表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/113

83話 シウランの過去①

 

 夕日が水平線に沈み、空には三日月が徐々に浮かび上がり、ほの暗さと波のない海に静寂が訪れる。

 どこか不安を覚えさせるような夜の空気が周囲に立ち込めた。


 そんな不気味な夜とはお構いなしに、船内で旨そうに夕飯のウドンを啜るシウラン達。


 イズモの郷土料理にシウラン達は満悦だった。

 シウランはイズモの故郷の国に興味を持ったが、逆にイズモは俺とルァの生い立ちについて尋ねてきた。

「前々から思ってたんだが、その髪、その目鼻立ち、シウランは東方系の生まれだろう? 逆にルァの髪の色に顔立ちは北方系だ。生まれは違うのに姉妹みたいに仲が良いな。不思議なもんだ」

 シウランとルァは顔を見合わせ、そういえば話忘れていた、というような顔をした。

 シウランがウドンをすすりながら、答える。

「前話さなかったか? 俺もルァも戦災孤児だ。今の師匠に拾われて、一年前まで、仙霊山って世界のどこにあるかわからねーような辺境で暮らしてたんだ。あまりにしごきが辛れぇから、二人でバックれて、そこにある転移魔法陣で帝国に辿り着いたんだ」

 ライエルが首を傾げる。

「ルァならわかりますけど、シウランなんて修行とか、体練に励みそうなイメージがあるんですけど……。そんなに辛かったんですか? スラムで暮らすよりも?」

 ルァが深く溜息を吐く。

「スラムの暮らしなんて、あそこの地獄に比べれば天国だわ。言っとくけど、脱出の言い出しっぺはシウランよ。私はもうあそこで朽ち果てると覚悟してたわ……」

 デーヴァがキョトンとした顔をしてシウランを見る。

「シウランが? メンタルケアは必要ですか? 常人よりも強い精神力を持ってそうなのに……。物理的にも、精神手にも逃避行動を取るなんて、よほど辛かったのでしょう」

 キアがシウランを慰めるように鳴く。

「キューン……」

 シウランはキアの頭を優しく撫でて、感慨深そうに話し出した。

「ああ、マジ辛れぇ日々だったよ……。あそこに拾われるぐらいなら、貧しい修道院か、どっかの軍隊の特殊施設で育った方が楽だったぜ……」

 シウランが昔話しをしようとすると、普段なら優雅にハッパ吸っているであろうルァが両手で肩を抱き、ガクガクと震えだし、真っ青な顔で俯いてしまっていた。

 シウランはそんなルァの背を優しく撫でて、抱きしめる。

「大丈夫だ、ルァ。ここは海の上だ。もう怯える必要もねぇ。師匠もクソ師範代もここにはいねぇし、追っ手もこねぇ。大丈夫なんだ。いいぜ、話すぜ。俺達の生い立ちを……」

 

 

 シウランは記憶を遡り、物心がついた幼少期のことを思い出そうとしていた。

 そして語り始めた。




 俺やルァがガキの頃、遊んだ記憶がさっぱりねぇ。泥臭さと血汗が染みる匂いでいっぱいだ。

 そうだな、最初に思い出したのは荷車だ。

 俺はニュークに来て、ウマが荷物や荷台を引っ張ってるのを見て、驚愕したんだ。

 そうか、重い荷物はそう運ぶものなのかとな。

 俺達がまだ乳歯が取れてもいない頃、何してたかわかるか?

 荷車だ。

 人里から何百里も離れてる所まで、百人分の一週間の食材を荷車が軋むほど山ほど積んだ量をだ。

 俺とルァは人力で引いてたぜ。

 後で知ったんだけど、人力車って言うらしいな。

 そんな幼い歳で買い出しできるかだって?

 勿論、クソ師範代が代わりに買い出してたよ。

 けどよ、運ぶのは俺とルァだ。

 あのクソ野朗は荷車に乗りながら、小っちぇ俺達の背中にこれでもかと鞭を叩いて、こう抜かしてやがった。

「クソガキ! 遅ぇ!! もっと速く走りやがれ! これ以上もたついてたら、病気で死んだことにして、そこらに埋めるぞ!」

 あの野朗急勾配の坂道でバシバシ鞭を振るいやがる。

 実に嫌な奴だったぜ。

 髪の毛を中途半端に金髪の染めて、チンピラみてぇな見た目してたな。

 俺とルァが必死こいて荷車引いてる時に、居眠りなんかしてやがった。

 それを見てルァが手を抜こうとすると、容赦なく鞭を叩きこみやがる。

 アイツ、そういう隙は見逃さねーんだ。

 ルァが限界の時はルァの分まで俺が頑張った。

 二人で乗り越えたんだ。

 けどよ、信じられるか!?

 俺とルァが必死こいて運んだ荷車に積んだ食材をあのクソ野朗はつまみ食いしやがった。

 しかもこう抜かしたんだ。

「俺は見てた。あのクソガキ共がやったんだ。やっぱり孤児は意地汚ねぇ」

 俺とルァは門下生に袋叩きにされた。

 けどあのクソ野朗には当時逆らえなかった。

 なんでも師匠が俺達を育て上げたら、免許皆伝くれてやるって言ったらしくてな。

 アイツは快諾した。

 そして俺とルァに向かって宣言した。

「途中、稽古の事故でガキ二人が死ぬのはこのご時世よくあることだ。そうなりゃもっと早く免許皆伝が貰える。悪いがお前ら二人は殺すつもりだからな」

 まだチビっ子だった俺達二人の前で道場に生えてる巨樹を片手で軽く引っこ抜いて、木の枝みたいにぶんぶん振りまして、脅しやがった。

「お前らの頭蓋骨を引っこ抜くのなんて、いつでもできることを忘れるな。クソガキ共。お前らは俺の手の平の上だと覚えておけ」

 

 まだ幼かった俺が最初に見つけた目標はこのクソ野朗をブチのめすことだった。

 最初は闘志と殺意に満ち溢れたのを覚えてる。

 けど、それが絶望的まで不可能だと理解したのは、その大樹を次々とまるで草むしりするみたいに引っこ抜いて、目にも止まらぬ速さで、薪割りをした時だった。

 素手で大木をバターみたいに切断したんだぜ!?

 最初の熱い決意はそれでガラガラと音を立てて崩れたぜ……。


 あのクソ野朗の名前?


 忘れもしねー。

 フェイだ。


 俺もルァもその名前を生涯忘れることはないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ