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82話 ルァと白い粉

 

 赤道近くの炎天下の中、大海原の波を裂き、シウラン達を乗せたシャイン号はベンガルの領海であるインダス海を航行していた。


 靡く風と戯れながら、甲板の端でルァは優雅にハッパを吸う。

 先日ボンベイの街の売人から、しこたま仕入れた高級なハーブだ。 

 健康志向のシウランとは違い、ルァはハッパをこよなく愛す。

 ルァが甲板にいるのは、口煩いイズモに船内で喫煙するなと叱られたからだ。

 しかし、ルァはこっそりトイレやキッチンでバレないようにハッパを吸う。

 もはやハッパ中毒者だ。

 ルァも禁煙なんてする気はない。

 だがルァの嗜好品であるハッパはダウナー作用があり、気持ちをリラックスさせたり、落ち着くには最適だが、ルァは最近何か物足りなかった。

 もっと気分を高揚させるアッパー系のモノをルァは欲していた。

 そして売人から貰ったボンベイ名産のコナを袋から取り出し、思案する。

 

 あの売人は合法だけど、一度吸ったら最高にキマるって言ってたわね……。

 

 ルァは以前、薬の調合実験でコナを精製したことがあった。

 試しに吸ったら意識が飛び、気付いたら全裸で踊り狂っていた。

 それ以降、ルァはコナには抵抗を覚え、手を出すことはなかった。

 しかし船旅の日常は想像以上に退屈だ。

 持ち場の仕事を終えた自由時間を持て余していた。

 ルァには刺激が足りなかった。

 イズモの嘘臭い武勇伝を聞くのも、シウランの愛猫トークも、デーヴァの眠たくなるような船の取扱い説明もうんざりだった。

 それに外国産の、しかも裏社会御用達の売人の名産のコナに好奇心をくすぐられた。

 ルァは周囲に誰もいないことを確認し、甲板の床にしゃがみ、トントンとコナを床に落とし、それを顔に近づける。


 ちょっとぐらいいいわよね……。


 ルァという人間は基本的に欲望に忠実だ。

 未知の快楽という誘惑に抗えなかった。

 床に落とした粉末の山を整った小さな鼻腔に近づける。

 そして一気に勢い良く鼻からコナを吸い込んだ。

 コナはルァの鼻腔から口内、気道を通り、それを肺へと送り込む。


 刹那、ルァの身体が全力で拒否反応を起こした。

 思わずルァの口から白煙が飛び出す。


「ボヘァアアアッっッ!!」


 ルァは盛大に咽せて、何度も咳をし、周囲に白い粉末を撒き散らした。

 全身が真っ白になった。

 すると、イズモとシウランが船室から出てきて、偶然それを目撃してしまう。

 シウランは相棒がとうとうそこまで堕ちてしまったかと絶望した表情をする。

 しかし隣にいるイズモは粉末の匂いを嗅いで、懐かしむような顔をしていた。

「おや、俺の故郷のウドン粉じゃないか、これは。というか、ルァ。お前、ウドン食べたかったのか? ウドンは粉じゃ食べれないぞ」

 イズモの言葉にシウランはホッとする。

「なんだ腹が減って、食べ間違えたのか。ルァがババァみたいに真っ白になって、とうとうヤベェモンに手を出したのかとビビっちまったぜ」

 ルァは何か言いた気そうな顔をしながら全力で咳き込む。

 口から白い吐息を吐き出し、涙目になりながら痛感した。


 あの売人!

 私を騙したわね!


 全身、白い粉まみれになったルァがもがき苦しむ。

 そしてルァはもう二度とコナには手を出さないと心の底で誓った。


 その後、イズモは嬉しそうにウドンを打つ。 

 その日の夕飯にルァ変わった食感の麺を啜った。

 非常に残念そうな顔しながら。

 そして夕飯後にハッパで一服して、物想いに耽る。


 認めたくないものね。

 若さゆえの過ちというものは。


 優雅に振る舞ってるルァだが、単なる愚か者である。

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