81話 グッドラック
クロエの報奨金は破格であった。
金銀の財宝をシウラン達に惜しみなく受け渡した。
その光輝く金塊の山を目の前にし、シウラン達は思わず息を飲む。
しかし、その殆どがシャインの燃料になってしまうことを、ルァは心の底から嘆き、涙を流した。
ハンター組合お抱えの船でシウラン達はクロエ達に別れの挨拶をしていた。
そのまま逃げ出そうとするライエルをシウランとルァは捕まえ、羽交締めにする。
「僕なんて海で役に立たないし、故郷に帰りたい! 陸での生活を満喫したいんだ! 先輩と女の子達を紹介してくれる約束だってしたんだ!」
シウランがライエルの首を絞めて、怒鳴る。
「やかましい! お前がいなきゃ古代語の解読ができねーだろうが! 俺たちゃサンハーラって古代大陸目指してんだ! 忘れるんじゃねぇ!」
ルァがハッパを吸いながら、ライエルを罵る。
「案外薄情な男ね。小さなネムが今も意識不明の重体なのに、ほっぽり出すなんて。貴方がいなきゃネムは助からないの自覚しなさい」
シウランとルァの言葉を聞いて、ライエルはハッとした顔になる。
そうだった。
この船旅はそれが目的だったんだ。
海の過酷さ。
ストレスの溜まる人間関係で頭が一杯だった!
そう、ライエルは馬鹿である。
旅の目的を忘れていた愚か者なのだ。
そんなライエルにハンターの先輩であるクロエが告げる。
「ライエル……。まだまだ根性が足りないわね。シウラン、貴方達が鍛え直してあげてくれないかしら?」
シウランがライエルを掴み上げ、景気良く答える。
「おう、任せてくれ! スラム流にビシバシしごいてやる!」
「貴方達を雇って正解だったわ。私達だけじゃ今回は切り抜けられなかった。本当にありがとう」
ルァが溜息を吐きながら返答する。
「しつこい海賊共を一網打尽にしてくれたら良かったんだけど。まぁ一匹は始末できたからせいせいしたわ」
イズモが首を傾げる。
「そうか? またさらにお前ら恨まれちまったんじゃないのか? しかしこれからベンガル王朝のインダス海に入る。しばらくは燕の海賊も手出し出来んだろう」
シウランが疑問を口にする。
「なんでだ?」
イズモの代わりにクロエが疑問に答える。
「ベンガル王朝は軍事強国なのよ。海軍も強力なの。少なくともベンガルの領海は安全よ。それに東の海は幇の海賊の縄張りよ。燕の海賊達はこないだのオークションで大陸中の海賊に喧嘩売ったから、しばらくは貴方達に構ってられないんじゃないかしら」
ルァが嘆息する。
「案外オークションの件で奴等が暴れて、マフィアの連中ビビったかもしれないけど……」
ニヤついたシウランがルァを小突く。
「なんだよ、らしくねーな。お前までビビったのか?」
ルァがハッパを深く吸う。
「笑えない冗談ね。あんな海賊共、私の水魔法にかかれば海の藻屑にしてやるわ」
相棒の頼もしい言葉にシウランは屈託なく笑う。
そんなシウランを見て、クロエが声をかける。
「もしベンガルに寄るなら、あそこは武の国だから、定期的にトーナメントを開催してるわ。腕試しに出てみたらどう?」
その言葉にシウランは目を輝かせるが、ルァがシウランの耳をつねる。
「寄り道する暇なんてないわよ。早く航海を進めなきゃいけないの、私達は」
そんな二人のやり取りを見てクロエはクスリと微笑む。
「東の果ての大瀑布までの地図を渡しておくわ。それとこれを受け取って」
クロエは結晶状の水晶を手に取り出した。
シウランが尋ねる。
「なんだ、新種の宝石か?」
「違うわ、魔道具よ。転移石って言うわ。昔の馴染みが困った時に使えって渡してくれたものよ。貴方達の船旅の無事を願って渡しておくわ」
「使うとどうなんだ?」
「知らないわ。私、そいつが嫌いだから、使おうと思ったことないもの」
「嫌いな奴の贈り物を今まで大事に持ってたのか……」
シウランの指摘にクロエが複雑そうな顔をしてしまう。
「そういえば不思議ね……。なんでこんなもの大切にしてたのか……。なんか呪いの効果でもあるのかしら……」
ルァはハッパを吸いながらぼやく。
「いくら嫌っても、大事な人だったんじゃないの。シウランだって大嫌いな師範の胴着、今も着てるわ。私は脱走した時、ソッコーで捨てたけど。」
クロエは感慨深そうな表情で水晶をシウランに手渡す。
「そうね。あんな奴でも大切な仲間からの贈り物だったわ。それじゃシウラン、旅の幸運を」
シウランは水晶を握り締め、力強く答える。
「ありがとよ! 絶対に東の果て、誰も知らない大陸に辿りついてみせる。そして眠り姫を夢から覚ましてやるぜ!」
かくして短い間であったがハンター、クロエと共に戦い、燕の海賊の魔の手から苦難を乗り切ったシウラン達。
彼女達は再び大海原を駆け、旅を再開した。
しかしシウラン達は知らない。
燕の海賊、ルーファウス達が書きたくもない転生恋愛小説の執筆で、腱鞘炎に苦しみもがき苦しんでいることを。




