたよ。
自分に宿る気タオの力を正方向から負の方向へと掛け合わせ、脳内でイメージするんだとよ。
傷を治すんじゃなく、形を元に直すイメージを形成させるんだな。
何でもその習得が難しくて、世界でも会得してる奴は少ないらしいな。
あのフェイのクソ野郎が、なんでご丁寧に回復術式から教えてくれたかだって?
フェイのクソ野朗はこう抜かしやがった。
「喜べお前ら、複体修術を覚えたら、無限に修行に励めるぞ。安心しろ、気や体力が尽きたらアナコンダの精力剤飲ましてやる。流石にヤバい怪我したり、幼児虐待した痕を師範に見つかると俺も叱られるからな。お前ら師範にチクったら殺すぞ。いつでも元気いっぱい、爽やか笑顔で修行に励め」
俺とルァは複体修術を伝授されたのを死ぬほど後悔したよ。
骨折しようが、傷で血塗れになろうが地獄のようなシゴキが続いたんだからな。
風邪を引いた時?
根性で治せって言われたぜ……。
ああ、思い出した。
断崖絶壁の崖を登らされたな。
自分の身体の二倍はあるかと思うほどの岩を背負わせれて。
ほぼ垂直の崖の岩壁を必死になって掴んだよ。
腕を休めることは許してくれなかったな。
あのクソ野朗が空中浮遊で監視して、少しでもチンタラ登ってたら容赦なく、鉄の棍棒をフルスイングしやがるからな。
「自分の運命ぐらいテメーで掴みやがれ! 目の前の岩を掴めないような軟弱な奴に明日はねー! ほら、下を見ろ。高過ぎて地面が見えないだろ? 手を離したら、天国行きだ。慈悲深い俺様は埋葬してやるから、安心してロッククライミングを楽しめ。子供は高い所が好きだもんなー?」
俺とルァなボロボロになりながら、朝から晩まで断崖絶壁を登ったよ。
ルァは俺と違って体力なかったから、しょっちゅうアナコンダの精力剤飲まされたぜ。
箸の握り方もロクにできねーチビっ子の頃に、崖の岩を掴らされたよ。
日も沈んで、真っ暗闇の中、俺達が精魂尽き果てて、崖の上を登り切った時、俺とルァは泣きながら抱きしめ合った。
そしたらフェイのクソ野朗、何したかわかるか!?
魔法陣を錬成して、さっきより険しくて、高い絶壁を作り出して、こう抜かした。
「俺様は優しいからな。喜べ、お前ら。夜遊びだ。第二ラウンド行ってこい」
俺とルァは顔をくしゃくしゃにして闇夜の断崖絶壁を登り続けたぜ。
おい、ルァ吐くな。
悪い、嫌なこと思い出させちまったな……。
嫌なことといえば、フェイのクソ野朗、実にいい性格した大人だったぜ。
ほら、小ちゃな子供って無邪気に絵を描いたりするだろ?
俺もそんな時があった。
似顔絵だな。
俺は親の顔も知らないから、とりあえず面倒見てくれたフェイの似顔絵を描いた。
それを見せた時のアイツの反応が実にクソだったぜ。
「俺様はこんな汚ねぇ顔してねぇ! なんだこのバケモンは!」
修行の合間に必死になって描いた俺の似顔絵をぐしゃぐしゃにして、火魔法で灰にしてくれたよ……。
子供の頃だったから、スゲー傷ついたな。
何?
そんな環境でまともに子供が育つのかって?
週に一回、郷から村人たちが来て、世間の常識やら道徳やら、行儀とかを教えてくれたよ。
その時だけさ、郷の村人だけが俺達を人間らしく扱ってくれたぜ……。
あの温もりに何度も助けられたよ。
悪い、ちょっと懐かしくて、涙が出てきた。
あー思い出したぜ。
フェイは本当に俺達の天敵だった。
6歳ぐらいの時かな?
初めて道場で稽古を許してくれた時だ。
俺とルァは神聖な道場に入ることを許されて浮かれてた。
そん時、門下生百人の前でこう抜かしやがった。
「戦闘民族アイルの生き残りとケルンの王族の末裔だ。テメーら百人組手をしてやれ。ガキだからって手加減すんじゃねぇぞ! 少しでも手を抜いたら、頭蓋骨引っこ抜くぞ! おい、ガキ共、一本取れるまでメシ抜きだ。まぁこの道場でガキに負けるような腑抜けはいねぇだろうがな。テメーら本気で死合え!」
俺とルァは袋叩きにされた上、残飯を漁るハメになった。
全員大人な上に武神の門下生だぞ?
6歳児が勝てるわけねーだろ?
子供に手加減?
門下生の連中はみんな師範代のフェイを恐れてたから、チビっ子に容赦ない打撃技を叩きこんでくれたよ……。
あのクソ野朗は倒れ伏した俺に唾を吐いてこうほざきやがった。
「努力すれば夢は叶うとか幻想だ。現実の厳しさと痛みを思い知れ。お前らはここで一生を終える」
俺とルァは何度も耐えきれずに脱走しようとした。
けどそのたびに捕まった。
罰はサーベルタイガーとの追いかけっこだ。
牙の生えた虎の背に乗ったフェイの怒鳴り声を思い出したぜ……。
「仙霊山はテメーらの庭じゃねーんだよ! 檻なんだよ、檻! ほら、子供は鬼ごっこが好きだろう。速く走らねーと喰われちまうぞ! ギャハハ!」
実際何度か喰われかけた。
最初に習った複体修術の大切さを痛感したぜ。
何事も基本は大切だよな。
ルァは何度も自害しようとしてたが、俺は必死になって止めた。
そして説得したんだ。
いつかフェイのクソ野朗をブチ殺そうって。
二人で固く約束したんだ。
だがフェイのクソ野朗は俺とルァの絆に目をつけやがった。
絶望感に悩まされてたルァにこう囁いたんだ。
「ルァ、辛いか? ならシウランが手抜きしてる所を俺様に報告しろ。そしたら、シウランをしばいてる間、お前は休んでていいぞ。これは告げ口じゃないぞ。お前は師範代の俺様に正直なだけだ……」
ルァは我が身可愛さに、すぐに俺を売った。
そうだな、10歳ぐらいの頃、俺とルァは口も聞かないほど仲が悪い時期があったな。
あん時はお互いいがみ合ってたな。
懐かしいな……。
おい、ルァ、泣くなよ。
あん時はお互い小さかったんだから、仕方ねーよ。
謝るなって、気にしてねーからさ。
今はな……。




